密室と蜜蜂
ショッキングな内容を含む作品です。
気づいたら俺は知らない部屋にいた。
その部屋の中央には養蜂箱が置かれている。
蜜蜂たちは部屋の小さな小窓からひっきりなしに出入りしていた。
水道がある。
トイレもある。
けれども冷蔵庫がない。
この部屋には食料がなかった。
一通り、部屋からの出口を探して絶望する。
どこからも出られそうにない。
入口の戸は固く閉ざされ、てこでも開きそうになかった。
俺は焦る気持ちを抑えながら、脱出の手立てを探る。
ふと、テーブルの上に目をやる。
筆記用具が置かれていた。
トイレにはペーパーの予備もある……。
俺はあることを思いついた。
ペーパーに助けを求めるメッセージを書き、それを蜜蜂たちに括り付けるのだ。
俺は祈る気持ちでメッセージを蜜蜂に託して送り続けた。
その十日後。
助けは来ない。
俺はひたすらに腹が減った。
何も食べるものがない。
いや……あるな、一つだけ。
俺は養蜂箱に目をやる。
あの中には蜂蜜がたっぷり詰まっている。
食べたい、はちみつが食べたい。
しかし……もし手を付けてしまったら……。
俺はここから脱出する手立てを失ってしまう。
蜂蜜を食べたい衝動を抑え、必死にこらえ続けた。
そして……次第に彼らに心が惹かれて行く。
俺にとって蜜蜂たちは生きる希望そのもの。
「おーい! この中にいるのかぁい?」
扉をたたく音が聞こえる。
助けだ!
助けが来たんだ!
「助けてくれ! ここから出られないんだ!」
「分かった、今扉を破るから離れていてくれ!」
なんと頼もしい言葉だろう!
数回大きな音が聞こえたかと思うと、あっけなく扉は打ち破られた。
俺がどんなに頑張っても傷一つつか……え?
「いやぁ、探すのに手間取ったよ。
本当にありがとうね」
そこには熊がいた。
熊がしゃべった。
「さぁて、蜂蜜、蜂蜜。
あっ、君は帰っていいよ」
俺を無視して養蜂箱へ向かう熊。
そして……。
「せいっ!」
熊は一瞬で養蜂箱を叩き潰した。
そして、流れ出た蜂蜜を右手で掬い取って舐めている。
腹が減った。
何も食べていない。
蜂蜜を食べたい。
あの……蜂蜜のしみ込んだ右手を……。
「……おい」
「うん? まだいたの? 何か……」
「右手食わせろおおおおおおおおおお!」
「え? いやぁ! 熊殺しいいいいいい!」
――数時間後。
「はぁ……おいしそうだ」
俺は皿に盛られた料理に舌なめずり。
ナイフをフォークで切り分けて口に運ぶと、深い味わいが口に広がる。
咀嚼するごとに脳に幸せがあふれて行く。
これが……これが蜂蜜の味。
また食べたいな。
この小説はくまぽ様からリクエストを頂きました。
リクエストありがとうございました。