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ホリン ~怪物の暴動~  作者: 土屋俊太
6/6

最終話 覚醒

ルーグは自動車を走らせていた。

彼は森林に囲まれた小道を抜けて隠れ家にたどり着くと車を停めた。

月明かりが木々の間から差し込み、梟の声が静かに鳴り響いていた。

ルーグは車から降り家のドアを開けた。

バウヴが玄関に倒れていた。

ルーグは屈み込みバウヴの首に手を当てた。

バウヴは銃で撃ち抜かれすでに息絶えていた。

マハが階段の脇に倒れていた。

ルーグは階段を駆け上がった。

ネヴァンが寝室へと続く廊下に倒れていた。

ルーグは廊下を駆け抜け寝室のドアを開け放った。

モリガンは手足をロープで縛られベッドに横たわっていた。

ルーグはモリガンに歩み寄り彼女の頬に触れた。

「モリガン…モリガン!」

モリガンは目をゆっくりと開けルーグを見つめた。

「ルーグ…」

「モリガン、君を迎えに来たんだ。この家は危険だ。すぐに出よう」

涙がモリガンの頬を伝った。

モリガンはかすれた声で言った。

「逃げろ」

「え…?」

「私から…離れろ」

「何を言ってるんだ。すぐにロープを解くからな」

「違う。腹だ…腹を見ろ」

「腹が痛むのか?」

ルーグはモリガンが着ているバスローブの襟を開いた。

手術痕がモリガンの腹に刻み込まれていた。

ルーグはモリガンの目を見た。

「何だ、これは…!?」

「爆弾だ」

「爆弾…?」

ルーグは言葉を失った。

モリガンは最期の力を振り絞るように言った。

「早く…逃げろ…逃げてくれ」

爆弾は何の前触れもなく作動した。

家の窓ガラスが爆発音と共に粉々に吹き飛んだ。


マナナーンは草原の木漏れ日の下でルーグから受け取った手紙を読んでいた。

サヴァはマナナーンの側で膝を抱えて座っていた。

小鳥が木の枝に止まってさえずりを上げていた。

フィンはフリスビーを投げ、マッハがそれを追いかけた。

サヴァはフィンを見つめながらマナナーンに言った。

「ねえ、マナナーン。私なんていない方が良いんじゃないかしら」

マナナーンはサヴァを優しい眼差しで見下ろした。

「何でそう思うのかね?」

「私のせいでフィンの人生をめちゃくちゃにしてるような気がするの」

マナナーンは笑った。

サヴァはマナナーンを見上げた。

「何で笑うのよ?」

「いや、私にはわざとそうしているように見えていたんでな」

サヴァは顔を脚にうずめた。

「そうだけど…違うのよ」

「何が違うのかね?」

「それが分からないのよ」

マナナーンは笑みを浮かべた。

「サヴァよ、それは恋というものではないのかね」

「え…こ、恋!?}

「そうだとも」

「ありえないわ! だってフィンは人間だもの。しかもまだ子供なのよ?」

「妖精と人間の少年が恋をする。素晴らしいおとぎ話じゃないか」

「そ、そうなの!?」

「ああ」

「じゃあフィンにもその気があるということかしら!?」

「さあ…それはどうかな」

「え、何で?」

「フィンにも女の子の好みってものがあるはずだからな」

「わ、私のことを好きになれないとでも言うの!?」

サヴァは側に咲いていた花をつかんで揺さぶった。

「そんな…許せない!」

マッハはフリスビーをくわえてきてフィンに渡した。

フィンはマッハの頭をなでた。

「よおし、偉いぞ」

フィンがフリスビーを再び投げようとした先に少女が立っていた。

彼は驚いて少女に駆け寄った。

「君…どこから来たの!?」

少女は何も答えなかった。

フィンは言った。

「僕はフィンっていうんだ。君の名前は?」

「名前…?」

少女は何かを思い出そうとするように遠くを見つめていた。

「私…ディアドラ」

「ディアドラ?」

ディアドラはうなずいた。

フィンはディアドラの手をつかんだ。

「おいでよ。妖精を見せてあげる」

「妖精…?」

「うん、君だったら見えるかもしれないよ!」

フィンとディアドラは手をつないで歩きだした。

そよ風が吹き、草花が波打った。

ディアドラはフィンの横顔を見つめてほほえんだ。


ダーナの親族は神殿の祭場で円卓を囲んでいた。

ヌアザは祈りを捧げていた。

「ルーグは天に召された」

ダグザは口笛を吹いた。

「親父、やるじゃねえか」

「ディアンを殺した罪は重い」

「それにしてもあの馬鹿…地下牢なんかで何してたんだ?」

「詮索は無用だ」

「まあそんな事はどうでもいいけどよ。ホリンの奴は本当にくたばったんだろうな?」

「知りたいか?」

「知りたいね」

ヌアザは聖書に手を置いた。

「ホリンの魂は人々の罪を背負っていたのだよ」

「あん…?」

「彼は神として人々に崇められるだろう」

ダグザは耳をほじった。

「何だかよく分からねえ話だな」

「お前はもっと聖書を読んだ方がいい」

「はいはい。ところでマナナーンの奴はどうするんだ?」

「もちろん始末する。裏切り者は魂までも砕かなければな」

ダグザは高笑いをした。

「親父を敵に回すとおっかねえぜ」

地響きが起き、祭場が揺れ出した。

ダーナの親族は静まり返った。

ダグザは立ち上がって叫んだ。

「おい…何なんだ!?」

ヌアザは目を見開いた。

「まさか…!」


ルーグは静波号と呼ばれる船に乗っていた。

トーリー島の近海の波は穏やかだった。

ダーナの神殿は跡かたもなく吹き飛んでいた。

黒煙が赤い空に向かって立ち昇っていた。

ルーグは爆弾の起爆装置を海に投げ捨てた。

「ホリン、見ているか。絶景だぞ」

ルーグの顔は包帯に覆われていた。

バロールと呼ばれる彼の魔眼が包帯の隙間から妖しい光を放っていた。


終わり

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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