Echo
まったりと生安部の話が進んでいきます。
ミルクティーでもいかがでしょうか。
「どうぞ」
室内から曇った声が聞こえ、少し震えている手で扉を開く。
「失礼します、鈴木です」
「……あー、三年生に居た子かな?」
教室の一番奥、普段なら教卓が置いてあるであろう位置に鳴神は机と椅子を置いて座っていた。
中等科サイズの卓上で、鳴神は何かの部品を組み立てていたようだった。
優太の方に顔を上げて、おいで、と手招きするのに従う。
机の向かいまで来ると、手に持っていたプリントを手渡した。
「……どこでこの部活を?」
「えと、昨日の事件で」
「あぁー、ゴーが言ってた子か」
鳴神はホウホウ、と頷きながらプリントを受け取る。
「ゴーは君の事を勇者って教えてくれたよ」
「えッ、僕が勇者?」
「なんでも、Aspを助けようとしたらしいじゃないか」
「それは……」
鳴神はプリントを一通り眺めながら話を続ける。
「ゴーは君を守る為だったとは言え、彼女を倒してしまったことを後悔していたよ」
「そう、だったんですか」
鳴神は優太へ顔を再び向ける。
その目は優しく弧を描き、優太の心の中まで見透かしているような鷲色が綺麗だ。
「ねぇ、勇者君」
あだ名の様に呼ばれて困惑している優太の眼前に、先程手渡したプリントを掲げられる。
「ところで入部理由はなんだい?」
「あ、ああー!」
鳴神に連れてこられたのは、2-Fのすぐ隣、2-Gとプレートが着いている教室だった。
机も椅子も数えるほどしか置いていないその部屋は、全てのモノが邪魔だ、という様に
端っこに乱雑に寄せられてしまっている。
「さてと、まぁ聞かなくても大体分かってはいるけどね」
君の、入部理由は。
鳴神はプリントを読み返してはフフッ、と笑う。
その羞恥に耐えられず、優太は頬を赤くしている。
「えと、僕は、僕達もAspも、みんな同じだと思いました」
何度もプリントを読み直す姿に耐えられなくなり、優太は徐に口を開いた。
続けて、と鳴神は促す。
「Aspが化け物と言われて差別されているのはおかしいんじゃないかって思って」
そこで固まってしまう。
暫く言葉に悩んでいると、鳴神は声を発する。
「Aspは元々、ただの人間なんだ」
鳴神はそれからまた優しく笑いかける。
「突然能力に目覚めてしまった、これまで僕らと同じ生活を歩んでいたもの達だよ」
君の言う通りなんだよ、と鳴神は優太の背中を擦る。
「次の日には、パァっと君にも現れるかもしれないね」
鳴神は両手を大きく開いて優太の周りでヒラヒラと動かした。
「だとしたら、」
優太は鳴神の両手首を掴んで、鳴神に体を寄せた。
「僕は彼女を、Aspを救えますか?」
鳴神は優太の手を優しく払うと、そうだねぇ、と眉を曇らせて微苦笑した。
「超能力なんて持つべきではないと思うけどねぇ」
どういうこと、と優太が問おうとした途端、授業終了のチャイムが鳴り響く。
それと共に、近くの教室の椅子や扉が動き、学生たちが騒ぎだした。
「おっ、そろそろ部員が来るよ」
鳴神は優太に笑いかけると、教室の奥へと腕を引っ張る。
ドアの近くは危ないからね、と鳴神の言葉に首を傾げた刹那。
「うぉっしゃー!俺の勝ちィ!」
扉を突き破る勢いで、赤髪の学生が飛び込んでくる。
そのすぐ後に灰黒の髪をした学生がゼェゼェと息を切らして飛び込んできた。
「これで三十連勝だな!ハッハッハッ!」
「……ぁ、先生」
「何ッ!?」
鳴神達に全く気付いていなかったようで、赤髪は分かりやすく身体が跳ねた。
「おう!鳴神センセー!……んで、隣のヤツは?」
「……豪、あの子昨日の……」
「あーーーー!!無事だったかよお前!」
赤髪の男は優太に飛び込み抱き着く。
優太が暑苦しさに咳き込むのを見て、灰黒の男はどうして良いかわからずワタワタと慌てだした。
「あぁ、この部活に入るなんて、かわいそうな選択を……」
鳴神がわざとらしく告げると、
「お前!生安部に入んのか!」
「く、苦しぃ……」
「あわわわ、ゴー、その子死んじゃう……」
「おっすまねえな!」
「ぶぇえ……」
と一連の流れで優太は好き放題されてしまうのだった。
鳴神先生は優しいおじさんです。
年齢は四十五歳のイケオジです。
髪の毛は黒髪ですが、金色のアッシュを入れています。
髪だけ見た目ヤンチャです。
次回投稿予定日:6/20 朝7時