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6-1 選ばれたくない魔王、代表に選ばれる




 カメレオンズを捕らえた一件で、ツクモは警察から感謝状を贈られた。


 元々よい評判の多い彼女だが、まだ未成年なため王族として表舞台に立つことは稀だった。


 コンクールの受賞歴や雑誌のインタビューを受けたことはあるものの、まだ彼女は関係者のみぞ知る期待の才女でしかなかったのである。


 しかし、今回のことは大きなニュースとなり、首都の人々は彼女の話題で持ちきりとなった。


 ツクモの王位継承は現在18位。

 年齢を考えれば親世代が退いた後、彼女が女王に就く可能性は十二分にある。


 すでに専制君主制は遠のいて久しいが、それでも王は国家の顔であり、国民人気を反映する職業である。

 その王座に若く可憐な少女が就くのを国民が夢想するのは、ある意味当然の成り行きと言えた。




 とはいえ、まだ高校生の彼女にはあるとしても遠い未来の話である。


「先週から出てる備品の補充はもう済んでる?」

「はい。こっちが補充した品と数量のリストです」

「ありがと~。魔法石は全属性揃ってる?」

「バッチリです!」


 ツクモは今日も今日とて生徒会長として大忙しで働いている。


「……」


 そんな様子を横目に見ながら、オーマも相変わらず苦手な計算仕事をしていた。


「んん……えぇっと、ここが……3か?」

「違うってばー、そこは5でしょ」

「そこは4だ!」


 まるでトリオ漫才のようだが、正解した総ツッコミ役のブランギは胃が痛くなる思いだった。


 ことある毎に絡んでいたら、いつの間にかオーマの教育係になっていた彼であるが、最近その監視対象が増えた――ルシールである。


「あのさー先輩、大声出さないでくんない?」

「それ以前にお前は何でまた生徒会にいるんだ!?」

「えーいいでしょ別にー」


 例のカメレオン事件以来、なぜかルシールは生徒会室に入り浸るようになっていた。


 その目的はもちろんオーマだ。


「ねぇオーマ、暇だし買い物行こうよ」

「いや……」

「そいつは仕事中だ!」


 またブランギが大声でツッコミを入れる。

 すっかりこれが生徒会のお馴染みの光景となっていたのだ。




「オーマ君、ちょっといいかしら~」


 ふとオーマの席へツクモがやってきて声をかけた。

 どうやら今から補充した備品に漏れがないか確認に行くらしい。


「こういうチェックはふたり以上でやるのが基本原則だから。それにオーマ君なら重たい箱も棚から下ろせるから助かるわ」

「分かりました」


 オーマは頷いて立ち上がる。

 と、それにルシールもついてきた。


「あら? 一緒に行く?」

「行く」

「じゃあルシールさんも手伝ってね」

「ん~、まあいいけど」


 いつの間にかツクモはルシールを名前で呼ぶようになっていた。

 互いに社交性の塊みたいな少女たちなので、特にそこに違和感はない。


「……(ピトッ)」


 ただ何となくツクモと三人でいる時、ルシールのオーマに対する距離感がより近くなるようであった。


「そういえばルシールさんって、オーマ君の親戚か何か?」

「んー、まあ近いっちゃ近いけど、何で?」

「ほら~ふたりっていつも仲がいいから」

「仲がいいと親戚なんだ」


「だって私も従姉妹のお姉ちゃんと仲いいし」

「カイチョーって変わってるねー」

「そう? オーマ君もそう思う?」

「いえ、別に」


「あーっ何それー! オーマ、今ヒイキしたでしょー!」

「いや……」


 ルシールに腕を掴んで揺さぶられ、オーマは対応に苦慮する。

 その様子を見て「やっぱり仲がいいわね」とツクモは微笑んだ。




 と、そんな一行の前に立ちはだかる影があった。


「やあツクモ。男を連れてどこへ行くんだい?」


 それは二年生の校章をつけた男子生徒だった。

 彼は挑発的な笑みを貼りつけ、ジロジロとツクモのことを見つめている。


「ビランさん……お久しぶりです」


 ツクモは一瞬驚いた顔をしたものの丁寧な対応を見せた。


「何か私に御用ですか?」

「いや、最近またご活躍だったと聞いてさ。どんな調子かと思って様子を見に来たのさ」


 様子を見に来たと言いながら、彼の目に友好的な様子は微塵もなかった。


 短い黒髪の下にある瞳は常に何かを見下しているというか、誰かを敵と思って敵意を向けているような……そんな目をしていた。


「そいつが最近生徒会に入ったっていう一年かい?」


 ビランはオーマの顔を一瞥する。


「なんか随分とお気に入りらしいじゃないか?」

「そんなの噂ですよ」

「だとしても噂されること自体問題と思うがね? 王族の女性として慎みに欠けるんじゃないか?」

「それはいつも気をつけていますから」


 ふたりの間にただならぬ物を感じ、ルシールがオーマの制服の袖を引っ張る。


「ねぇ、何なのアイツ? てか何様?」


 屈んだオーマの耳元にルシールが耳打ちしてくるが、その質問には彼も答えられない。


「なんかカイチョーもノンビリ口調じゃなくなってるし」

「……言われてみれば」


 ツクモはいつも間延びした喋り方をする。

 その優しい口調が今は固くなっていた。


「大体、君はさ……うん?」

「オーマ君?」

「……」


 ルシールのお陰でツクモの異変に気づけたオーマは、彼女を守るように前へ出た。


「何だよ一年、邪魔だ。どけ」


 ビランは苛立った様子でオーマに退()けと告げる。


「先輩。スミマセンが、俺ら仕事があるんで」

「何だとぉ!?」


 オーマが自分の言うことを聞かないからか、ビランはさらに声を荒げる。


「お前……僕が誰か分かってるのか?」


 ビランは脅すような口調で言うが。


「……」

「……」

「……」

「……おい?」


「スミマセン。先輩がどこのどなたか分かってないっす」

「なぁっ……!?」


 まさかそんな答えが返ってくると思ってなかったのか、ビランは口をパクパクさせる。


「プッ! ダサッ!」

「……クス」


 これにはルシールも大笑いし、あのツクモでさえ口許を押さえて肩を震わせた。


「~~~」


 恥をかかされたビランは顔を真っ赤にする。


 完全に怒り狂っているように見えるが、オーマとは体格に差がありすぎることくらい分かっているのか、流石に殴りかかろうとはしなかった。


「ビランさん。申し訳ないですけど、オーマ君の言うとおり仕事がありますから今日はこの辺りで~」


 余裕を取り戻したのか、ツクモはいつも通りの口調で挨拶をしてビランの脇を通り抜ける。


 当然オーマたちもそれに続き、ついでにルシールはもう一度わざとらしくプッと笑いを漏らしていった。


 屈辱で肩を怒らせたビランは彼女らの背中に向かって怒鳴りつける。


「あんまり調子に乗るなよツクモ! 来月の『観覧祭』で去年の決着をつけてやる! そうすれば今度こそ正しい評価が下されるだろうさ!」




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