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2-1 二代目、襲名




 その日、四天会の本家には名だたる幹部が勢揃いしていた。


〈サラマンダー〉。

〈ウンディーネ〉。

〈ノーム〉。

〈シルフ〉。


 それら筆頭四家の頭首とその側近に加え、下部組織の中でも有力な家々の長、四天会と繋がりのある有力者などなど。

 正装をまとった彼らはボディーチェックを受け、続々と本家の敷居をくぐる。


 大広間には人魔問わず裏社会の実力者たちが一堂に会していた。

 その錚々そうそうたる面子は見る者が見れば腰を抜かすほどの顔ぶれだ。


 それもそのはず――今日は二代目魔王の襲名式なのだから。




 本家大広間に集った幹部たち。

 その筆頭たる四家の頭首は当然最前列に席が用意されていた。

 四者四様に貫禄を放つ彼らだが……。


「ふわぁ~あ……っと」


 ぶっちゃけ暇を持て余していた。


 それも仕方がない……筆頭幹部である彼らは早朝一番に本家入りしていたのだ。

 この大広間に通されたのは二時間以上前。

 それから出席者が全員揃うまでずっと待機し続けているのだ。


 サラマンダー家五代目頭首オルド=サラマンダー――彼が退屈であくびを噛み殺してしまうのも無理からぬことであった。

 彼は燃えるような赤髪を全て逆立てた偉丈夫だ。

 激怒するとその赤髪が炎に変化し、全身の毛穴からも火を吐き出すことができる。火の温度は自由自在で、炎の魔人という異名を持つ。


「にしても、例の二代目ってのはどんな奴なんだか」


 オルドが口にした「奴」とは当然二代目魔王のことである。


 と、その独り言を隣で聞き咎める者がいた。


「オルド。魔王様に対して何だその言い方は」


 シルフ家七代目頭首レイジ=シルフは眉を潜めて窘めた。


 彼は小さな竜巻でできたヒゲ(?)の似合う老紳士である。

 が、実のところ隣のオルドと歳は変わらなかった。シルフの家系は妖精の血が混じっているため短命で老化が他の種族より早いのだ。

 ただその代わり容姿には代々恵まれており、若い頃から随分とモテた。

 本妻の他に妾が七人……現在も部下や女性に人気が高い。


「んだよレイジ。テメエだって気になってんだろ?」

「まあ、興味がないと言えば嘘になるな」

「へっ、相変わらずスカした話し方しやがって」


 オルドは犬歯を向いてレイジに食ってかかる。


「そういうところが昔から気に食わねーんだよテメェは」

「貴様もいい歳をして短気なのは何とかならぬのか?」

「んだとぉ?」

「フンッ。まさか三年前に儂に女を盗られたのをまだ根に持っとるのか?」

「上等だこの老いぼれ……!」

「同い年だろうが。なら貴様も年寄りか?」


「やめなさいふたりとも。大事な場ですよ」


 その時、レイジのさらに隣に座っていた女性が口を挟んだ。


 ふたりの口喧嘩をいさめたのは、ウンディーネ家四代目頭首マリン=ウンディーネ。

 雪と氷に由来する妖怪の純血種だ。

 青い髪が白い着物に映える美人だが、その美貌はまさに氷のように冷たい。

 だが体組織のほとんどが氷であるため、夏になると判断力が鈍ってヒドい時は溶ける。


「……」


 ちなみに最後の四天王ノーム家の頭首は我関せずといった風情であった。

 まん丸の鼻が特徴的な小人の彼はボーッとした表情で、もしかすると隣の騒ぎなど端から聞いていないのかもしれない。


 ただし彼の態度はいつものことなので他の三人は気にしなかった。


「マリンはどうだ? 二代目はどんな面してると思う?」

「そう聞かれても……初代魔王様の御姿も知りませんし」

「初代魔王様の肖像画や記録などは大昔に燃やされたからな」

「見た目を知ってるのは本家の姉御だけか」


 オルドはため息をつく。


「俺も爺さんの爺さんから聞いた眉唾な伝説しか知らねぇ」

「儂もだ」

「私も」


「確か……、邪神の祝福を受けた巨体に、雷を操る双角や伸縮自在の翼、オリハルコン並の爪牙を持ち、膂力りょりょくはオーガ兵十騎に勝り、飛ぶ速度はドラゴンを置き去りにするとか」

