Echo
抹茶オレでも飲みながらまったり読んで、いただけたらうれしいです。
今回は、少し戦闘シーン入ります。
視点グルグルしたらすみません。
それは、八月ももう終わりの頃。
優太は、日本街の中でも取り分け人気のない通りをゆったりと歩いていた。
母親から頼まれた『朝食の食パン』だけが入った布バッグをグルグルと振り回しながら、
静かで平和な街並みをぼぉっと見上げながら、帰路に着いていた。
穏やかなはずの日常に、突如一つの爆発音が響く。
優太は振り向くと、二十メートル程先で道路から水柱が生えていた。
噴水の様に吹き上がる激流。
ガラン!
刹那、優太の真横に鉄円盤が降ってきてワアッと叫ぶ。
慌てて見遣ると、端が歪んだマンホールが転がり落ちていた。
水流に目を戻すと、ソレは既に人の形を模していた。
「Aspだ……!」
優太は声を震わせる。
ニュース動画や教科書でしか見たことが無い、超能力を持った人間、Asp。
まるで夢でも見ているかの様な光景に、驚いて足が動かない。
Aspは再び身体を液体へ変えると優太のいる方へ、鉄砲水の様なスピードで向かってくる。
「ひ、逃げなきゃ……!」
学校では出会った時どうすると教わっただろうか?
こういう時のために授業をちゃんと聞いておくんだった!
そう思っている間にもまっすぐ優太へと走ってくる水。
その距離は縮まるばかりで、足が竦んで、すでに、眼前で。
「アナタは、人間?」
水に溶けた顔は、優太の耳元でひっそりと囁いた。
(僕、死んじゃうんだ)
空気が一気に冷えて、内心に死を覚悟する。
水滴に塗れた掌が、優太の顔の前で開かれる。
雫を垂らしながら、その掌は優太の頭へ向かって徐に進んで……。
「離れろよ!」
優太の目の前は青から猛火の赤に変わる。
突然、全身が熱くなりビックリして倒れ込んでしまった。
「だれ?」
眼前の身体は小さく問うと、透明に透き通りぐるりと渦を巻く。
水の身体が地面を這って、猛火が飛んできた方角へと走り行く。
優太は顔を上げて、慌ててその先へと目を向けると、そこには二つの人影が立っていた。
あの制服を、優太は知っている。
自分と同じ連邦日本学校の中等科に決められている制服。
つまり、優太の先輩に値する人達で。
「行くぞ、黙!」
モク、と話しかけられた、灰がかった黒色のマッシュルームヘアーの男がコクリと頷くのが見えて。
その瞬間、黙が大気にサラサラと溶け去って彼のいた周辺は煙が立ち巻いた。
地を這っていた水の塊は、もう一人の赤髪を立てた男目掛けてグングンと進む。
赤髪の男は右手を水塊へ向けて、右手に左手を添え、行くぜ!と叫ぶ。
男が全身にグッと力を入れた途端、右の掌から業火が吹き上がる。
火炎放射器の様に真っ直ぐ水へと伸びる火の手に水のAspは慌てて引き止まり、
彼女も同じ体制を取って、同じく掌から水の柱を吹き上げた。
拮抗する火と水、その力は対等で二つがぶつかる箇所はミリも動かない。
接点から水蒸気が吹き上がり、延々と煙が生み出されていく。
その煙の一部なのか、ぼんやりとした何かが不自然な動きを始める。
地面に沿う様にユラリと蠢いて、
水のAspが気付いた時には既に身体は煙幕で包まれる。
それと同時に、二つの拮抗していた火と水の柱は小さく弱くなり消えていった。
優太は、なぜか歩き出していた。
水の超能力を使って自らに手を出そうとしていた彼女の元へ、恐怖で震える拳を強く握って。
(彼女は悪い人じゃないんだ、)
彼女の目の前に居た学生服の二人は優太の姿を見て、ギョッとした顔をして一歩下がる。
(だってさっき僕に手を伸ばしたのは、)
彼女は近づく優太を怯えた顔で見上げ、両掌を優太へと向ける。
優太が手を伸ばしたその刹那、目の前の彼女は、豪炎の中に居た。
ゴオオ、と地鳴りの様に火は燃え上がり、彼女は水に変わるも蒸発していく。
姿もなくこの世を去った彼女の怯える残像がまだ残っている。
(手を伸ばしたのは、僕の頭を撫でようとしていただけじゃないか)
床に崩れ落ちた優太の身体を、黙は静かに抱き寄せた。
「ごめんね、ごめんね」
彼はまだ声変りをしていないのか、中性的な声で何度も優太に謝る。
赤髪の男は黙の背中を撫でると「行くぞ」と呟いて去る。
「君も救いたい?」
黙は穏やかな声で優太に問いかける。
優太は深く考えることもなく、ただコクリと頷くと、
「じゃあ『生活保安部』においで」
彼は優しさを含んだ口調でそう優太に囁くと、赤髪の男の後を追いかけて走り去っていった。
水の子は、大体十八歳とかそこらへんかなぁと思ってます。
水なので身長分かりにくいですけど。
次回投稿予定日:6/16 7時