Echo
暗めのカゼとのお話が続いて申し訳ないです。
彼はこれからもまあまあ出てきます。
よろしくお願いします。
コウと別れてから一週間たった頃。
優太は授業が終わった後も机に突っ伏していた。
「体調悪いの?」
「美空さん」
顔を少し上げると、隣席に居たはずの美空が机の前に来ていた。
眼前で両肘を机に立てて、顔を両手で固定している。
美空の柔らかな頬が手の甲で押されて、口が窄んでしまっている。
「今日も部活じゃないの?」
「うん、そうなんだけど……」
ゲンが奈落へと落ちていく景色を思い出す。
ずっと浮かない気持ちが自分を落ち込ませている。
力があればゲンさんを救えたかもしれない、と無意味な後悔が続いている。
「僕が弱いから、迷惑かけてないかなって不安で」
美空に弱音を吐くと、美空はニコリと笑う。
「鈴木くんは力が欲しい?」
優太はガバリと顔を上げる。
なんだか悪者がいうセリフだな、と優太は唖然としつつ冷静に考えていた。
「私はいらないなぁ」
美空は続ける。
「だって、上手に使える自信ないし」
「それだけ?」
「ふふ、私はね、既に優太君は強いんだと思うよ」
「僕が?」
驚いて美空の目を見ると、彼女の目は弧を描いていた。
「優しかったり、反省出来たり、心配出来たり、
他人を考えられる人はすごく強いんだと思うよ」
だから、優太君はそのままでいいと思うよ。
美空は部室へと急ぐ優太の後姿を見送る。
「強すぎる力は自身も傷つけるからね」
美空は誰にも聞こえない、小さな声でそう呟いた。
パトロールをしていた黙から連絡が入る。
『日本街農業地域、敵不明、気を付けて』
優太はスラム街からさほど遠くない農業地域へと急ぐ。
広大な畑が広がる平地に、ソレはのた打ち回っていた。
植物のツタが化け物の触手の様な大きさで、無数に畑から生えている。
元々はカボチャが成っていたのだろう、黄色の実が割れて散らばっている。
ツタが散水ポンプを壊したのか、畑全体には雨のように水が降りしきり、
足元はすっかりぬかるんでしまっていた。
畑の中心に、小さな人影が見える。
優太より少し大きい体躯、12歳頃であろうか。
短髪の少年であるが、顏は恐怖ですっかり引き攣ってしまっている。
「優太君」
「黙先輩」
黙は、煙の形から人の形に戻り、優太の隣へと立つ。
「どういう状況なんですか」
「Aspになったばかりで錯乱してるみたい」
どうやら少年はAspの力が目覚めたばかりで、
自制が利かなくなってしまっているようだった。
「助けてぇ!」
少年はツタが伸びない様に必死に両手を広げ、力を発揮している。
が、逆効果らしくツタは留まることなく伸びていく。
グングンと伸びたツタは遂に、近くにあったトラックを弾き飛ばした。
(なんとか僕たちが落ち着かせないと!)
優太はぬかるんだ地面を蹴り出して、少年の元へ走る。
ツタが優太に巻き付こうと伸びてくるのを、間一髪避けながら、
少年の元へと段々距離を縮めていく。
(あと少し!)
少年に手を伸ばす。
優太に気付いた少年は目を剥いて驚いていたが、救いを求めて優太へと手を伸ばした。
「大丈夫!」
「助けッ……!」
「ッ!?」
指と指が触れ合った瞬間だった。
少年が優太の手を掴むことはなかった。
ドン、という鈍い破裂音が響いて、少年はその場に崩れ落ちた。
優太は仰向けに倒れた少年を抱きかかえると、
腹部から噴き出す血を掌で抑え込んだ。
ツタは萎びていき、力を失い畑へと落ちていく。
破裂音がした方を見遣ると、硝煙の上がる銃を握っていたのはカゼだった。
こと切れた少年を静かに畑の土へ降ろした。
「お前……おまえおまえ!!!」
優太は叫びながら、よろよろとカゼの元へと歩く。
カゼの目の前までたどり着いた優太は、拳を振り下ろした。
思ったよりも力が入っていなかった拳が、カゼの下腹部を軽く叩く。
カゼは優太の手首を掴んで、しゃがみ込んだ。
「この世界は、君には早すぎる」
カゼはニヤリと笑ったのを見せてから立ち上がると、
後ろ手を振りながらその場から姿を消していく。
優太はまたカゼの背中を追う事が出来ずに、ただただ涙を流した。
基本的に二千文字以内で一話をまとめています。
アニメのCM挟む前までのイメージで書いているのですが、
切り時が難しくてついタラタラ書いてしまいます。
上手くなれるといいな……。
次回投稿予定日:7/10 朝7時