「さらに途方もない魔力量を生まれ持ち、チャチな魔法は全て弾いたそうだな」

「魔王様だけが扱える魔剣があり、その威力は大地を割る……と、私は聞きましたね」


「ってんなわけあるか! どんな怪物だ!?」

「うるさい」

「うるさい」


 思わずノリツッコミしたオルドがレイジとマリンに小突かれる。


「テメェら人のワキとドタマを打楽器と勘違いしてんのか?」

「しかし、この話はお伽噺じみて信憑性がありませんわね」

「無視か?」


「せめて魔王様の御種族が分かれば推測のしようもあるのだがな」

「無視か?」


 マリンとレイジはオルドを無視して会話を続ける。


「初代魔王様が遺された卵――〈光胎(こうたい)〉なら子供の頃に見せていただいたことがあるが」

「俺もだ」

「私も。というか、四人一緒に見せていただいたでしょう」


〈光胎〉。

 初代魔王が絶命の際に遺した巨大な卵のことだ。

 卵というが、鳥や爬虫類の卵とはだいぶ異なる見た目のものである。


「なんつーか肉々しい感じの卵だった気がしたな」

「卵全体に血管のような物が浮かんでいたと記憶しておる。あと確か、文字通り光りながら脈打っていたはずだ」

「見るからに邪悪な見た目でしたねぇ。私、あれを見た夜はひとりで寝られませんでしたわ」


「あんな卵から生まれてくる魔王様ってのは、実際どんな見た目なんだろうな?」


 そこで話が再び最初に戻った。

 今度はレイジとマリンも話に乗る。


「卵生ってことはやっぱ鳥っぽいのか?」

「爬虫類ということもあるだろう」

「いえいえ、魚かもしれませんよ?」


「バカ言え。魚ってお前、陸じゃ泳げねぇだろ?」

「デザートサーペントは魚類だが砂漠を泳ぐぞ、無知め」

「あの、冗談だったので、いちいちそんな険悪にならないでもらえます? メンド臭」


 呆れ顔でマリンはため息を吐き、話を戻す。


「ですが、やはり魚や鳥ということはないのではないでしょうか?」

「あン? んだよマリン、テメェこの老いぼれの肩持つってのか?」

「流石はマリン嬢。どうです今度久しぶりに旧交を温めにふたりでバーにでも」

「四天王同士でナンパはやめてください。ではなく……私は魔王様はドラゴン種なのではと言いたいのです」


 ドラゴン。言わずと知れた最強種の一角。

 マリンの推測にレイジは「なるほど」と頷いたが、逆にオルドは「はぁ!?」と反発した。


「ドラゴン!? ドラゴンっつったら竜王会の野郎どものことだろうが。冗談じゃねぇ!」


 竜王会とは大陸西部を拠点とし、文字通り竜王を頂点に戴く組織だ。


 東の四天会。

 西の竜王会。


 大陸の裏社会を東西の真っ二つに割る二大巨頭である。

 両者は互いに長年の宿敵同士で、毎年数十度の小競り合いは恒例行事。近年は竜王会が東部進出を狙い始め、抗争が激化しつつあった。


「あのトビトカゲども、去年もウチの手下を十人以上()りやがった」

「……そんなにやられたのか」

「ああ」


 オルドは苦々しく呟く。


「竜王会の奴ら、西のド田舎で冬眠してりゃいいのに、ここ数年やたら活発的になってやがる。オメェらもそれは知ってんだろ?」

「そうだな」

「ええ」


〈サラマンダー〉は四天会の武闘派筆頭。

 必然的にオルドの部下は最前線に立つことが多く、死傷者も多い。


「あのド畜生ども……その内皆殺しにしてやる!」


 ゆえにドラゴンと聞いて彼が殺気立つのも仕方のないことだった。

 ――と、その時オルドのスーツからブスブスと黒煙が立ちのぼり始めた。


「……! おいオルド、こんなところで火を噴くな!」

「あ? おっ!? ぬっ、うぬおおおお!?」


 どうやら感情が昂ぶり、全身の毛穴から火が噴き出してしまったようだ。

 当然、大広間は騒然となり、飛び散った火の粉が座布団にも燃え移る。


「この単細胞が! 本家を火事にする気か!?」

「マ、マリン! お前の魔法で消してくれ!」

「ああもう男ってのは歳食ってもバカばっかりですね!」



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