第5話 お前殺人犯だな
「ま、待――――――!」
とっさに同僚の女を止めようとするが、間に合わない。
人の大きさほどの火球が、二人の少年少女に向かって放たれた。
彼らは、ある程度の荒事を許容される。
たとえば、警察は一発の銃弾を撃つだけで大変なことになる。
ニュースにもなるし、始末書などでかなりの時間を費やすことになるだろう。
だが、彼らは違う。
国家の管理を離れた特殊能力者というのは、危険だ。
超常現象も引き起こすことのできる特殊能力者は、説得だけではどうにもできないこともある。
それゆえに、対象が反抗的であったり抵抗した場合は、自身の特殊能力を行使することができる。
「(だが、相手は子供だぞ!)」
相手はまだ高校にも入学していない子供だ。
確かに、反抗的な部分は見受けられたが、自分たちの欲望をありのままに吐き出すような危険人物でないことは、会話をしていて明らかだった。
駆け落ちというのは自分勝手な行為と言えるだろうが、しかしそれはお互いを想いあっていたがゆえのこと。
男は、二人に対して好感を覚えていた。
そんな二人に対し、同僚の女は危険な特殊能力による攻撃を行ったのである。
ヘタをすれば、致命傷になりかねない危険な攻撃を、だ。
確かに、あの二人には特殊能力があることは確認されている。
だが、一度もそれを行使していないのだ。
自分の特殊能力が何なのかすら、理解できていないだろう。
そんな無知な子供たちに、訓練を受けた特殊能力者が攻撃を仕掛けるのは、明らかに過剰だった。
「逃げ――――――!?」
無駄だろう。
どれだけ声を張り上げても、この攻撃から彼らを救うことはできない。
それが分かっていて、なお男は忠告をしようとした。
見れば、彼らは立ち替わり立ち替わり前に出ようとしている。
それは、どういうことか?
「(ま、まさか、お互いがお互いの盾になろうとして……!)」
相手を思いやるがゆえに、たとえ自分が傷ついて命を落とそうとも、相手を守ろうとするのだ。
これが、どれほど尊いことか。
子供なのに……いや、純粋な子供だからこそだろうか?
とにかく、男はそんな二人の利他行為に感動した。
そんな彼らが傷つくことが、許せなかった。
しかし、無情にも凶悪な火球が二人に迫り、そして……。
「――――――は?」
その火球が、掻き消えたのである。
焼死体とまではいかなくとも、大やけどを負うのは間違いないような攻撃だった。
だというのに、一歩前に出た少年――――良人が、手をかざして無傷で立っていた。
その後ろにいる少女――――綺羅子も無事だ。
同僚の女が自省して攻撃をキャンセルしたのか?
そう思って彼女を見るも、彼女こそ呆然としていた。
その様子から、女が自分の意思で攻撃を消したのではないことが分かった。
だとしたら……。
「これが、彼の特殊能力か……!?」
これだけでは詳細は分からないが、鍛えられた女の攻撃を無力化した。
攻撃の無力化。
それは、非常に強力な特殊能力となる。
そんな力を、男が使える。
これは、非常に珍しいことだった。
「なっ……!?」
驚愕はそれだけにとどまらない。
良人の後ろに隠れていた綺羅子が、身体をさらした。
そして、手を掲げる。
すると、そこに赤い力の奔流が溢れ出したではないか。
それは徐々に形作っていき、最終的には男もよく知る武器になった。
「や、槍……?」
それは、真っ赤な槍だった。
目に毒なほど、赤々しく、毒々しい。
初めて使うはずなのに、最初から力の使い方が分かっていたように、綺羅子は槍を一回りさせる。
そして、次の瞬間、深紅の槍が投擲された。
それは男たちの前の地面に突き刺さり……すさまじい爆発を引き起こした。
男の記憶にあるのは、そこまでである。
宙を飛びながら、浮遊感を味わいつつ意識を飛ばすのであった。
◆
俺と綺羅子。
二人して、目の前の惨状を見る。
地形が変わり、倒れ伏す黒服たち。
特殊能力を行使する敵とも戦えるほど鍛えられた国家公務員が、倒れている。
そう、それを為したのが、俺の後ろで呆然と突っ立っている綺羅子である。
俺たちはスッとお互いを見た。
……え、なにこの空気?
何とも言えない空間が広がる。
とりあえず、この状況を打破するため、俺は彼女に現実を告げた。
「お前殺人犯だな」
「!?」
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