6-2 選ばれたくない魔王、代表に選ばれる
クラウディウス高校の敷地には倉庫がある。
流石に工場に設置されるような大きさではないが、物置というには立派すぎる建物だ。中にはズラりとスチール棚が並び、文化祭や体育祭で使う道具がしまわれている。
「オーマ君、次はBの棚の……そうそう、その箱を取ってもらえる?」
「ウス……どうぞ」
「ありがと~」
長身と怪力を活かしてオーマが棚の上から箱を下ろし、ツクモとルシールがその中身を点検する。
役割分担がキチンとしている分、備品のチェックは順調に進んだ。
「ところでさー、さっきのあのビランって何なの?」
仕事が順調だから余裕も生まれたのか、ルシールが先程のビランについてツクモに尋ねた。
「カイチョーとどういう関係?」
「関係も何も、ただの親戚ですよ」
「って、それアイツも王様の血とか引いてるってこと!?」
「そうなりますね~」
「うっわ……」
ツクモはのほほんと答えるが、ルシールは肩を竦めた。
「カイチョー見てると麻痺しちゃうけど、やっぱ王族ってあんなヤツらばっかなんだね」
「そんな意地悪言わないでください。私のお父様もお母様も立派な方ですよ」
「ごめんごめん、謝るから許して?」
「許しま~す」
「……」
ふたりの会話を聞きながら、オーマは黙々と点検の終わった箱を棚の上に戻す。
「じゃあ『観覧祭』ってのは何? 最後になんかアイツ言ってたけど」
「ルシールさん、学校の行事一覧表ってちゃんと見ました?」
「見てないな~」
「も~、オーマ君は分かりますか?」
「……」
オーマは黙って首を横に振る。
ツクモは「仕方ないですね~」と言いながら、『観覧祭』について説明を始めた。
クラウディウス高校の『観覧祭』。
元々はクラ高の教育水準の高さを外部に「観覧」してもらうための催しだったそうだ。
昔は非常に堅苦しい発表会が主だったらしいが、現代では数学クイズ大会や美術部や吹奏楽部の発表などお祭り的な要素が強い。
「当日は屋台も出るし、とっても楽しいわよ」
「へー、お祭りかー。いいね。オーマ、あたしと一緒に回ろ?」
話を聞き終えたルシールは早速オーマに誘いをかける。
「……ビラン先輩が言ってた「決着」ってのは何です?」
オーマは誘われたのを誤魔化すように話題を変えた。
「あ~……」
ツクモは意図してそれをスルーしていたようで、少し困った顔をする。
「……『観覧祭』では~魔法の成績優秀者同士の模擬戦が行われるの」
「じゃあ、会長とビラン先輩も?」
「たぶんね~。私と彼が去年の一位と二位だから」
ツクモが微妙に最後の部分をぼかしたが、ビランの態度を見ればどちらが上位だったかは一目瞭然だった。
彼の言う決着とは、今年こそ模擬戦で彼女に勝ってやるという意味だろう、
「なんかカイチョーも大変だね~。粘着質な奴につきまとわれて」
ルシールはツクモに同情するコメントをした。
けれど彼女は特に大丈夫という風に微笑んで。
「うふふ、でもさっきはオーマ君が助けてくれて嬉しかったわ」
「!」
急に好意的な言葉を投げられ、オーマは軽く動揺し、ガタンッと棚につま先をぶつけてしまう。
「うふふ」
その様子をツクモはやはり微笑んで見つめている。
「……会長。次はどれですか?」
「えっとね~次はCの棚に去年の未使用分のマーカーとかがあるはずなんだけど」
「……?」
言われた物を探してみるが、オーマには見つけられなかった。
どうやら去年の担当者が箱にラベルを貼り忘れたらしい。
「あっ! もしかしてそれじゃない?」
と、その時ルシールが先にそれっぽい箱を見つけた。
彼女はそれを指差すが、背の高いオーマからは逆に見えづらい位置にあった。
「……どこだ?」
「だからーそこそこ」
「?」
「もーしょうがないなー」
ルシールは自分が代わりに箱を取ろうと立ち上がる。
「っと、わ!」
が、急に立った所為かフラつき、コケて棚に手がぶつかってしまう。
その衝撃が棚を揺らして、不運なことに彼女の真上にあった箱が落下した。
「ルシールさん!」
「わあっ!?」
ルシールは咄嗟に目を閉じて両腕で頭を庇う。
直後にドンッと大きな音と、箱の中身が散らばる音がした。
だがいつまで立っても彼女の頭の上には何も落ちてこない。
「……?」
ルシールが恐る恐る目を開けると、オーマが彼女に覆い被さっていた。
彼がその身を挺し、彼女を庇ってくれたようである。
「大丈夫か?」
「……あ」
顔が近い。
もちろん彼に下心などあるはずなかったが、自分に覆い被さってくれたお陰で顔と顔の距離がとても近かったのだ。
それに彼の大きな体の下にいると、まるで全身を包み込まれているようで。
「……ッ」
その時、ルシールは自分の胸が大きく曝け出されていることに気づいた。
普段から谷間が見えるくらいボタンを開けているわけだが、転んだ拍子にシャツのボタンが弾け飛んでしまったようだ。
「……」
彼女の視線を追ってオーマの視線も下に行き……彼はそっと目を逸らす。
その紳士的な態度が余計に彼女の羞恥心を煽った。
思わず両腕で胸を隠すが、今度は真っ赤な顔が隠せない。
(何これチョー恥ず。ウソでしょ。こんなんあたしのキャラじゃないんだけどー!?)
誰かに本気になるのはこういうことかと、ルシールは悟った。
「ルシールさん。はい、上着」
「……ありがと。あたしちょっとコレ直してくるね」
ルシールは上着を借り、ボタンを直しに裁縫室へ向かった。
彼女を見送った後、ツクモは頬を掻いているオーマのことを振り返る。
「そういえばさっきの模擬戦の話だけど、確か一年生もそろそろ代表を決める授業があるんじゃないかしら?」
ツクモはそう言って意味ありげに彼を見つめた。
「オーマ君も代表になれるように頑張ってね」
「……ウス」




