第3話 殺意
ルーグは車の後部座席で田舎町の風景を眺めていた。
マハは運転席に座り、ネヴァンは助手席に座り、バウヴはルーグの隣に座っていた。
バウヴはルーグに言った。
「フィンは元気そうでしたね」
「ああ」
「やっぱりルーグ様のことを覚えてなかったんですかね?」
「だろうな。エウェルが死んでから会っていなかったから」
電話が鳴った。
バウヴは電話を懐から取り出した。
「ダグザ様からです」
「放っておけ」
「そういう訳にも参りません」
ルーグは腕を組んで窓の外をまた眺めた。
バウヴは電話に出た。
「はい」
ダグザのだみ声が電話から漏れてきた。
「おい、ルーグはいるか!?」
「いえ…私も探している所です」
「あの野郎、もう会議は始まるんだぞ! 一体どこをほっつき歩いてやがるんだ!?」
「見つかりしだいご連絡致します」
「もういい、あの馬鹿者が!」
電話が切れた。
バウヴはルーグを見た。
「宜しかったんですか?」
「構わん。どうせ身内だらけのくだらないパーティだ」
バウヴは口に手を当てて吹き出した。
「パーティですか?」
「ああ。税金を使って飲み食いしてるだけだよ」
「それだったら私も出てみたいですね」
「止めた方がいい。国民に知れたらひんしゅくを買うぞ。何よりダグザが汗臭くて飯なんて食えたもんじゃない」
バウヴたちは笑い声を上げた。
ルーグは眉を寄せた。
「冗談で言ってるんじゃないんだぞ」
バウヴは涙を拭った。
「やっぱりあなたは変わってますね」
「そうか?」
「そうですよ」
車は橋を渡っていった。
ルーグは頭を押さえ目を閉じた。
「もう少しの辛抱だ」
バウヴはルーグを見た。
「はい?」
「モリガンが悲しんでいる」
バウヴはネヴァンと顔を見合わせた。
「なぜ分かるんです?」
「分かるんだよ。不愉快な気分だ」
「大丈夫ですか?」
血の涙がルーグの左目から流れこぼれ落ちた。
バウヴは口を覆った。
「ルーグ様…!」
ルーグは拳を握りしめ窓の防弾ガラスを殴りつけた。
バウヴはルーグの腕を抑えた。
「ルーグ様、お止めください!」
ルーグが頭を窓に打ちつけ始めるとマハは車を急停止させた。
ネヴァンが車からすぐに降りてルーグのいる後部ドアを開けた。
ルーグが道路に倒れ込む前にネヴァンは彼を抱き止めた。
バウヴも車を降りてネヴァンに抱えられているルーグの肩に手を置いた。
「ルーグ様、大丈夫ですか!?」
ルーグは血の涙が流れる左目を大きく見開いて遠くを見ていた。
「殺す」
「え…?」
「殺す…必ず、殺す」
ルーグは口が裂けるような笑みを浮かべた。
「愚か者共め、せいぜい余生を楽しむがいい」