第57話 ……え? 何その不穏な感じ。
宿泊施設の外に出れば、一学年全員が集まっていた。
全員俺たちを待っていたらしい。
ご苦労。
そう思っていたら、浦住のジト目が向けられてきた。
「おー。遅いぞ梔子ぃ。まさか忘れていたんじゃないだろうなあ?」
「まさかですよ、はははっ。俺も楽しみにしていたんですから」
「ならよし」
ちょろいぜ。
あっさりと俺のことを信じた浦住にグッジョブサインを心の中から送る。
まったく教師として役に立たねえくせに、こういうときは役に立つんだな。
褒めてやるよ。
「じゃあ、もう一度簡単に説明するぞぉ。肝試しのルートだ」
浦住から肝試しのルールが説明される。
森の中の決まった細い道を歩いていき、最奥にある祠からテープを取って戻ってくるというもの。
途中リタイアもできるので、適宜配置されている教師に申告すること。
四組いるので、それぞれ違うルートを歩くこと。
こういったことが説明された。
……夜の森なんて歩いて大丈夫なのか?
熊は出ないだろうが、野犬とか出たらどうするんだ。
しかも、ライトが貸与されるとはいえ、夜の暗い森とか絶対に歩きづらいし。
……肝試しってそもそも何が面白いの?
全然面白くないんだけど。
スタートと同時にリタイアって大丈夫?
「ペアで行くことになるから、くじ引きだ。クラスごとに分かれてくじを引いて行け。ペアの交換はなしだ。長引くしキリがない」
浦住の言葉にきゃあきゃあと騒ぐクラスメイトたち。
それに対し、俺は絶望していた。
えぇ……。
迷ったふりして部屋に戻ろうと思っていたのにペアかよ。
扱いやすい奴が相手だったらいいな。
うまく話しに乗せて途中リタイアに持っていこう。
『とにもかくにも部屋に戻りたいんだね、君』
うん。
「さあ、梔子くん。君の番だよ」
「ああ、ありがとう」
いつの間にか白峰がくじの入った箱を持って前に立っていた。
すでに、俺は最後の方らしい。
白峰や俺とペアになれなくて残念がる声が聞こえる。
……白峰の人気の方が高いのは納得いかん。
絶対俺の方がイケメンなのに。
俺は憮然としながら箱の中に手を伸ばす。
とにかく、面倒くさくない奴で頼む。
自己主張をほとんどしない陰キャとか最高。
サービストークしてあげちゃうくらい最高。
間違っても隠木みたいにうるさい奴はダメだし、綺羅子なんて最悪の最悪だ。
まあ、いくら何でもそんなことはありえないんだが。
「えーと……4番か」
『また不吉な数字を……』
くじを開いて数字を見る。
確か、同じ数字の奴とペアだったよな?
周りを見渡しても、俺に近づいてくる奴はいない。
つまり、まだ出ていないのか?
俺がくじを引いたのもだいぶ後だったから、もう残っている奴なんてほとんど……。
「あら、4番ですわ」
お、出たか。
さて、いったいどんな奴が……。
……ですわ?
ゆっくりとそちらを向いて……相手も、ゆっくりと俺を見ていた。
そこにいたのは、綺羅子だった。
「「――――――」」
『二人してこの世の終わりみたいな顔は止めなよ……』
◆
肝試しから戻ってきた女子生徒たちが、きゃあきゃあと楽し気に声を上げている。
白峰や俺と同じペアになれなかったのは残念がっていたが、いざ遊ぶと誰がペアでも関係ないらしい。
まあ、ほとんど女子高みたいなもんだしな。
男とペアになれなかったからといって、不機嫌になるような奴はいないのだろう。
むしろ、ペアになったからこそ露骨にテンションを下げている者もいるほどだ。
まあ、俺と綺羅子なわけだが。
「……なんであんたなのよ」
死んだ目で俺を睨んでくる綺羅子。
こっちのセリフだわ。
「俺が先にくじを引いたんだ。つまり、お前が俺を引き当てたんだ。全部お前が悪い」
「ふざけないで。あなたが数字を変えればいいだけの話だったでしょう」
「俺は神か?」
現実改変できる奴なんているわけないだろ!
いい加減にしろ!
綺羅子とコソコソねちねち攻防を繰り広げていると、呆れた様子の浦住がやってくる。
「おーし。次は梔子と黒蜜の番だ。さっさと来い」
うわぁぁぁ。
マジで面倒くせええええ。
「あ、あの、何だか体調がよろしくない感じで……」
「私も! 私もです!」
とりあえず悪あがきをしてみると、後ろから俺の背中に乗っかりながら綺羅子も追随する。
食い気味に言うな!
俺の言葉が遮られているだろうが!
浦住はそんな俺たちをじっと見ると、やれやれと首を横に振った。
「それほど元気なら、我慢できないってほどじゃないだろ。肝試しという行事も、将来に振り返ればいい思い出になるだろう。なに、歩くだけだ。適当にしてこい」
おおん!?
体調が悪いって言っている生徒を教師が無視してどうすんだよぉ!
『いや、君たち子供のことを考えて言ってくれているんでしょ。人生の先達が』
ちょっと早く生まれただけで何を偉そうに。
ぶっ殺すぞ。
浦住はじっと俺たちを見ていた。
その濃い隈のある目は、いつも以上に無機質だった。
「―――――楽しんで来い。悔いが残らないようにな」
それだけ言うと、浦住はさっさとどこかに歩いて行った。
……え? 何その不穏な感じ。
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