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10-1 オーマ、ふたりだけの祝勝会を挙げる





「ふぅ……」


 久しぶりに来た体育館裏は相変わらず静寂に包まれていた。

 元々人気のない場所なので、屋台もこの辺りにはない。

 第一、今は模擬戦の真っ最中でみんなそちらに行っている。

 その模擬戦の喧騒もここには届かない。


 そんな普段より一際物寂しい場所で――オーマはひとり反省会をしていた。


「……」


 今回の騒動を、彼は自分の所為だと思っていた。

 ビランの企みがあったとはいえ、ロズウェルドがツクモを攫ったのはオーマが原因だ。

 そのことで彼はヒドい自己嫌悪に陥っていた。


(何が役に立ちたいだ……)


 それどころか余計に迷惑をかけてしまった。

 ともすれば命の危険すらあった大変な窮地に陥れたも同然である。


「……」


 オーマはツクモと出会ったこの体育館裏を見回す。


 彼はクラ高に通って痛感したことがひとつある。

 それはここが眩しい場所ということだ。


 魔王として生まれ、その本文を全うするために生を受けた彼にとって、学校や生徒会といった居場所はあまりに輝かしい。


 特に、ツクモは。

 彼女はいわば光そのものだ。

 表社会を歩き、人々を照らす。

 自分とは正反対の人生を歩むべき人。


 そんな彼女に、もうこれ以上自分が近づいてはいけないのではないか?

 今のオーマの頭の中は、そんな考えでいっぱいになっていた。




「オーマ君」


 その時、いつもの彼女の声がした。


 オーマが顔を上げると、やはりいつもの微笑を浮かべたツクモが立っていた。

 すでに戦服から制服に着替えているが、頭には小さなティアラを載せていた。


「あ~これ~? 模擬戦で優勝したから貰ったの~。オーマ君に見せたくて~」

「……綺麗ッス。あと、優勝おめでとうございます」

「ありがと~」


 ツクモはお礼を言いながらオーマの隣に座る。


「オーマ君……模擬戦不戦敗だったんだってね~。何があったの~?」

「……ちょっと腹イタで」


 オーマは適当にウソをついた。


 ツクモは攫われている間のことを何も覚えていない。

 ビランの偽手紙で学校の外に呼び出され、そこですぐに気絶させられたからだ。


 だが逆に怖い目に遭ったことを覚えていないのは幸いとも言えた。


 そこでオーマは学校に戻って彼女を目覚めさせたあとで「生徒会長はガッコーの外の芝生でうたた寝してました」と誤魔化しておいたのだ。


「お腹痛かったのに外まで私のこと迎えにきてくれたの~? ゴメンね~」

「いえ、大丈夫です。もう治ったんで」

「そっか~。よかった~」


 オーマのウソに気づいた様子もなく、ツクモは微笑んだ。

 それから少し間が開く。


「……生徒会長」

「何~?」

「俺、生徒会辞めます」

「えぇ!?」


 突然のことにツクモは心底驚いた声を上げる。


「どうしてかしら? もしかして忙しすぎて嫌になったの?」

「いえ……ただ俺がいると、生徒会に迷惑かけるんで」


 それはオーマなりのケジメだった。

 けれど。


「ダメッ!!」

「……!」


 初めて聞くツクモの強い口調に、不意を突かれたオーマは思わずビクッとなる。


 そんな彼の顔を両手で挟んでグリッとやって、彼女はお互いの視線を合わせた。


「どうしてそんなこと言うの? オーマ君が迷惑だなんて、誰も思ってないよ?」

「いや、俺は……」


 本当のことが言えず、オーマは口ごもる。


「もしかして、生徒会で何か嫌なことがあった?」

「いえ、そんなことは」

「それとも……私の所為?」


 なぜツクモがそう考えたのかオーマには分からなかった。


「そんなことはありません」

「なら、生徒会を辞めてもまた会ってくれる?」

「それは……」


 オーマといること自体がツクモを危険に晒す可能性がある以上、それでは辞める意味がなかった。


 そんな彼の態度を見て、ツクモはついにシュンと肩を落とす。


「じゃあ……もう一緒にここでご飯食べてくれないの?」


 ツクモの声は泣きそうな気配が漂った。


「またオススメの漫画貸してくれたり、お休みの日に一緒にお出かけしたり買い物したりお喋りしたり……そういうの、もうお終い?」

「いえ、その」

「……ウウゥ~」


 ついにツクモは泣き出してしまった。


「……」


 それでもここで彼女を突き放すのが正解だ。

 正解のはずである。彼女のことを思うなら。


 だが……だが…………女の涙には魔王も勝てない。


「……分かりました」

「えっ!?」

「生徒会を辞めるのをやめます」


 オーマが前言を撤回すると、それまで泣いていたツクモの表情がパァーッと笑顔になった。


「ありがとう~! オーマ君~!」


 そう言って彼女は抱きつき……途中でハッとして、慌てて体を離し、顔を真っ赤にした。


「お、おほほほ」

「……」


 彼女にしてはわざとらしい笑みで誤魔化していたが……オーマはオーマで抱きつかれた時の感触が衝撃的すぎてそれどころではなかった。


 互いにしばらくよそよそしく離れていたが、やがて「こほんっ」とツクモが咳払いをして、制服のポケットから紙パックのジュースをふたつ取り出す。


「はい、こっちはオーマ君の分ね~」

「……これは?」

「優勝記念~。本当はこれ一緒に飲もうと思って探してたの~」


 そう言ってツクモは自分のジュースにストローを差す。


「そういうことなら」


 オーマは頷き、彼もジュースにストローを差した。


「じゃあ、はい」


 ツクモが掲げた紙パックにコツンと自分のを当ててオーマも乾杯する。


「改めて、優勝おめでとうございます」

「オーマ君もお疲れ様~」


 そうしてふたりはささやかな祝勝会を挙げたのだった。




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