第一話
意識が戻る。どうして意識を失ったのかわからないが、どう考えても強制ログアウトされたのだろう。菊谷さんには恨み言の一つや二つ行ってやらねばならない。
そう思って、目を開けて第一声をあげようとした瞬間、光が入ってくる。それもどこまでも澄み切った青空だ。そして下を見てみると簡素で無地な服と少しシワのあるジーパンのようなズボンを着ていた。
「どういう事だ?もしかしてこれが実験中の!?」
どう考えてもおかしい。フルダイブ型VRMMOは、完全な形でゲームにダイブできる。だがしかし所詮はVRゲーム。現実と変わらないほどの画質や五感ほどの感覚は再現できない。
しかし、現在の光景はどうだ?
現実と何一つ変わらないほどの視覚に新鮮な空気を肌で感じる事ができるほどの嗅覚。服を着ている事がはっきりわかるほどの感触に加え、喉の渇き、現実での鳥のさえずりとほとんど変わらないほどの音が聴こえる聴覚、全てが現実と大差がなかった。
「クソッ!!どういう事だ!?こんなに現実と大差ない五感を再現できるようにするにはかなりのデータ量とそれを処理する事ができる機器を用意しないといけないはず!!いくら企業といえど、これほどのものができるなんて……」
そんな事をブツブツ呟くうちにとある気配に気づく。そう何かの足音が聞こえたのだ。しかもゆっくりではあるが確実に足音がこちらに近づいてきている。
「何だ?もしかして獣とかモンスターか?勘弁してくれ……」
現在の彼は服とズボンなどの衣服以外には何もない。今の状態で何か有れば無事には済まないだろう。
そして草むらから出てきたのが、
「ガルルル!!」
「何!?モンスターだって!?」
それはオオカミをさらに大きくし額にツノが付いたような見た目をしていた。さらに巨大な牙を持っており噛まれたらひとたまりもない。
「来んじゃねぇ!!近よ寄るな!!」
モンスターに話が通じる訳もなく、
「グルルル……ガウ!!」
ついに突進してきた。
「クッ……!」
彼は、目を閉じる。しかし
「ガッ!?」
モンスターの一撃がこない。
「おりゃあああ!!」
グサッ
「キャウン!!アオーン!!」
目を開くとモンスターはもう去っていた。
そして、すぐそばには見慣れない顔立ちをした人が立っていた。
「大丈夫かい?」