後編:マーロ
どうやら、階段から落ちて死んだらしい。
打ちどころが悪かったのだろう。めずらしくもないが風邪をこじらせるよりは少ない死にかたかもしれない。
もう少し注意していたら避けられただろうに。笑ってしまうくらい呆れた死因だと自分でも思い、マーロは苦笑と一緒にため息をこぼした。
あれから、どうやら百年ほど経っている。
建物が頑丈になっていたり町が大きくなっていたり、知らない町ができていたり逆になくなっていたりと名残がありつつもいろんなものが変わっていた。
朝、見た夢を覚えているみたいに、マーロのなかには呆気なく事切れた前世の記憶が残っていた。
竜人は長寿と聞くし、あのあと彼はどうしたのだろう。
前と似たような名前を授かり、そんなことを思いながら子供からまた大人になり、酒場で働いてお金を貯めて、町から町へと渡り歩いて風の神殿を目指した。
まだ彼がいるなら、元気そうな顔だけ見てよしとしよう。いなかったとしても、なにか記録が残っているかもしれないし。
今生もまた母親が幼少時に亡くなり、父親は育児放棄という滑り出しだったが、自分のできることを増やしてここまで食いつないできている。気になるのは、あの不機嫌な顔の竜人だ。自分の気がすんだあとは、どうとでも生きられるだろう。またうっかり階段から落ちないようにしなければ。
風の町は、思いの外変わっていなかった。
記憶のなかにある姿と同じで、辿り着いたあの日に泊まった宿でさえ同じ場所にあった。建物の雰囲気も似ていると思う。
他の町と違い神殿のある信仰の町は、少しばかり世間から切り離されているような空気があるから変わりにくいのかもしれないなと、なんの根拠もなくマーロは勝手に頷いた。
まずは神殿に行ってみよう。
結局、あのとき人生初の参拝ができなかったので、マロウにとってもマーロにとっても風の神殿はきちんと見てみたいものだ。
町は澄んだ空気のまま賑わっている。
エルフやドワーフ、獣人の姿も多くて神殿へ続く道沿いに露店がいくつも並んで活気があった。食べ物の匂いに鼻がひくついてしまうが、どれがおいしいだろうか。肉に野菜にスープ。どれもおいしそうだ。
引き寄せられるかのように店を覗きながらのんびり歩いていると、通りの向こうが妙に騒がしくなった。なんだろうとマーロが顔を上げると。
人混みの中に、大きな人がいた。
夜に浮かぶような金の瞳が射抜くように向けられて、そらされることなくマーロをとらえる。
ぐっと皺の寄せられた眉間、こけた頬に色の濃い隈。
おかしなことに、ぜんぜん元気そうじゃない。
「なぜ……」
懐かしい低い声がポトリと落ちて、でもそれっきり。
引き結ばれた口から続く言葉はなかった。
苛立ったように踵を返して人混みにまぎれ、大きな体がどんどん離れていってしまった。
名乗る隙もなかった。元からしゃしゃり出るつもりはなかったが、万が一会うことになったら挨拶くらいはと思っていたのだけど。
マーロはマロウのときと見た目が違う。
赤毛だった髪は栗色に、目も今は若草色だ。顔のつくりも似ても似つかず、かつて自分を番と呼んでいた彼にはマロウに見えないはずだ。結びつくものはなにもなく、名乗ったところで怪しまれるのが関の山。
なぜとは、どういう意味だろう。マーロのことを知らないはずなのに、どうして彼はあんなに嫌そうだったのか。わからないことばかりだが、まあ、マーロが考えても答えは出そうになかった。
