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9-3 二代目魔王、推して参る


 その頃、倉庫の中ではツクモを攫ったロズウェルドファミリーがたむろしていた。


「ロズウェルドさん、あいつ本当にひとりで来るんですかね?」

「知らねぇよ……だがもう俺たちはこれに賭けるっきゃねぇんだ」


 ドラエナの件で追い詰められたロズウェルドは、例のパートナーからもたらされた情報に縋って一発大逆転を狙うしかなかった。


「……」


 ロズウェルドは倉庫奥に転がした人質の少女をチラッと見る。

 クラ高に通う大企業の令嬢だと奴に言っていた。


 微妙にぼかした言い方だったが、攫うために学校の敷地外に呼び出す協力までしてもらった手前、あまり深掘りして尋ねることができなかった。


 ともあれ彼女があの「二代目の女」という話が本当で、あの男が彼女を取り返しにきたところを始末すれば……。


「う~ん……おしるこ~」

「……」


 本当にこれが魔王の選んだ女なんだろうか?

 妙にぽわぽわしているというか、確かに美人だとは思うが……。


(たかが女学生なんて、やっぱ遊びの女なんじゃねぇのか? 魔王ならいくらでも女知ってんだろ。つーか……何であのガキ高校とか行ってんだ?)


 不安と疑問が入り混じり、ロズウェルドは頭が痛くなってくる。


 そんな彼の懊悩は――派手なノックによって掻き消された。

 巨大な倉庫全体を揺らす轟音とともに、大型トラックの搬入口だった鉄扉が内側に向かって倒れてきた。


「うわっ!」

「危ねぇ!」


 倒れてくる鉄扉に潰されそうになり、彼の部下たちが慌てて倉庫の奥に逃げてくる。


「……魔王」


 鉄拳で鉄扉を殴り倒したオーマの姿を認め、ロズウェルドはうわごとのように呟く。


 彼が入ってきたのは前述の通り大型トラックの搬入口で、普通の人間は脇の通用口から入る……が、そんなスケールの話すら魔王には関係ないようだ。


「犯人はお前らだったか」


 制服姿のオーマはロズウェルドの顔を見、次いで倉庫内を見回す。


「……」


 彼は倉庫奥に転がされたツクモを見つけると、安堵するように目を細めた。

 その一連の動作で、ロズウェルドは本当に彼がツクモを助けに来たのだと悟る。

 同時に、四天会の構成員が雪崩れ込んでこないことから、彼ひとりで来たことも確認した。


 正直上手くいきすぎて信じられなかった。

 だが千載一遇のチャンスに違いはない、ロズウェルドは気を取り直して前へ出る。


「よくものこのことひとりで現れたな」

「……ひとりで来いっつう話だったからな」

「へっ!」


 ロズウェルドは鼻で笑う。


「大体何だよその格好……制服? 学生気分か? ガキの喧嘩のつもりかテメェ?」

「……今日の俺は生徒会の後輩として来たからな」

「はぁ?」


 オーマの言っていることの意味が分からず、ロズウェルドはただ苛々する。

 何か余裕を見せつけられているようで……人質を取って優位にもかかわらず、彼は平静を欠き始めた


「おい! 女を連れてこい」

「へい!」


 ロズウェルドは部下にツクモを引っ張ってこさせ、その喉元にナイフを当てる。


「来たってことは覚悟できてるんだろうな? もしそこから一歩でも動いたらブスリだぜ?」

「……」


 オーマは無言でポケットに手を突っ込んだままだ。

 ロズウェルドの部下が真剣や銃を持って取り囲んでも、彼はそのまま無防備に立っていた。


 前回で魔法は弾かれると分かっている。だから単純な殺傷武器を揃えたのだ。

 この数で襲いかかれば間違いなく殺せる――ロズウェルドはそう確信した。


「……()っちまえ!」




 その頃、クラウディウス高校生徒会では。


「ああクソ! 忙しすぎる!」


 やってもやっても終わらない仕事。

 連続する不確定要素のトラブル対応。

 その有り様はブランギでなくとも喚きたくなるほどであった。


「クッソ……あのでくの坊の役立たずめ、あんな奴でもこういう時にいれば多少は役に立つのに」


 ツクモとともに模擬戦準備に行ったオーマを罵るブランギ。


「本人がいないからって、よくそんなこと言えるね~」


 それを聞いていた女子のひとりが、やや呆れ気味に彼に言った。


「はぁ? 別に俺はあいつに面と向かってだって言えるぞ?」

「いや……そりゃ結構ボーッとしてるところもあるけど、怒らせたら怖いんじゃない彼」

「そんなことないね」


 ブランギは平気な顔で笑う。


「だってあいつ全然怒らねぇし」




 倉庫内に谺した数十発の銃声。

 当たり所次第で一発で致命傷となるはずの銃弾の雨が降り注ぎ、それは間違いなくオーマにも効いた。

 全身から大量の血が流れ、彼の制服を真っ赤に染めている。

 足許にはバケツでブチ撒けたような血溜まりが広がり、それは常人なら失血死する量だった。


「……何で」


 ロズウェルドはその光景を凝視しながら、思わず呟く。


「何でたおれないんだテメェ!?」

「……」


 シャツを血で真っ赤に染め上げながら、それでもオーマは立っていた。

 銃弾は頭にもヒットしており、額も血塗れで、目も半分開いていない。


 しかし、その眼光は微塵も衰えず、静かにロズウェルドを注視している。


「~~~~~」


 それまで潜り抜けた修羅場が全て子供騙しだったような、そんな錯覚を覚えるほどの恐怖が彼を襲う。

 部下たちが受けた衝撃はそれ以上だ。


「あ、あ……」


 全弾を撃ち尽くした彼らはただ呆然と立ち尽くし、己の無力を悟って銃口を下ろしてしまう。

 これはマズち思ったロズウェルドはツバを飛ばしながら部下を叱咤する。


「お前ら! もっと撃て!」

「でも旦那! もう弾がありません!」

「だったら斬れ! いや刺せ!」


 ロズウェルドの檄が効いたのか、あるいは恐怖を振り払いたいのか、真剣を持った男たちが雄叫びを上げながらオーマに突撃していった。


 ドスドスッと鋭い刃が彼の体に突き刺さる。

 突き刺さる……が、浅い。


(き、筋肉で止められてる!?)


 刺した側の男は内心で驚愕し、慌てて剣を抜こうとする。


「うっ……! くっ!」


 だが締められた筋肉に押さえつけられ、どうしても引き抜くことができなかった。

 結果として彼らは全ての武器を失ってしまう。


「……」


 一方のオーマはまるでハリネズミのような有り様だ。

 だが彼は倒れず、崩れず、立ち続ける。


「いー加減気ぃ済んだか?」





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