第4話 変身
人々からダーナと呼ばれる上流階級の親族がトーリー島の神殿の祭場で円卓を囲み食事を取っていた。
夕焼けが神殿の外壁を赤く染め上げていた。
ダグザは荒っぽい手つきでステーキを切り分けていた。
「ったく、どいつもこいつも何を考えてやがる」
ヌアザはパンをちぎりながらダグザに言った。
「電話は繋がらなかったのか?」
「ああ。野郎、わざとそうしてるに違いないぜ」
ダグザはワインをグラスに流し込んだ。
「あいつは信用ならねえぜ。女共を三人もはべらかして一体何をやってんだか」
ディアンが祭場に現れた。
ダグザはディアンを指差して声を荒げた。
「遅え! どこに行ってやがった!?」
ディアンは席に着いた。
「ダグザ、人には色々と事情があるんだよ」
「けっ…何が事情だ」
ディアンはヌアザを見た。
「父さん、遅れてすまなかったね」
「気にすることはない」
ダグザはテーブルを叩いた。
「親父はこいつとルーグに甘すぎるんだよ! そんなだからこいつらに付け上がられるんだぜ!」
「ダグザよ、お前はもう少し礼節をわきまえなければならん」
ダグザはワインを勢いよく飲み干し口を袖で拭った。
「説教はごめんだぜ」
マナナーンがナプキンで口を拭き立ち上がった。
「私はこれで失礼する」
ダグザはマナナーンをにらみつけた。
「おいおい、まだ早すぎるだろ」
マナナーンはヌアザを見すえた。
「ヌアザよ、お前の子供は目上の者に対する敬意も知らんようだな」
ダグザは立ち上がった。
「何だと…!?」
ヌアザはいきり立つダグザを制してマナナーンに言った。
「すまなかったな。私からよく言い聞かせておく」
マナナーンはヌアザたちに背を向けた。
ダグザはマナナーンに唾を飛ばして言った。
「てめえのことなんざ認めてねえからな!」
マナナーンは祭場から出ていった。
ダグザは椅子の背にもたれかかりヌアザに言った。
「親父、やっぱり奴も信用ならねえぜ」
「同感だな」
ヌアザはグラスを傾けワインを見つめた。
「早めに処罰せねばなるまい」
満月が夕闇に浮かび上がっていた。
人々はダーナの神殿があるトーリー島から海を少し隔てた所にある都市の交差点を行き交っていた。
信号が赤に切り替わってもホリンは交差点の真ん中に立っていた。
自動車がホリンの後ろから近づくと運転手が窓から身を乗り出して彼に怒鳴りつけた。
「おい、あんた! 死にてえのか!? さっさとどきな!」
ホリンが運転手を振り返ると運転手は姿が変わっていくホリンを見て顔を強ばらせた。
「な、何だ、お前…!?」
赤枝騎士団と呼ばれるヌアザ直属の精鋭部隊の団員がダーナの神殿の祭場に駆けつけ敬礼をした。
「皆さまにご報告がございます!」
ヌアザが手招きすると団員は彼に駆け寄り耳打ちした。
ヌアザはダグザを見た。
「ダグザよ、絶好のタイミングだぞ」
「何だ…?」
ヌアザは立ち上がりダーナの親族に向けて腕を広げた。
「皆、聞いてくれ! ついに審判の時が訪れた!」
ダーナの親族はどよめき顔を見合わせあった。
ヌアザは声をいっそう張り上げ拳を振り上げた。
「心配はいらない! 我々は必ず勝利する!」