~冒険者ギルト到達 波乱の幕開け~
こう言ってはなんだけど、せめて、もっと、予備知識があるようなやつが、呼び出された方が良かったとおもう。例えば、オタク友達のキタモトとか。あいつなら、嬉々として、この世界を何の躊躇いもなく、生きていけただろうに。
一般的なRPGゲームはやったことはあるが、最後まで出来たことはない。キタモトに貸して貰った漫画や小説を読ませて貰っていたが、正直、キタモトの説明の方が、面白かった。
オタクだが、陽気でいいやつだった。初対面は、定番のカツアゲにあっていたキタモトを助けてやった時。保育園の迎えに向かう最中に、柄の悪い他校生徒に絡まれる絵に描いたようなオタク。ぶっちゃけると、邪魔だったからだ。あと、理世が見てしまったら、教育的に悪い。早々に潰すべきだと考えた。あれからあいつと、つるんだ。
キタモト、お前なら、この時、どうする?
半ば、遠い目をしながら、我が妹を見る。
本当、どうして、こうなったのか。
冒険者ギルトは、看板があって、直ぐに見つけられたことは、良かった。
今回はとりあえず、登録だけして、依頼内容を確認して、武器屋に行き、何かを見繕えば、いいな。よし。
朝が早いから、疎らかと思えば、数人の冒険者らしい人間がちらほら、いた。筋肉隆々の勇ましい猛者のような出で立ち。扉が開いてから、此方を見てくる不躾な視線。幼児を連れた子供。異様に見えただろう。
「ガキだ。」
「あれだろ。奉公だろ。依頼じゃねえ?」
ヒソヒソ話す冒険者たちの横を通り抜け、受付に向かう。作業をしていた受付の人が振り向く。
「おはようございます。ご依頼ですか?」
「おはようございます。いえ。冒険者登録をしたいんです。」
「え?」
受付嬢は目を丸くする。本気?と目で言ってるが、頷いた。
「腕に多少、覚えがあります。出来れば、妹やこの子も身分証明代わりに欲しいところではありますが、まだ幼いので、とりあえず、僕だけ、登録したいんです。年齢制限とか、ありました?」
「いえ。実質、年齢制限はないんです。冒険者は、何をするにも、自己責任がつきます。…暗黙の了解で、十五才以上の方々の登録が常識になってますが、もちろん、十五才以下の年齢で、登録してる方々もいますよ。」
「例えば、この二人はまだ四歳ですけど、登録をすることは、可能と言うことですか?」
「ええ。出来ますが…登録した時のランクが一番下のFクラスになりまして、ポイント制度になります。Fクラスから一つ上のGクラスになるには、二百ポイントが必要となります。これは、個人…ソロで活動をする場合がこちらになりますね。」
「ソロ?」
「ええ。グループで活動するパーティーメンバーと言うのが、複数で所属してる方々を指します。お節介かと思われますが、あなたたちは、こちらで登録された方がよろしいかと思います。Fクラスが一番下のクラスになり、Gクラスになるには、ポイントが四百ポイントが必要になりますね。」
なるほど、ならば、パーティーメンバーとして、二人も加入させた方が良いのか。
受付嬢の説明によると、
ソロもパーティーメンバーとして加入しても、そんなに変わらないが、パーティーメンバーで、例えば、何かしらの脱退や引退に関して、ソロ活動する場合には、過去のデータから算出されたクラスになること。もちろん、平均的なパーティーメンバーの実力ばかりではなく、実力に差があるようなパーティーメンバーだった場合に関しても、精査されるそうだ。ギルトカードは特殊で、一番始めに血を採るらしい。ギルトカードには、全ての記録が残り、どういった戦闘力か、不正かないか、機能がついてる。
以前、不正の横行が多く、間違ったランクで任務につき、命を落とした輩が、多かったらしい。それを防ぐために、ギルトカードを作り替えた。
