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12-1 魔王様、勇者の手下を演じる



 ある日の放課後。


「大変大変~」


 生徒会長のツクモは慌てた様子で生徒会室に現れた。

 しかし、それは特に珍しいことではない。


 彼女がこんな感じに新しい仕事を生徒会に持ってくるのはよくあることだからだ。


「どうしたんですか会長?」

「うん。実はね、福祉部の子からお願いされたんだけど……」


 この日ツクモがお願いされたのは福祉部の助っ人だった。

 福祉部は今度孤児院で劇を披露する予定だったらしい。


 が、劇をするはずだった部員が二名風邪にかかり、急遽その穴埋めが必要になったんだとか。


「ちなみに劇っていつですか?」

「明日のお昼」

「明日!?」


 あまりの時間のなさに生徒会室内が多少ざわつく。


 明日、つまり休日の昼に孤児院へ行き、そこで劇を披露する。

 昼といっても準備などを考えれば集合はもっと早い。


 おそらく打ち合わせもリハーサルもほとんどできない……代役を引き受けた者は、ほぼぶっつけ本番で劇に挑むことになるだろう。


「……」


 オーマも仕事の手を止めて話を聞いていたが、なかなか無茶なお願いだと思う。


「あ、でも子供向けだから劇の内容は簡単よ」

「何やるんですか?」

「『ユーマ太郎』ね~」

「ああ、なるほど」


 納得したように役員は頷く。

 他のみんなも「それなら確かに簡単そうだ」という風に話していた。


 が。


(『ユーマ太郎』って何だ?)


 ただひとりオーマだけが首を傾げる。


 子供向けということは、童謡か昔話、あるいは絵本を題材にした劇だろうか?

