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第106話 最前線やんけ……

 










「いやぁ、しっかしどうすんだ、これ?」


 俺は呆然と立ち尽くしながら、考える。

 目の前に広がるのは、死体だ。


 先程えぐい死に方をした剣の魔物もそうだが、自衛隊員たちの惨殺死体もある。

 超ショッキング。


 俺や綺羅子のように、他人のことを何とも思わない人間だからこそ平気な光景だ。

 普通の倫理観を持っていれば、嘔吐したって何も不思議ではない。


 俺たちはまったくそんなことないけど。

 ただ、状況説明とか面倒くさいなあとは思っていた。


「なんだかすごい音も聞こえてくるし、たぶんこの魔物だけじゃないんでしょうね」


 綺羅子の言う通り、銃声や怒声、悲鳴や爆発音。

 俺が聞きたくないすべての効果音が響き渡っていた。


 この魔物以外にも、大量に現れているのだろう。

 もしかしたら、その騒ぎに乗じて暴徒も襲ってきているのかもしれない。


 めっちゃ関わりたくない。


「まったく、どうなってんだ。ここ、安全な後方じゃなかったのか? いつの間にか前線に放り出されていたってわけじゃないだろうな?」

「で、どうする? 多分、クラスメイトも今戦っているんでしょうけど」

「ふっ、決まっているだろ」


 綺羅子の問いかけに、俺は意味深に笑う。

 答えなんて、もう決まり切っている。


 一応聞いてきてはいるが、綺羅子もそうだろう。


「――――――待機だ」

「同感ね」


 コクリと頷き合う。

 逃げはしない。


 ぶっちゃけ、逃げる場所がない。

 どこに行っても地獄だろう。


 だから、待機である。

 ここは後方だ。


 そこを潰されたら、最前線で戦う戦闘員に補給すらできなくなるから、必ず援軍が来る。

 それまで、隠れて待っていればいいのである。


「しかし、本当どうしてこうなったんだかな。こいつら化け物がいきなり後方に来られるような能力でも持ち合わせているのか? そんなのを意識的に使おうとされたら、人類なんてあっさり敗北するぞ」

「もうほとんど負けているようなものなのにね」


 よく分からないのは、最前線を飛び越えて、魔物がここに押し入ってきたということである。

 別に最前線を突破されたわけではないだろう。


 戦線に投入されているのは、自衛隊の精鋭と強力な特殊能力者たちだろうから。

 だから、前線を飛び越えて自在に現れることのできる魔物が出てきたと考えた方がいいだろう。


 そんなものがポンポンといたら、絶対に負ける。

 今でも、この後方が押しつぶされそうになっているのだから。


「さーて、缶詰でも食べてもばれないだろ。頑張ったご褒美に宴会だ」

「私も私も」


 まあ、俺には関係のない話である。

 どうせこんな混乱していたら、多少貰ってもばれないだろう。


 宴会気分で、おいしそうな缶詰をあさる。

 しかし、綺羅子が追従してこようとするので、くぎを刺す。


「お前は何も頑張っていないから、石でもかじってろ」

「じゃああなたをかじってあげるわ。がるるるっ!」

「うわぁっ!? 何だこいつ!?」


 いきなり飛びかかってくる綺羅子と激しい戦闘を繰り広げる。

 お前マジで今回何もしてねえだろ!


 誰かの応援に行けよ!

 そんな感じに取っ組み合っていると、ふと綺羅子からの力が弱くなる。


 なに? まだ噛みついていないというのに、こいつが手を緩めることなんてありえない。

 どういうことだ?


「……ねえ。あれがなに?」

「うん?」


 指をさす方を見れば、へんてこなものがいた。

 空中に浮かんでいる渦だ。


 グルグルと、台風のように渦巻いている。

 もちろん、台風は巨大すぎて見えないのだが。


「……渦、ですかね?」

「まずあんなのがあるっていうこともおかしいけど、それに加えて目があるっておかしいわよね?」


 綺羅子の言う通り、ギョロリとした目があった。

 渦に目が浮かんでいる。


「……魔物、ですかね?」


 シュゴオオオオ!!

 直後、凄まじい音を立てながら、その渦が回る。


 同時に辺りのものが、あれに一気に引きずられ始める。

 ま、周りのものを吸収しているのか!?


