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第105話 死ぬ展開に飽きてきた

 










 なんでこんなところに魔物がいるんだ!?

 目の前の凄惨な光景に、良人の頭はめまぐるしく回転する。


 あまりにも衝撃的なことを受けると、頭が真っ白になるというが、彼はそれには当てはまらない。

 なぜなら、そうしてしまうと自分の命の灯が消えてしまうからである。


 目の前の、自衛隊員を大量殺戮したこの魔物を前にぼーっとしていたら、殺してくれと言っているようなものである。


「(ともかく、この魔物がどうしてここにいて、どうやって自衛隊員を皆殺しにしたのかはどうでもいいことだ。とにかく、ここを切り抜けなければ)」


 冷や汗を滝のように流しながらも、頭は非常に冷静だった。

 冷静に綺羅子を囮に逃げようとしていた。


 とはいえ、彼女を置いて背中を向ければ、おそらくバッサリと身体を両断されることになるだろうと予想した。

 綺羅子は非常に強い特殊能力を持っている。


 絶対に壊れないとされていたダンジョンを破壊できるほどの攻撃力を誇る【爆槍】は、目の前の凶悪な刃物だらけの魔物をも倒すことができるだろう。

 だが、戦い方は知らない。


 ただ力を振るって押し付けることしかできない。

 今は亡き自衛隊員たちの方が、はるかに訓練も積んでいて練度が高いだろう。


 つまり、時間稼ぎにもなりはしないのである。

 役立たずめ。


 良人は内心で唾を吐いた。


「シャアアアアアアアア!!」


 腕がそのまま巨大な剣になっている。

 それをぶつかり合わせ、ガキンガキンと耳障りな高い金属音を打ち鳴らす。


 両手足が剣であり、血や臓腑が付着していることから、それで自衛隊員たちを切り刻んだのであろう。

 しかし、戦闘音がほとんどなかった。


 銃を発砲している音も聞こえなかったことから、一瞬で彼らは惨殺されたことになる。

 そもそも、魔物と戦闘をしている最前線からは離れたこの場所に、どうやってやってこられたのか。


「あれか?」


 身体が剣でできている魔物の背後に、渦のようなものがあった。

 あれは現象か?


 いや、目がついていることから、あの不可思議なものも魔物であることが分かる。

 あの魔物も何かやっているのか?


