帰りたくない
日が落ち始めた頃。
「殿下、もうすぐ18時ですよ。」
野営の疲れを癒すには短時間の昼寝であったが、殿下はこの後国王や王妃と話をしなければいけないし、やることが多い。それに、この体勢は私得ではあるが、殿下が休まる体勢ではない。
「あぁ。起きた時にツェルがいるのは悪くないな。」
「…今度からはベッドで寝てください。近くで見てるようにしますから。」
この人は子供か。
「それだと、お前が寝れないだろ?」
さも不思議というふうにいう。
「…た、しかに、先程は私も寝ていましたがっ!私は殿下ほど疲れてないです。」
「引きこもりは少しでも動いたら疲れると、以前言っていたな。」
…確かに言ったことはあるが。
「よく覚えていましたね。それ、初対面の時ですよね。」
「俺は記憶力がいいからな。」
しばらく、じっと殿下を睨む。
「私はもうそろそろ家に帰らなくちゃいけないと思うので、帰ります。」
ただでさえ、戦争について行ったことで機嫌を損ねている。帰ったら、父親に拷問されるだろうな。
「…もう帰るのか。」
「はい。残念ながら。」
「…攫ってやろうか?俺は王太子だし、女一人匿うことぐらい出来るぞ。」
「殿下!そしたら誰が王妃になるんです?引きこもり体質ではありますが、仕事はちゃんとするつもりです、私は。」
「王妃は最悪いなくても…あぁ、子供は産んで欲しいが。」
「こ、こ、か、帰りますっ!明日、8時に来ますから!」
「…そうか。」
カッコいい癖に捨てられた子犬みたいな顔をしている殿下を置いて、早々に部屋を出た。
(…帰りたく、ないなぁ…。)
長い間、ストレスのない環境にいたために、帰るとなると、相当ストレスだ。
「…あ。」
考えこんで歩いていると、廊下の先の方に、マリッサが見えた。
(…今日は婚約者とは一緒じゃないのか。誰かに用があるのだろうか?)
「あ!!いらっしゃったわ!!」
突然、マリッサは声を上げると、こちらにずんずんと歩いてきた。
(え?私?)
「ツェル様!!」
「…マズルカさん。お久しぶりです。」
ずいぶんと急いでいたのか、息が上がっている。
マリッサは赤の長いスカートのドレスを着ている。よく見ると裾に草がついているので、外に出てまで私を探して戻ってきたのか。何故…?
「探したわ!どうしても話さなくてはいけない事があって…!」
緊急の用事なのだろうか…。
早く帰らなくてはならないが、走って探したのに後にされるのは気の毒か。
「とりあえず、場所を移しましょう。」