「うおおおおっ!? 掃除機タイプの魔物だったかぁ!?」

「あそこに吸い込まれたらどうなるの!?」


 そこそこ大きなコンテナやトラックもあの中に吸い込まれていく。

 明らかに質量がおかしいことになっているのだが、吸い込まれてからは戻ってこない。


 うーん、なるほど……。


「ミキサーじゃね?」

「いやああぁっ! 良人がそうなるのは見たいけど私は嫌ぁぁぁ!」


 こいつ、なんてことを……!

 俺と綺羅子は近くにあった鉄柱に捕まっていた。


 おそらく、電波塔なのだろう。

 まあ、用途はどうでもいい。


 これが、俺を救う命綱だった。


「吸引力つよっ!?」


 マズイのは、この吸収力がとてつもなく高いことである。

 ぶっちゃけ、宙に浮き始めている。


 腕の力だけで抗うのは、正直かなり厳しい。

 クソ! 俺がムキムキマッチョマンだったら……!


「ちょちょちょちょっ! 本当にマズイわ! もう支えられない!」

「はええよ!」


 俺より体重が軽い綺羅子は、もう完全に足が浮いている。

 そして、鉄塔を掴む腕はプルプルしている。


 ああ、そうか。

 俺と綺羅子のいがみ合いは、ここで終わるのか。


 綺羅子の死をもってして。

 俺は、彼女に今まで見たことがないような、安らかで包み込むような笑顔を見せた。


「まあ、今まで鍛えてこなかったとか、サボってきたとか、自業自得だよね。すまんな、綺羅子。お前がもうちょい肉付きよかったらあの魔物を満足させられたかもしれないが、その貧相な身体でも満足させて、この吸引を止めるようにしてあげてくれ」


 食欲を満たせば、この吸引が一時的かもしれないがなくなるかもしれない。

 それにかけるしかない。


 よし、綺羅子。死んでくれ。

 そして、遂に鉄塔から彼女の手が離れ……。


「旅は道連れ世は情け!」

「何してんだお前ぇっ!?」


 俺の腰にしがみついてきた!?

 空中で曲芸みたいなことをしやがった!


 何が、旅は道連れだ!

 黄泉への旅に道連れにしようとしてんじゃねえ!


「離せ! 俺も二人分のことを支えられる腕力はない!」

「私が死ぬならあなたも一緒に来い!!」

「くそ! なんでこんな覚悟の決まった主人公みたいなことを……! やっていることは最低なのに……!」


 俺の腕にかかる負担が一気に増える。

 いくら軽いとはいえ、人間の体重だ。


 数十キロもあったら、普通に重い。

 綺羅子を見るが、こいつは一人で死ぬ気はさらさらなさそうだ。


 もう自分のことは諦めているが、せめて俺も引きずり込む。

 そんな強い意志を感じた。


「蹴るぞ! もうお前の顔面蹴って突き放すぞ!?」

「はぁっ!? 私の美貌になんてことをするつもりなの!? 世界の宝と言っても過言ではない私の顔は、誰であろうと傷つけることは許さないわ! 傷つけたらちゃんと責任取りなさいよ!」

「責任、俺が一番嫌いな言葉の一つだ」

「うるさい!」


 すると、腰を掴んでいた手を、危険なのに動かして、俺のわき腹に……!?


「あひゃひゃひゃひゃっ!? ば、馬鹿、お前こんな時に腋をくすぐる奴が……!」


 綺羅子はとにかく俺を苦しめたかったのだろう。

 目先の利益に集中して、大事なところを見失っていた。


 多くの人間は、わき腹を他人に触られたら笑ってしまう。

 それは、俺も例外ではない。


 そうすると、力が入らなくなり……。


「「あっ……」」


 パッと手が離れる。

 そうすると、もちろん俺も綺羅子も魔物に吸い込まれていって……。


「何やってんだお前えええ!!」

「いやあああああああああ!!」

『……本当、何やってんだろ、この子たち』


 そして、その場には誰もいなくなった。










 ◆



 渦に飲み込まれた先は、胃袋ではなかった。

 俺の懸念のとおり、ミキサーでもなかった。


 広がるのは、見慣れた土色の閉鎖的な空間。

 俺はそれを認識すると、びっしょりと嫌な汗をかいた。


 思わず、隣にいる綺羅子に問いかける。


「…………で、ここどこ?」


 チラリと見れば、顔を真っ青にして冷や汗を大量に流している綺羅子。

 おそらく、俺も同じような感じなのだろう。


 そして、奴は重たい口を開いた。


「…………ダンジョン、みたいね」


 最前線やんけ……。




9月5日に書籍第1巻が発売されますので、よろしくお願いいたします!

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