冒険者稼業を甘く見た結果だろう。
冒険者にもルールはあり、冒険者同士の私闘禁止。犯罪行為。殺し、窃盗による犯罪行為を行った場合には、当たり前だが、ギルトは、責任負わない。怪我や死亡に関しても同じく。まあいちいち、ギルトのせいにしてたら、キリないしな。
これ等のルールを破れば、除名。
「登録料に三人なので、銀貨八枚お願いします。」
「わかりました。」
銀貨八枚を渡す。二人に、少し、血を採るから、痛いかも知れないと、言うと、注射か?と他人に見せられない顔をする妹に直ぐに終わるからと宥める。顔、しわくちゃ。人差し指の腹を針で小さく、刺しただけ。
理世は、この世の敵かと言うほど、顔をしかめていたが、頑張ったと頭を撫でる。響は、チクッとしたはずなのに、ちょっと痛いねと余裕だったようだ。頭を撫でる。
「こちらがギルトカードになります。紛失には、お気をつけて。再発行には、同じく、銀貨八枚になりますので。」
「ありがとうございます。」
無くされたら、困るな。二人のは、とりあえず、預かるか。
出る前に、依頼を見ていこう。
掲示板に向かうと、あらゆる依頼の紙が無差別に貼られている。えーと。
「おいおい。お前たち、マジで、冒険者登録したのか?」
こんなに悪役面いるか?岩男のようにごつく、人相が極めて悪いし、ワイルドを目指してるのか?タンクトップに迷彩柄のズボン。冒険者とわかる出で立ちだ。しかもお付きも、似たり寄ったり。
「ええ。」
「悪いことは言わねえ。やめとけ。命がいくつあっても、たりーねえよ。なあ?」
「ああ。一捻りで、一発。」
ゲラゲラ笑い出す集団。受付嬢が此方を心配そうに見ている。優しい人なのだろう。
「金に困ってんのか?いやわかるぜ。奴隷落ちは避けたいかも知れんが、最低限の生活は送れるぜ。命の保証も一応あるしな。」
「そのちっこいのは、女だし、顔はまあ微妙だが、売れる…ぶへえ。」
理空がスキンヘッドを殴り飛ばす。あまりにも早かった。息をするように、響は、理世の目を塞いだ。
「あ?」
理空には禁句がある。妹をバカにするな。至って、真面目で常識的である理空の弱味は、実妹の理世のことだ。キタモトが立派なシスコンだと言うが、ただの妹思いだ。まだまだ、手のかかる妹。
「これは私闘じゃない。教育的指導だ。」
指を鳴らし、背後にお釈迦様を背負う理空に口を挟めない。180を越える筋肉隆々の男どもを難なく、潰す光景は、トラウマレベルだ。
「あ?誰の妹を売るんだ。ボケ。」
チート能力がなくとも、喧嘩は強かった。ただの暴力は嫌いだ。こちらから、けしかけたことは一度もない。
二十センチは差があり、鍛えていても、筋肉がそれほど、目立たない肉体の子供に負けたのだ。
「次、同じこと言ったら、こんな程度で許すと思うな。バカども。」
ふんと二人を連れていく。
「ねえねえ。なんで、あの人たち、倒れてたの?」
「朝早いから眠かったんだよ。」
「ふーん?布団で寝ればいいのに。ね。」
武器屋に向かう。備えに憂いなし。
ギルトが近いから、いろんな武器がある。
「どうせなら、魔法全般で、ステタース平均並み以上が良かったよな。何だ。あの簡素なステタース。スキルしか見れないじゃないか。まあ。そのスキルの上達も目下の目標だな。」
手頃な剣を眺めながら呟く。二人には、護衛として、小さなナイフを渡しておいた。
「金策がマジで、先決だわ。依頼をとりあえず、こなさないと。はー。」
「お花を取るんでしょ?」
「読んでもらったツユクサとオリーブ草、探さないとね!」
どさくさ紛れに依頼を受託してもらい、取ってきた仕事。
草原に咲いてるらしいので、向かう。