マーロは顔が見られたらいいなと軽く考えていたが、あちらは人を寄せ付けない雰囲気だし、なんだか前よりももっと不機嫌そうだし。これは早々に立ち去ったほうがいいかもしれない。
ふむと思い直し、マーロは足取り軽く露店で肉の串焼きを買うことにした。町を出るにしても今日はもう遅い。宿をとって旅支度を整えて、それからにしなければ命に関わってしまう。腹ごしらえがまず必要だ。
熱々の肉をその場で頬張ると、じゅわりと肉汁が溢れて口いっぱいになる。これは、おいしい。あのときの鶏肉みたいにとてもとてもおいしい。
少しだけ沈んでいた気持ちが浮き上がり、マーロはそのまた隣の店で葉の包みを買った。小麦を練って茹でたものと山菜、乾燥させた肉を香辛料で合わせたような料理だった。これもまたおいしい。なるほど、やはり食べものはおいしい。
あとはあの、いい香りの茶葉が手に入らないだろうか。
たしかこの町の特産だと言っていた。長い年月が経っていても、まだ廃れることなくあるとうれしい。けれども、店を覗いてもそれらしいものはなくて。日が傾き始めた時刻だからまた明日探してみようかとマーロは期待を持ち越しとした。
最後に風の神殿をそっと覗いて、明日の朝茶葉を探して、それから町を出よう。どこに行こうか今晩決めなければ。
町の奥へ向かうと、白い石の門があり石段が上へ上へと連なっていた。
そうそうこんなふうに空気が澄んでいて、見たこともないくらいきれいなところだった。
よいしょよいしょと上る途中で、帰りの人とすれ違う。後ろから上ってきた犬の獣人にも追い越され、マーロはふうと息をついた。
「お嬢さん、手を貸しましょうか」
見かねたのか、後ろからきた馬の獣人が親切にも声をかけてくれる。
体力の違いをうらやましく思いながら、マーロはそれでも首を振って笑った。
「大丈夫です、ありが――」
「気遣い無用だ」
低い声が割り込んで、目の前に黒い影がかかる。
ぬっと大きな体がマーロと獣人の間にあって、相手もマーロも変な声が出た。背中しか見えないが、おそらく、とんでもなく不機嫌な顔をしているだろう彼に、馬の彼は戸惑いながらもそれじゃあと残りの段を上っていく。
取り残されたマーロと、大きな背中。
前と変わらずさらさらの黒い髪が、風に揺れている。
白くなるほどに握り込まれた拳が震えていて、会うつもりがなかったのにどういうわけか目の前にまた来てしまった彼に、なにを言っていいのかわからない。
「あ、あの、わたし――」
「なぜ……ああ、嫌だ! いっときの幸せだった思い出を消してくれるな……!」
悲痛な叫びに、目を見開いたマーロは慌てて足を踏み出した。
慌てたから、大きな石段から足が滑る。
ずべっと踏み外して体が傾いて、後ろへ引っ張られるあの感覚。あ、そうだった、ここは階段だった。
続いて来るであろう痛みと衝撃を待ち構えるでもなく、マーロは暢気にそんなことを思ってしまった。
けれども。ぐいと強い力が腕を引いて、視界が黒くなって、体が打ち付けられる音が響いたのはすぐだ。それなのに、ちっとも痛みが来ない。
「怪我は!? 無事か!? 痛むところは!」
下にいる人がマーロの肩を掴んで急き込む。
フィンネルだ。
あの不機嫌な顔ばかりしていたフィンネルが、酷く慌ててマーロを抱えている。あちこちを触ってなにかを確かめているのに、驚いたままのマーロはなんとか首を振った。
「あ、ありません」
「血が出ている……!」
この世の終わりみたいな叫びにマーロは目を丸くする。
血? どこから??
