第110話 こんな無理やりな展開なんですか!?
「なんで?」
「今の話を聞いてその言葉が出てくる方がなんでだよ」
俺と綺羅子はにらみ合う。
お互い自分のことしか一切考えていない。
俺はいいけどお前はダメだろ。
俺のことを第一に考えろや。
「あんたの【現実改変】で扉を直さないと世界が滅ぶのよ?」
「別に俺、別世界でも普通に生きていける自信があるし……。せっかくダンジョンの中にいるから、今がチャンスじゃね?」
ダンジョンは平行世界に行くための道であると、今寄生虫……藍田から聞いた。
まったく意図せずダンジョンの中に潜むことになっているが、今こそチャンスではないだろうか?
まあ、ダンジョンのどこが平行世界につながっているのかが分からないので、やみくもに動く羽目になるのだが。
今は魔物がうじゃうじゃしているものだから、それはやりたくない。
「だいたい、そんな立派な扉を直そうとしたら、どれだけ負担があるんだよ。痛いの嫌なんだけど」
【現実改変】は万能で何でもできるというわけではない。
あまりにも都合のいい世界を作ろうとすると、その負担で俺が死ぬ。
特殊能力が露見しなかった世界を作り出そうとしたら、数日ぶっ倒れたのだ。
別世界から襲い来る魔物を完全に封じ込めることができる扉なんて、直そうとすればどれほどの負担があるのか。
俺のためならまだしも、名前も知らないその他大勢のために、そこまでやるつもりは微塵もなかった。
いや、頭痛いくらいで済めばまだマシだが、頭がバーンとなったらどうしてくれる。
世界を呪うぞ。
「多少の痛みで私が救われるのであれば、やるべきでしょ?」
「どうして当たり前のことなのに……みたいな目で見るの止めてくれる? 全然当たり前のことじゃないんだけど」
俺が綺羅子のために不利益を被るなんてことは、あってはならない。
断じて認められることではない。
「そもそも、この世界が残ったとしても、お前は紫閣家の御当主様になられるんだから、どっちにしても地獄行きだろ」
「逃避していた現実を突きつけないでもらえるかしら!?」
掴みかかってくる綺羅子。
うるせえ! お前の居場所は紫閣家のトップって決まってんだよ!
大人しく重圧と重責の渦に飲み込まれてしまえ!
しっかりと二の足をつけられている状況ではないため、簡単に引きはがすことに成功する。
きたねえ手で触んじゃねえよ、ぺっ。
「さて、帰るか」
『えぇっ!? あんなに長々と重要な話をしたのに、結局扉を直さずに帰っちゃうの!?』
驚愕の声を漏らす藍田に、俺も驚きを禁じ得ない。
当たり前だよなぁ?
別に話を聞きたいなんて一言も言っていない。
こいつが勝手にペラペラと話し始めただけである。
しかも、聞く限り、扉はダンジョンの奥にある。
今もダンジョン内は魔物が跋扈していて危険度マックスなのに、そんなことできるはずもない。
『君の特殊能力があれば、この世界だけじゃなく、他の平行世界すらも救い出すことができるかもしれないんだ! まさしく、世界すべての救世主となりうる人材が、君なんだよ!』
「だとしたら、人選を間違えているな」
「それはそう」
うんうんと頷く綺羅子。
それはむかつくからやめろや。
『神の悪ふざけで君に【現実改変】が付与されたんだから仕方ないじゃないかぁ!』
「おい。悪ふざけって言うのは言い過ぎだろ」
額に青筋が浮かんでいるのを自覚する。
だいたい、俺が神に作られたとか、ありえるわけねえだろ。
なんで神が上みたいな言い方してんだ。
俺だ。俺が上なのだ。
俺の上に人も神も存在しない。
「ともかく、他人のために俺がそんな危険な思いをするつもりは毛頭ねえよ。悪いが、全世界の人類を滅ぼそうとするやばい奴らと、一切かかわりたくないからな」
「それもそう。というか、私も平行世界で普通に生きていけそうだし、ここにいたら紫閣家に囚われるし、いいことは何もないわね。私も脱出しよう」
『ちょっと二人とも!?』
どうやら綺羅子も考えを変えたらしい。
俺としては、この世界で苦しむこいつを見たいので、ぜひとも残っていただきたい。
「そんなわけだ。いろいろと頑張った結果がこうなったのは残念だが、諦めてくれ」
「さてと、後は魔物の様子をうかがって、いい感じに脱出するか。ちょっと準備してから、別の世界に行こう」
「付き合うわ」
「来んなや」
押し合いへし合いをしながら、外の様子をうかがう。
さて、とりあえずこんな陰気臭い場所にずっといたくもないので、とりあえず外へ……。
そう視線を向けた時、目とあった。
もちろん、綺羅子とは違う。
クラスメイトたちもいないので、必然的に魔物ということになる。
それは、俺たちをダンジョン内に移動させた、強制移動魔物くんであった。
い、一匹だけじゃなかったんですね。
「「…………」」
『めっちゃ目が合ってるね……』
俺と綺羅子、そして渦の魔物が固まっていると、藍田のそんな声が聞こえる。
だが、それは間違いだ。
合ってない合ってない。
きっと気のせいだと思う。
俺はそう信じている。
お前もそうだろう?
そういう意図を込めて渦の魔物を見れば、彼も目をパチクリと瞬きをしてくれた。
凄い、通じ合った。
人類と魔物、初めて仲良くなったぞ。
『めっちゃ吸引されているけど!?』
されてないされてない。
鉄柱みたいに掴むものがないから今にも吸い込まれそうとか、そんなことはない。
「綺羅子! 踏ん張れぇ!」
「無理無理無理無理!」
役立たず!
「ぬああああああああああああ!?」
俺たちはあっけなく、スポンと渦に吸い込まれたのであった。
「いてぇ……」
「くらくらするわ……」
はじき出されたそこは、太陽の光があった。
つまり、外である。
え? あの魔物、いい奴じゃん。
俺は久しぶりの外の世界に、思わず感動してしまう。
この温かい日差し。
なるほど、ナナシが執拗に日向ぼっこに行く理由が分かった気がする。
俺もこれから少しはそういうことをしていこうと思った。
そして、新鮮な空気を吸おう。
ダンジョン内は、魔物どものゴミみたいな匂いしかなかったしな。
俺は目いっぱい深呼吸する。
ああ、これが外の空気だ。
鉄っぽく、生暖かい、血の匂い。
……血の匂い?
俺は目を開けば……そこは死屍累々の世界でした。
剣の魔物の時以上の、死屍累々。
死体死体死体死体。
転がっているのは、すべて人間の死体だ。
建物などもすべて粉々に破壊され、ここに文明があったのかと思うほど、更地になっていた。
そして、転がっている中には、顔見知りがあった。
白峰、隠木、グレイ、浦住、黒杉。
自衛隊や特殊能力者に混じって、倒れていた。
それは、俺みたいに大して知識がなくとも、命がないとすぐにわかるような状態となっていた。
「なんだ? まだ生き残りがいたか」
それを為したのが、悠然と立っている二足歩行をした人型の魔物だった。
ありえないはずの、言葉を介していた。
うーん……。
『あ、知性ある魔物だ』
こんな無理やりな展開なんですか!?
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