聖女の事情(語り手:アキ)
8月の初めに、私は自殺したはずだった。
人の少ない日に、学校の屋上から飛び降りた。
「聖女様だ!」
「神が聖女様を遣わせて下さった!」
しかし、飛び降りた先にあったのは地面ではなく、湖だった。
どうやら私はこの異世界では聖女らしい、と悟った。
「どうか、王国の力になってくれないか!?」
いかにも異世界と言った感じのお城で王様に謁見し、助けを請われた。
「…特に前の世界に未練も無いんで、いいですけど。」
とはいえ、私ほど聖女と役割が似合わない女もいないだろう。
見た目は髪が綺麗な以外はギャルだし。
いや、前の世界にはいたか。私の何倍も残酷で、最低な奴が。
「…アキちゃん、大丈夫かしら?」
「聖女様というともう少し神聖なイメージがあったけど、ボーッとしてる女だな。」
「ちょっと、バルト!」
そういえば、この世界は、元の世界と同時に時間が流れているわけではないらしい。
「…麻里沙先生。」
聖女として、王城で王に謁見した時に、私の自殺を止めようとして死んだだろう高校の教師にそっくりな令嬢に会った。
…というか、本人の生まれ変わりだった。
私は死んでこの時間軸に来たのに、同時に死んだはずの
先生はずっと前からこの世界に存在している。
「マリサ?」
「…璃ちゃん、ここでは私はマリッサよ。」
「この王国の学園って、どうなんですか。」
今度の9月から、私はこの世界の学園に通うことになるらしい。しかも私より年上だった先生と同学年として。
「建物がすごく立派なの!異世界感があって素晴らしいわよ!後は、魔法の授業はすごく楽しいし…。」
そう言うことを訊きたいわけではない。
「いじめはあるんですか?」
「うーん、王国の宝である聖女に対していじめをする人はいないと思うわ。…たぶん。」
「…いじめ自体はあるんですね。」
「…うん。学園内と言えど、この国には貴族制度があるから。」
「…序列は嫌いだけど、虐めはもっと嫌い。聖女の権力を行使して虐めする人全員死刑にできないですかね。」
「…アキ殿、それはやりすぎだ。それと、聖女のイメージに関わってくる。」
ルドルフ・マクミリアン。先生の婚約者らしい。
「いじめは犯罪としていいと思います。王子様なら、そういうこと考えたり…考えもしないか。」
「…学園では貴族院と庶民院でクラスは分かれているからカーストによるいじめは少ないが派閥争いや貴族同士の揉め事の結果のいじめは多い。そう言ういじめを犯罪として片付けると、犯罪者の境界を決めるのは難しい。法を変えるより、ハブられた令嬢のバックに聖女がついた方がよっぽど解決に繋がる。」
「…。」
もし、そうして私もいじめられたらどうすれば良い?
でも、そんな弱いことを言うのは情け無い。
かっこ悪い。
ふとした時に思い出す大嫌いな声、顔を連想させる。
『…なんで私がこんなことしなきゃなんないの!?死ねばいいのに!!』
あの女みたいにかっこ悪い弱音を吐いたりしない。
私は、自立した、まともな人間なのだから。
「学園生活が楽しみです。」