腕を取られてよく見ればたしかに、まあ、赤色はあったが。
「ええと、手を擦りむいただけですねえ」
転んで擦りむいた。それだけ。本当に捻ってもいないし腫れてもいない。
それなのに下敷きになった人は聞き入れることなくマーロを腕に抱えて難なく立ち上がった。
「すぐに手当を。駄目だ、人は脆い」
「ええと、わたしよりあなたは――」
「竜人は子供でもこれくらいでは怪我にもならない」
「へええ、そうなんですか。お強いんですねえ」
丈夫とは聞いていたがそれほどまでに違うのか。感心して頷けば、目線が同じになった相手は痛そうに顔を歪めた。
あれ、と怪我の二文字がよぎったマーロへ、低い声が、震えるように落ちてくる。
「フィンネルだ。名を、呼んでくれ」
「フィンネルさん?」
「……あぁ…」
悲鳴みたいな、小さな、絞り出された声だった。
痛いほど、ぎゅうと体を抱き込まれてマーロは少しも動くことができない。肩口に押し付けられた顔。彼のサラサラの髪が頬の横を流れていてひんやりとした。
しばらくそうしていても動く気配がない。
そういえば、彼はたまにこうしてマーロのわからないなにかを抱えていたなあと思った。
困ったマーロは動かせる手で彼の背中をぽんぽんと叩く。ぐっとさらに入った力にぐえと声が出てしまったら、慌てたように腕が緩む。琥珀色の目がこちらを窺ったので大丈夫だと頷いた。
フィンネルは無言でマーロを抱き上げたまま、軽々と神殿へと入っていく。
入って目の前に広がる祭壇のある広間を尻目に、廊下を通っていくつかの扉も通りすぎて、もっと奥にあった吹き抜けの庭のようなところへと出た。大きな木が堂々と根を張り枝を伸ばしている。その庭にあった長椅子へとマーロを下すと、彼は精霊に呼び掛けて傷を癒す魔法を使った。
「わあ、すごい」
すっかり傷がなくなったことにも、魔法を目の前で使ってくれたことにもマーロは驚いて声を上げる。
じっと見つめてくるフィンネルは苦い顔のまま、それでもマーロを見つめて重々しく口を開いた。
「名を、教えてくれ」
ああ、なんだか懐かしい。
初めて会ったあのときも、彼はこんなふうに嫌そうな顔でマロウへ名前を尋ねていた。
不機嫌というよりもなにかを我慢しているみたいな顔。
マーロはまじまじとフィンネルを眺めてから、くすりと笑ってしまった。
「マーロです」
「マーロ」
マーロ、マーロ。繰り返すのも、あのときと同じ。
ああ、不思議だなあ。出会いをもう一度繰り返すなんて。
怪我をした自分を助けてくれたのだから、これでもう彼も気がすむのだろうか。階段を今度は最後まで上らせ、神殿のなかにまでつれてきてくれて。マーロにまで十分なほど気遣いをしてくれた。
「痛みは、ないか」
それなのに、この期に及んで彼はまだ気にかけてくれるらしい。
「もうすっかり。行きずりの者へのお気遣い、ありがとうございます」
「……いや」
「明日、町を出るのでもう気にし――」
「町を出る? なぜ?」
マーロがいれば、怪我のことを気にし続けるのかもしれない。
予定どおり早く次の町へ行ったほうが、彼の気も休まるだろうと口にしたのだが。勢いよく肩を掴まれて、マーロの目は丸くなった。
「なぜって……ここでの用事もすみましたし」
「駄目だ」
だめ。だめなの? なんで? なにか他に用事があっただろうか。
不思議で何度か瞬きをしながら相手の顔を見るが、真剣なことと強い視線しか読み取れるものがない。
マーロが口を開くより早くフィンネルが眉を寄せた。
「帰る場所があるのか? 待っている人が、いるのか?」
「いえ、あてもなく旅をしているだけです」
「それならここにいればいい。他の場所など行かなくていい」
「そうおっしゃいましても……どうしてここにいなければならないのですか?」
「きみが、俺の番だからだ」
「つがい」
また出た、番。
あれ? わたしまたフィンネルさんの番なの??
