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非電子ネットワーク

作者: マイユズキ

この物語はフィクションです。私が見た夢にインスピレーションを得ています。すごく長くて、楽しい夢。多分、近未来が舞台でした。手に何にも持っていないのに ネットみたいに情報をやり取りできる世界。夢の中で次は何が起こるのだろうと、わくわくしていました。目が覚めた時、夢だったことが残念でした。すぐにノートと鉛筆で 起こったことを書き留めました。夢の面白さは充分に書き残せませんでしたが、小説にしようとすぐに決めました。

小説とも呼べないような拙い作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

 時は2055年。テレビや新聞の人気は高画質動画サイトや電子書籍にほとんど奪われ、しかし紙の本や雑誌は根強い人気を誇っている。

 桜の咲き始めた頃、柚黄小波音(ゆずきこはね・17歳)は電気を使わずにエネルギーを利用する新たな技術を開発。電子機器を使わずに情報をやりとり出来ることが可能だという論文を夏に発表する。天才女子高生として一躍有名になり、世界からも注目される。とりわけ美人とはいえないが、魅力的な笑顔がインターネット上や出版物を彩った。新しい技術が魔法のようだとされ、一部ネット住民は彼女をを「魔法少女コハネ」と呼んだ(多くの流行語と同じく、すぐに飽きられる運命を辿る)。


 2065年、秋風が体に沁みるようになった頃。27歳の小波音はノーベル物理学賞を受賞。日本人女性初のノーベル賞受賞者となった。


 2075年、夏。小波音の論文から20年経ち、NoEN(Non-Electronic Network、非電気ネットワーク、通称ノエン)と呼ばれるシステムが実用化され、コンピュータやインターネットは過去のものと言われるようになる。NoENを使うことにより誰でも簡単に、しかも手ぶらで世界中と繋がることができる。食事や旅行などの予約も手軽に出来るようになる。

 一方、小波音は37歳となり、娘の愛歌(あいか)も産まれ育児に追われていた。夫の亀井武士(かめいたけし)は新聞記者で、小波音とは取材の際に知り合ったのだが、二言目には「仕事」といって家にはほとんどいない。


 2085年。テレビ、PC、スマホなどの電化製品、電子機器やインターネットに骨董的価値が出て来て、使われなくなったものが高値で取引されている。傾きかけている、かつての大企業のドメイン。覚えやすいアドレス。それを買ってウイルスサイトを作る者が後を絶たないのだが、一般の技術者たちはNoENの管理に追われ対応は遅れ、無法地帯となっている。

 47歳となった小波音はというと、すれ違いばかりの武士との離婚を考え始めていた。実は原因は武士だけにあるわけではなく、数回家に招いたことがある、彼の友人の野田洋太の人柄に惹かれ始めていたのもある。洋太は、数年前に事故で妻のサエを亡くしたと話した。その様子は本当に辛そうで、その愛の深さが伝わって来た。


 2088年。インターネットを禁止すべきという声が高まり、NoENの高い安全性を主張する賛成派と、コンピュータ愛好家などの反対派のまっぷたつに分かれていた。

 50歳の小波音は3月末日に武士と離婚、半年後に娘を連れて再婚した。幸い愛歌も新しい父親の洋太に懐いていて、真面目な顔で「もう一度再スタートだね」と言う。小波音は「もう一度だからスタートに『再』がつくのよ」と冷静に突っ込んだ。なお、小波音の姓は亀井から野田になったが、愛歌は亀井のままにすることとなった。


 2095年、春風の強い日。インターネットは研究目的などの例外を除き法律で禁止され、今度はNoEN依存症が社会問題となっている。

 57歳の小波音は人間ドックで腫瘍が見つかり、検査の結果初期の乳癌と診断された。早期発見は不幸中の幸いだが、ショックでしばらく寝込んでしまった。「おばさん」と呼ばれる年齢だが女であることに変わりはない。洋太は何も言わず、でもなるべく側にいてくれた。手術の日も仕事を早めに切り上げ、病院へ来てくれた。そして無事に右胸の癌が摘出された。片胸はなくなったが変わらず愛してくれる夫に感謝した。


 2098年、まだ寒さの残る4月。還暦を迎えた小波音は、おばあちゃんになっていた。だが愛歌は結婚した訳ではない。上司と不倫の末、妊娠してしまったのである。家族会議の末、産みたいという娘の気持ちを尊重することとなり、孫の太助(たいすけ)が産まれた。これをマスコミがどこからか嗅ぎ付け、週刊誌に掲載。NoEN上でも話題となった。


 2099年。さらなる「スクープ」が世間を騒がすこととなる。小波音の元夫・亀井武士が殺人を犯してしまったのだ。相手はなんと、事故で死んだはずの洋太の元妻・サエである。正確には、洋太は小波音との結婚が初婚で、サエとは同棲していただけだということだった。この報道に小波音も愛歌もショックと共に大混乱。真相を知ろうと洋太を問い詰めると、サエは事故で亡くなったのではなく、失踪して行方不明になったのだと打ち明けた。警察に届けを出し、自身でも必死で探したが見つからず、死んだものと思い込もうとしていたのだ。だが武士にサエを会わせたことはなく、なぜこのような事件が起こったのかは分からないという。亀井愛歌は「殺人鬼の娘」と言われ会社に居づらくなり退職を余儀なくされた。それを期に愛歌と太助は洋太の戸籍に入ることとなり、姓が野田となった。


 2100年。武士は記者の経験と勘からサエについて秘かに調べ、失踪先を突き止めたと供述。立場を隠して接近し、その後恋愛関係になったが或る日喧嘩がエスカレートし、絞殺してしまったのだという。野田家は郊外へ引っ越したこともあり、周囲に常にいたマスコミも落ち着き、太助もすくすくと成長。言葉を話すようになった。


 2105年。論文の発表50周年である。67歳の高齢者となった小波音は体と脳の衰えを少しずつ感じていた。だが家族がいる限り幸せだと思っている。


 2115年。ノーベル賞受賞から50年。記者会見を開いた小波音はこう述べた。

「これまで心無い声も、温かい声も受けて来ましたが、いつだって理解しようとしてくれる人はいる。助けてくれる人がいる。だから生きて来られました」


 2121年2月1日。2と1が並ぶこの日に小波音は肺炎で息を引き取った。享年82歳。通夜、告別式は近親者のみで行われたが報道記者、カメラマン達が押しかけた。洋太は「自分のせいで妻や娘を苦しめたのかもしれない」とむせび泣きながらコメントした。自分がいなければ武士とサエが出逢うことはなかったのではないかと毎日自分を責めていたのである。陰から見ていた愛歌は膝から崩れ落ちた。大人になった私、太助はただ見ているしかなかった。

いかがでしたでしょうか。

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