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9-1 二代目魔王、推して参る




『観覧祭』の日がやってきた。


 この日は朝から学校全体がお祭り騒ぎだった。


 午前中から多くの来賓がやってきて、グラウンドを中心に様々な催しが行われている。

 吹奏楽部とチアリーダー部のコラボは非常に好評で、父兄からのウケもとてもよかった。


 またプログラムには合間合間に余裕があり、その時間を使って親子で校内の展示物を見たり、生徒同士で屋台を巡ったりと、誰もが思い思いに『観覧祭』を楽しんでいた。


 一方その頃。生徒会はまさに窮地であった。


「次の予定表はどこだぁ!?」

「来賓用の飲み物が足りません!」

「校長先生見当たらないんだけど!? どこ行ったのあの×××!!」

「仮設トイレが詰まったぁー!」

「食堂の混雑が予想以上で列整理のヘルプ要請!」

「講堂のマイクの調子が悪いって! 誰か行ってきて!」


 得てしてこういう時、行事の裏方が一番忙しいものであるが、それにしても目の回るような繁忙ぶりであった。


「……」


 オーマもまた忙しさのあまり若干頭がフラフラしていた。

 この二週間強の間、ドラエナの調査と並行して『観覧祭』の準備もしてきたのだ。


 いくらオーマが規格外のタフガイといっても限度がある。

 だが疲労で眠そうになっても、目の前の仕事に手を抜かないのが彼の美点だった。


「ブランギ先輩。これ足りなくなってたパンフの補充分です」

「印刷してきたか!? よし、じゃあ次は」

「はい」


 ひと仕事終えてまた別の仕事を振られそうになった時、ツクモが彼のところへ来た。


「あらあら、オーマ君はそろそろ模擬戦の準備をしないとでしょ~?」


 模擬戦は午後の頭から始まるメインイベントになっている。


 戦服に着替えるのも含めていろいろと準備があり、代表選手は事前に会場のある第二グラウンドに集合しなければならないのだ。


「そうでした……スミマセン会長。ほら、オーマも行けよ」

「はい。分かりました」

「しばらく生徒会の方はお願いね~」


 ブランギや他の生徒会役員に見送られてオーマとツクモは並んで歩き始める。


「あ、オーマにカイチョー。どこ行くの?」


 と、その途中でルシールに見つかった。


「模擬戦の準備で第二グラウンドですよ~」

「あたしも行く!」


 ルシールは即答し、三人で一緒に外に出た。


 第二グラウンドは第一グラウンドの反対側にあるので、少々遠い。


 人が多いので道中にも人が溢れていた。だが模擬戦までは特に何もない第二グラウンドに近づくにつれ、その人影も少なくなっていく。


「ルシールさんは~どこか気に入った展示とかありましたか~?」


 道すがらツクモはルシールに『観覧祭』の様子を尋ねた。

 彼女は正式な生徒会のメンバーではないので、午前中はお祭りを楽しんでいたのだ。


「展示とかはあんまり興味ないなー。オヤジが来てたから、りんご飴とかいろいろ奢らせてた。カイチョーの親とか今日来ないの?」

「生憎ふたりともお忙しくて~。三日ほど外国にいるんですよ~」


「えーマジ? 寂しくない?」

「もう慣れちゃいましたね~」


 ツクモはそこで「あっ!」と軽く手を叩く。


「そういえばオーマ君~この前貸してもらったの、もう全部読んじゃった~」

「早いッスね」

「スゴくおもしろくて~。今度続き貸してもらってい~い?」

「はい」

「なになに何の話~?」


 ふたりのやり取りが気になり、ルシールがツクモに尋ねる。


「うふふ、ごめんなさい。オーマ君に秘密にしてって言われてるから~」


 しかし、ツクモはちょっとイタズラっぽく唇に指を当てて「しーっ」とジェスチャーする。


「えー何それ~。ねーオーマ、あたしにも教えてよー」

「……いや…………その」


 ルシールに腕を揺さぶられてオーマは頬を掻く。


 返答に困り果てたが、ちょうど運よく第二グラウンドに到着した。


「俺と会長は準備があるから、お前はもう戻れ」

「えー!」

「ごめんね~。会場にはまだ一般生徒は入れないの~」

「う~~~」


 ルシールは不満そうだったが、結局オーマたちの言うことを素直に聞いた。


「絶対あとでふたりの応援行くからねー!」


 そう言って彼女は手を振り、第一グラウンドと校舎の方へと戻っていく。


「じゃあ、まずは更衣室で着替えね~」

「はい」


 第二グラウンドには模擬戦のために会場が作られ、男女別の更衣室となるプレハブが建てられている。


 その他にも三百人以上が座れる観覧席に、試合観戦が可能な選手控え室、模擬戦をやるための舞台、照明、さらには実況席なんて物まであった。


 ひとつのイベントのためにここまで準備するとは「金持ちのガッコーはやることが違うな」と思ったものだ。


「着替え終わったら一緒に選手控え室行こっか~」

「はい」


 時間になったら選手は控え室でリハーサルの説明を受けることになっていた。


「じゃあ、またあとでね~」


 ツクモはヒラヒラと手を振って女子更衣室の方へ向かう。


 それを見送ってからオーマも男子更衣室に向かい、扉を開けた。


「うおっ!?」

「何っ!?」


 入室したオーマを見て中にいた何人かが後退る。


「……」


 慣れた反応なので特に気にせず、オーマは空いているロッカーを選び、この前できたばかりの戦服に着替え始める。


 が……この服、思いのほか着るのが面倒臭い。

 やたらと装飾が多く、ボタンや紐で縛る箇所もある。しかも何番目かのボタンは開けておくという作法なども多かった。


「むぅ……」


 事前に着方は覚えたはずなのだが、ルールがややこしすぎてオーマの頭はこんがらがってしまう。


 こういう時に教えてくれそうなツクモは生憎女子更衣室だ。


「あの……」

「……(サッ)」


 オーマは同じ代表選手に着方を教えてもらおうとしたが、声をかけた瞬間そっぽを向かれてどこかに行ってしまった。


(参ったな……)


 オーマは記憶を掘り起こしながら戦服を着るのに再チャレンジする。


(模擬戦で活躍すりゃ、ちったぁ周りの見る目も変わるか?)


 悪戦苦闘しながらふとそんなことを考えついた。

 よく知らないが模擬戦の代表選手というのは栄誉なものらしい。


 だったらその試合で活躍したら、もしかしたら周囲もオーマのことを好意的に見てくれるようになるかもしれない。


 元々たいしてやる気のなかった模擬戦だが……そうなる可能性があるなら、少しは頑張ってみるかとオーマは思った。




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