ぽかんとするマーロへ、フィンネルは少しも目をそらさずに射抜くように言葉を足す。
「番が離れて暮らすことなどあってはならない」
「はあ、そうなのですか」
「そうだ。なぜまた俺に番がいるのかわからないが、この匂い、この気配、間違いがない。もう失うのは御免だ」
マーロは低い声を聞きながら言葉をなくす。
――唯一を亡くした哀れな竜。
――嘆きながら終わりを待つしかないとは、かわいそうに、哀れで悲しい孤独の竜。
――いっそ、番と出会わなければ。生きる希望を持てただろうに。ああ、種族の違いのもたらす悲劇。
さっき町で彼を見かけたときに、人々が口にしていた言葉だ。
生まれ直しても、マーロには番というものをうまく掴むことができない。こうして失うと心まで壊してしまいそうなくらい切り離せない存在とは、果たして彼にとって必要なのだろうか。
番だから、という意味は言われた側も喜んでいいのかわからない。
以前はあまりに急で考えることができていなかった。でも、今回は今まで生きていた時間で振り返ることができた。その間に、番とはなんなのだろうとマーロは出会った獣人たちの話を聞きながら思っていたのである。
マーロは目の前を見つめて口を開いた。
「番だから好きになるの? あなたの生涯を縛るのが番なら、会わないほうがいいかもしれないのに。自由に誰かと思いを重ねられないのは、悲しいことではないのですか」
愛する理由は番だから。番だから好きにならなければならない。それによって、目の前の人はこんなにも苦しそう。
だったら、心乱されず過ごすほうが結果として幸せにならないのだろうか。
また人間として生まれたマーロを番とするよりは。
まっすぐと言葉を向けると、こちらをじっと見つめたフィンネルは静かに首を振った。
「それは違う。番と出会うということは、愛せる者と出会えたということだ。それ以外にこの感情は動かない」
誰が相手でも好意は抱く。友情も芽生える。敬愛もする。
しかし、伴侶として愛せるのは番だけ。
ひたりとマーロを見据えてフィンネルは続ける。
「出会えぬままでも充実した生涯を送れる、それは確かだ。だが、出会ったのなら。愛さずにいられない。それ故に、離れるほうが苦しい。もう出会っているのだから」
「今日会わなければ、あなたは苦しくならなかったのに?」
「……消えゆくものを思うとたしかに苦しい。だがきみと共に過ごせるならば、それも甘んじて受け入れるほかない」
この人は、またわたしを望んでくれるのか。
また人間だけど番で、番だから大切だと言う。やっぱりあまりうれしそうではないのに必死に言葉を尽くしてくれているのは、まったく本当に、前も今も変わらない。
マーロはとてもとても不思議な気持ちになった。あたたかくてほっとして、くすぐったいような。そして困ったり悲しそうだったりしかめ面な彼が、少しでも気が休まる日々を過ごしてほしいと、そう思う。
「マーロ、我が番。急だとは承知している。けれども、この先の時間を俺と重ねてくれないか」
「フィンネルさん」
「戸惑うのも困るのもわかっているつもりだ。ゆっくりでいい、心を傾ける相手として俺を選んでほしい」
ああ、きっと。マーロが獣人であれば番と一言言うだけで事がすんだはずなのに。
こうして心を砕いてくれて。マロウやマーロの歩みに、彼はいつだって合わせてくれる。今なら、それがよくわかる。
やさしすぎるこの竜へマーロは思わず微笑んだ。
「はい。フィンネルさん、わたしここにいます。気持ちをどれだけ返せるか、まだわからないけど」
「構わない、そんなこと」
「楽しいことたくさんしましょうね。ほら、眉間に皴が寄ってますよ」
不機嫌とは違うのだろう。つんつんと突くと困ったように眉が下がった。
ああ、なんだ。前ももっとこうして話せばよかったんだろうなあ。
マーロはマロウの時を残念に思う。百年もの間思い出してくれていたのなら、もっとたくさん話して歩み寄ればよかった。できなかった分、これからやろう。悲しい気持ちはお腹いっぱいだろうし。