あちらで見かけないほど、美しい草原。鑑定があるから、間違わないが、字の読めない二人は、絵とにらめっこ。
「これは?」
「色がちょっと違うね。」
「それは、雑草。」
理空が見ながら、採取に勤しむ。のどかな時間。
採取したものは、自分のスキルでもあるアイテムボックス。これには、最近気づいたが、三人ともにある能力らしい。良かった。珍しい能力らしいが、いるにはいるようなので、浮かない。
試しに、空間移動のスキルは何かとやってみたら、空間に今は穴を空けることが、出来て、移動出来る。今の力では、二人の背位の大きさまで、広げられた。あちらの世界に繋がらないが、試したが、無理だった。
そう簡単な話ではないらしい。
でも、この能力は便利だ。不意打ちも出来る。飛び道具や最悪、二人を脱出させることが出来るのが、わかって、良かった。
ちなみに、響は、創造魔法という変わった魔法で、何が出来そうか、試してみる。
今、野原で、回りに人はいない。
「創造魔法と言うからには、きっと、何かを作る?感じか?キタモトがいれば、わかるんだけど。」
「…何となくだけど、そのツユクサとオリーブ草で、薬が作れるような気がするよ。」
「え。」
群生地帯だっために、まだ生えてるツユクサとオリーブ草を摘んで、そこらに落ちていた小石で、円陣のようなものを描く。
その円陣に置いて、魔力を練る。
すると、光り、液体が地面に染みている。鑑定。
傷薬(小)
魔素が濃いため、他の傷薬より、治療薬として優秀。擦り傷なら瞬時に治せる。
「マジか。お前。そういや、賢者スキル要素あったわな。」
「すごーい。」
「ふふ。」
自信ありげ。材料と経験値さえ、高まれば、他の薬も作れるようになるだろうか。理世はすごーい、すごーいとはしゃいでる。
あとは、この理世の能力、テイマー。
テイマーは魔物を使役する能力だが、非常にまずい。うちの妹は、昔から、大型の動物ばかり、好きで、熊や象、カバやサイ。犬なら、シルベリアン・ハスキーが好き。鳥なら、鷹が好きである。可愛い動物を好まない。いや、普通に可愛いという感性はある。なつかない、ふてぶてしい猫が可愛いとタバコやの猫を見に行くが、一定数、好みがあるから、普通だろう。
牛の体に二頭の頭がついてる、絶対的、魔物を妹が気に入ったことなんて、些細なことだ。そう。
「頭が二個!!」
「そこじゃない!!こっち来い!」
「可愛い!」
「よく見ろ!ギョロ目じゃんか!!」
あれは牛なのか?馬なのか?全体的に深緑色の体で、特徴的なギョロとした目付き。可愛くない。あれは、鬣なのか、ふあさと靡いてる。響など、ビジュアルに引いてる。
ここは、あまり魔物が出ないエリアなのに。何故。
「仲間にするう。」
「よく見ろ!あれは飼っちゃいけません。馬なのか、牛なのか、わかんねーし。妖怪って言われた方がしっくり来るビジュアルだぞ!見ろ!響が引いてる!」
「ギョロ目ちゃん!!」
「名付けるな!阿呆。」
よくよくみれば、爪が鋭利だ。ずしっときそうな重量級。ギョロ目は一点、理世を見ている。鼻を広げ、臭いを嗅いでる。左の顔の方が、近づいてくる。剣を構えた。が、理世の顔に顔をくっつけた。
「!!?」
驚いてる間に右の顔も理世にベシッと顔をくっつけた。輝く。
『はじめまして。我が主、名を貰いました。ギョロ目です。』
「いやいや、ギョロ目ってーてゆーか。お前、キメラか。」
普通のキメラと異なり、このキメラ、媒体に、牛の体躯と馬の要素、それに大蛇の特徴が入り交じってる。
「ギョロ目ちゃん。理世の??」
『はい。』
満面な笑みの妹。事態に追い付かない二人。体とは異なる優しい声音のキメラ。カオス。
今からでも変わらないか?キタモト。