 授業は受けたくなかったが、やたらと浦住が当ててくるために、良人は魔物の種類も割と詳しい。

 しかし、この二つの魔物に関しての情報はまったくなかった。


 つまり、今まで人類が遭遇したことのない、新種の魔物だった。


「ギギギギキシャアッ!」


 耳障りな声を上げる魔物。

 やはり、逃げようにも手段がまったく思いつかない。


 仕方ない。ここは負担が怖いから使いたくはないが、【現実改変】の力を使うことにした。

 とりあえず、目の前の魔物たちには消えてもらおう。


 強力無比な特殊能力を使おうとして……。


「はやっ!?」


 目の前に一瞬で現れた剣の魔物に、唖然とする。

 なるほど、このスピードか。


 足が剣という明らかに動きにくいであろう構造をしているのに、目にも止まらぬ速さ。

 これでは、自衛隊員たちも抵抗する暇すら与えられず、惨殺されるわけだ。


 そんなのんきなことを考えながら、良人は四肢と首を見事に飛ばされ、大量の血を噴き出すのであった。










 ◆



「もう自分が死ぬ展開に飽きてきたことに危機感を覚える」


 そして、確実に致命傷……というか、即死していたはずの良人は、当たり前のように五体満足の状態で立っていた。

 もう死んでから蘇ることが、至極当たり前のような感覚さえしている。


 ここで不思議に思うかもしれないが、どうしてこんなにも自分の死というものをこの男が受け入れているのかということだ。

 紙で指を切ったときでさえ発狂寸前のすさまじい叫び声をあげるのが、良人である。


 死という生物にとっての最大最終の極大イベントを、平然と乗り越えられるはずがない。

 理由は簡単で、この男はいまいち自分の死というものを理解していないのだ。


 なにせ、彼は今まで殺された時、死に方としては理想的なまでに即死している。

 つまり、痛みを感じる暇なんて微塵もなかった。


 そのたびに【現実改変】が作動して後遺症一つなく蘇っているため、死というものがとてつもない苦痛を伴うものだということを、この男はすっかり忘れているのである。


「俺、死んでから生き返った選手権だったら、絶対世界ランク一位だと思うんだ」


 だから、こんなバカなことを真剣に言うこともできるのだ。

 そして、これには剣の魔物も唖然として動けない。


 何か不可思議な力が働いていると警戒して当然だろう。

 実際、そうなのだ。


【現実改変】という、あまりにもチートな能力がある。

 それは、死という生物にとって避けられない絶対的な運命も、たやすく塗り替えることができる。


 ただし、ズキズキとすでに頭が痛みだしている。

 ヘタをすれば、脳が破裂してしまうのではないかと、良人は顔を歪めている。


「……心臓に悪いから何度も死なないでくれるかしら?」

「俺にどうしろと。あの化け物に言ってくれ」


 非常に不機嫌な様子の綺羅子に首を傾げる良人。

 なぜ自分が死ぬことで心臓を悪くするのかと不思議で仕方ない。


 自分のことしか基本的に考えていないので、他人の気持ちを思いやるという小学生でもできることをできないのがこの男であった。


「よし、綺羅子。【爆槍】使ってインファイトだ」

「無理無理無理無理。コンマ1秒も持たないわ。さっさと便利な特殊能力を使いなさいよ。存在抹消よ」


 高速首振りおもちゃと化した綺羅子。

 瞬殺される自信があった。


 とりあえず、危ないことは良人に押し付けることにするが、もちろん彼も綺羅子に押し付けるつもりである。


「いや、マジで頭痛いんだわ。後遺症えぐいんだわ。一回、特殊能力開発学園に入学したことをなかったことにしようとしたら、マジで大変だったから」


 ちなみに、これはやりたくないからついている嘘ではなく、マジである。

 この男、【現実改変】という特殊能力が生まれたと知ってダンジョンから脱出してから、身体への負担が大きいからやめた方がいいという忠告も完全に無視し、嬉々として自分がここにいなかった現実に改変しようとしたのである。


 事実を一つ変えるだけでもそれなりに脳に負担があるのに、過去を変えて、それに辻褄を合わせるように世界を書き換えるようになんてすれば、想像もできないほどの負担が襲い掛かるのは当然だった。

 絶対そうなると脳内の言葉に言われていてもなお理想の世界に向かって突き進んだ顛末は、綺羅子も十分に承知していた。


「失禁&失神して部屋でのたうち回って数日意識不明になっていたものね」

「し、失禁はしていない。止めろ、変な風評を広げるのは」


 白目をむいてビクンビクンしながら倒れていた良人を見た時は、思わず笑ってしまったものである。

 どれほどの苦痛だったのかは想像できないが、まあかすり傷一つで発狂する男である。


 とはいえ、数日寝込むというなかなかの重傷だったため、負担はかなり大きいのは事実なのだろう。


「でも、過去の経緯とかじゃなくて、結果を変えるくらいならまだマシなんでしょ。あれを殺さないと、私も死ぬわ。さっさとしてちょうだい」

「え、それは別にいいんだけど……」

「いいわけないだろ」


 真顔の綺羅子にちょっとビビる良人。

 確かに、また身体をバラバラにされてはかなわない。


 綺羅子の【爆槍】が当たれば倒せるだろうが、目にもとまらぬ速さで動けるあれに、槍を当てられるとも思えない。

 良人は仕方なく、また祈る。


 なんかいい感じに死ねぇ、と。


「ギャッ!?」


 そして、決着はあまりにもあっさりと、あっけなくついた。

 油断していたとはいえ完全武装の自衛隊員を複数人瞬殺した凶悪な剣の魔物は、なすすべなく超常の力によって粉砕される。


 鉄をも切り裂くことのできる鋭利な身体の剣は、すべて粉々に破壊された。

 次に胴体がありえない挙動でねじ曲がっていく。


 空中に強制的に浮かび上がらせ、雑巾を絞るように。

 全身から血が噴水のように噴き出し、そして最期にはグチャリとねじ切られ、地面に落ちた。


「ぐおおおおおお!? あったまいったい!!」

「……ほんとチートね、チート」


 悶えながら転げまわる良人を見て、綺羅子はポツリと呟くのであった。




9月5日に書籍第1巻が発売されます。

特典SSについて、活動報告にありますので、ぜひご確認ください!

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