くすくす笑うマーロを眺めていたフィンネルは、笑いが収まったところで上目がちに口を開いた。
「マーロ、なにかほしいものは? 腹は空いていないのか?」
気付けばすっかり日暮れになってしまった。
木々の向こうは茜色に色づいて、薄暗くなった神殿はぽつぽつとやわらかな明かりが灯されている。
そういえばこの人はお腹いっぱい食べさせることが好きだったなと思いながら、マーロはそうだと茶葉の存在を思い出した。彼なら知っているかもしれない。
「明日探すつもりだったんですけど、お茶が飲みたくて。前に淹れてもらった、いい匂いでおいしいやつ。ここの特産って言っていたけどまだありますか?」
そのときのフィンネルの顔といったら。
息をのんで身を強張らせる。見開かれた目はマーロを縫い留め、もしかして息まで止まっているのかと心配になるくらい固まってしまった。
お茶は禁句だったのだろうか。もしかしてもう絶えて久しいとか。マーロの背を冷や汗が伝う。
どうしようと紡ぐ言葉を探すマーロを、かすれた声が遮った。
「……俺は、きみにまだ香茶を振舞っていない」
マーロは思わず口をつぐむ。
あ、そっか。まだフィンネルとは会ったばかりだった。そろりと目を逸らしてへらりと笑う。
「あれ、そうでしたっけ」
「……マーロ。マーロ、きみは――」
これは、ちょっと、やってしまったかもしれない。
そしてたった一言だったのに、フィンネルは正確にマーロの言葉の意味を汲み取ってしまった。たぶん。これが逆だったらマーロは気づかなかっただろうが、残念なことにフィンネルはマーロのように雑な性格ではない。
「なぜ、どうして言ってくれなかったんだ、きみは、きみは――」
「だってまさか百年も悲しんでるなんて思ってなかったんですもの。それに、フィンネルさん怒っていたし」
観念して目を戻せば、見たことのない顔をした男がいた。
思わぬ流れでマロウであったことがわかってしまい、気恥ずかしさと今更すぎるのとでマーロは忙しなく視線をさまよわせて早口で答えた。
すると今度はフィンネルがうっと言葉に詰まる。階段のところで声を荒げたことを思い出したのだろう。
「あれは、その……すまなかった」
「はい。びっくりしたけど、でも……そうですね、大事にしてくださっていたんですね。たくさん待たせてしまって、わたしもすみませんでした」
あんな、たったひと月足らず過ごしたことを。
こんなに思い続けてくれたなんてマーロには考えもつかなかった。けれども、きっと番の存在とはそういうものなのだろう。ずいぶんとさみしい思いをさせてしまった。
どんな理由でマーロとして生まれ直せたのかはわからないが、せっかくだ。できなかったことをこれからしていきたい。
マーロはゆっくりとフィンネルの手を取った。息をのんだような相手に、そのままで言葉を向けることにする。
「寿命はどう頑張っても変えられないから、いっぱい思い出を作りましょう」
またきっと、彼を置いていくことになる。ぎゅっと握り返す大きな手。
「うまくいけば、その、子供もたくさんできたらいいですね。そうすればさみしくないでしょう? あとは、わたしがまた生まれ変わるように頑張りますから楽しみにしていてください。覚えていても覚えていなくてもちゃんと口説いてくださいよ?」
ね? と胸を張って笑えば、しおしおと男の顔が下がった。
長椅子に腰かけたままだったマーロの肩に、フィンネルはぐっと額を押し当てる。
「……まだ会ったばかりなのに、別れの話をしないでくれ」
「こんなに泣き虫なんて知らなかったですねえ」
まったくもう、と呆れるとぐすりと鼻を鳴らした竜人はマーロの背中に手をまわし、息が止まるくらい抱きしめてきたので。
声を上げて笑ったマーロはお返しにうんと強い力で、大きな背中をぎゅっとした。
山盛りの料理と香りのよい茶をふたりで囲める日が、またのんびりと始まっていく。