 推測はできるが、どちらにせよ聞き覚えがない。


 ……彼は特殊な環境で育ってきたため、時折こうした一般常識から取り残されることがあるのだ。


「それで生徒会からふたり、ひとりは私が行くから、あとひとり誰かに来て欲しいの」


 元々無茶な話だからか、ツクモは率先して自ら引き受けるようだ。


 だが欠員は二名。どうにかしてあとひとり誰か行かなければならない。


「会長、ところでその風邪引いた人の『役』って何なんですか?」


 そういえばという感じでブランギがツクモに質問する。

 確かに引き受けるにしても何の役を代わるのかというのは重要だ。


「えっとね~、お供の犬よ」

「犬……ですか」


 犬と聞いてブランギは少ししかめっ面をする。


「?」


『ユーマ太郎』を知らないオーマは、その犬がどんな役なのか分からない。


 だが少なくとも主役ではなさそうだ。

 端役か、もしくは敵役かもしれない。


 生徒会にはブランギのようにプライドの高い者も結構多い。

 やるのが『犬』役と聞いて躊躇を覚えた者も結構いるようだ。


「ちょっと難しいかしら……」


 みんな乗り気でない様子にツクモも段々困った顔になる。

 彼女が浮かべた表情を見て、男子の幾人かはうっと罪悪感を覚えた。


 それでもなかなか手を挙げる者はおらず――


「俺がやります」


 ――そんな状況を見かねて、オーマが挙手をした。


「本当!? オーマ君」

「はい」

「ありがとう!」


 ツクモはオーマの手を取り大喜びする。


「……いえ」


 彼女に手を握られ、ついそっぽを向くオーマ。


 それはそれとして……『ユーマ太郎』ってのがどんな話か、明日までに調べねぇとなと彼は若干焦りながら決意した。




 その日の帰り、オーマは大急ぎで本屋に寄った。


「いらっしゃいま、ヒッ!」


 本屋という知的空間に死ぬほどそぐわないオーマを見て、店員が小さな悲鳴を上げる。


 それには構わずオーマは本棚を片っ端から見て回り、『ユーマ太郎』というタイトルを探し回った。


「……あった」


 案の定、『ユーマ太郎』は子供向けの絵本コーナーにあった。


 もちろん劇の台本自体は受け取っている。

 だがやはり元ネタを知っておくに越したことはない。


 特に犬がどんなキャラクターなのか知るには、絵本のイラストなどを見た方が感じが掴めるだろう。


「これを……」

「あ、はい……えっ!?」


 レジに絵本を持っていった時、店員にメチャクチャ意外そうな顔をされたが、それも無視してオーマは会計を済ませる。


 それからダッシュで家に帰り、オーマは着替えもそこそこに自室で『ユーマ太郎』を読もうとしたが、


「二代目、夕餉の支度ができやした」

「……おう」


 折悪くちょうど夕飯の時間になってしまった。


 仕方なくオーマは包装だけ破った絵本をベッドに置いて部屋を出た。


「大将、今日はやけに早食いっすね」

「……そうか?」


 普段は味わって食べる派のオーマだが、この時ばかりは大口を開けて思いっきり飯をかき込んだ。

 一家のみんなから訝しげな目で見られたが、そんなこと気にしていられない。


「ごっそさん」


 オーマは手早く夕飯を切り上げて席を立つ。


「あ、オーマ様」


 出ていくオーマをサラリサが呼び止めかけたが、彼はそれに気づかなかった。


 彼は自分の部屋に戻って扉を閉める。

 早速、絵本を開こうとしたが、


「……台本も一緒に見るか」


 両方を照らし合わせながら見た方が効率がいいと気づき、オーマはカバンから台本の紙束を取り出す。


 さてやっと読める――と思った時。


「オーマ様」


 トントンと扉がノックされ、廊下からサラリサの声がかかる。


「どうした?」


 オーマが返事をすると、サラリサは扉を開けて中に入ってきた。


「失礼します。実は今期の会合の件でお話が……」

「……そいつぁ急ぎの用件か?」


 いかにも長くなりそうな話題だったので、オーマは軽く尋ね返す。


 なにしろ劇は明日の昼だ。

 急ぎでないなら明日帰ってからかあさってで……と思ったのだが。


「……」

「……? どうした?」


 サラリサがなぜか黙ってこちらをジッとみているので、オーマは疑問符を浮かべる。


「オーマ様、それは?」


 サラリサはそう言って、オーマが手に持つ絵本と台本を指差した。


「ん? こいつぁ――」


 素直に答えようとして、オーマは首の裏に何かピリッとした。


 サラリサの様子が少しおかしい。

 殺気というほどではないが、鋭い何かを感じる。


「――拾った」


 直感に従い、オーマは誤魔化した。


「そうですか」


 サラリサは静かに頷きながらこちらへやってきて、自然な動作でオーマの手から絵本と台本を奪い取った。


「中身は読まれましたか?」

「……いや」


 実際まだ読む前だったのでオーマは素直に答える。


「そうでしたか。それは幸いです」


 彼の答えを聞き、サラリサは安堵したように息を吐いた。


「このような不愉快な書物でお目汚しさせては、このサラリサ一生の不覚となるところでした」

「……そんな不愉快な話なのか?」

「それはもう!」


 やんわりと疑問を呈するオーマに、サラリサは勢いよく何度も頷く。


「これこそまさに人間どもの邪悪な陰謀! 偉大なる魔王様を貶めるために創作されたプロパガンダです! 内容を思い出すだけで怒りに我を忘れそうになります!」


 サラリサは憤るように絵本を折り曲げ、雑巾でも絞るようにギリギリと捻じり上げる。


「こんなっ……こんな畜生とユーマ太郎などという間抜けな名前の子供がッ! 我らが魔王様をああも簡単に倒すなど……これが侮蔑でなくてなんでありましょうか!?」


(つまり……勇者と魔王の物語を子度向けにデフォルメした感じか?)


 確か絵本の表紙には剣を持った子供が描かれていた。

 ほかにも犬やら鳥やらが背景にいたような気がする。


 そういえばツクモは犬を『お供』と言っていたし、つまり犬はユーマ太郎の手下……これも勇者の仲間の戦士やら魔法使いを、動物に置き換えたデフォルメか?


 推測である程度お話のあらすじは分かった。

 それがあっているかはもう確認できないが……。


「これは私の方で捨てておきます」

「……おう」


 今更本当は買ってきたとは言えず、オーマは頷かざるを得なかったが……。


「ところで会合の件ですが、××の組織の〇〇が……」

「……」


(明日どうすっか?)


 サラリサから四天会の会合の話をうわの空で聞きながら、オーマは明日の劇をどうやり遂げるか頭を悩ませるのだった。





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