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5-3 生徒会の魔王、刺客を送られる




 ルシールはどこかにあるコンクリ製の廃屋でハッと目を覚ました。


「ん……えっ!? 何!?」


 彼女は反射的に動こうとするが、自分の手足が椅子に縛りつけられていることに気づいた。


「おっ、目ぇ覚めた~?」

「アンタら……!」


 彼女と同じ廃屋の中にいたのは先程のナンパ男どもだった。


「いやー、たまに催眠が効きすぎちゃうことあるから起きてよかったよ」

「……催眠?」


 そういう魔法があるのはルシールも知っている。

 だがあまりに悪用ができるその魔法は当然違法だ。


 現在では厳しい国家試験をいくつも受けて認可を受けた心理療法士が、カウンセリングのみを目的として院内監視の下での使用のみ許可されている。


 ただ心に作用する魔法は適性の有無が非常に大きく、誰でも使える物ではない。


 しかし、時に適性のみが抜群にあって、自然と口にした言葉に若干の催眠作用が生まれてしまう者もいるとか何とか……。


「俺ってなんか昔っから才能あんだよね~。チョー便利っしょ?」

「……チッ!」


 ニタニタと笑うナンパ男をルシールは強気に舌打ちする。


「おっ! 結構入ってるもんだなー」

「募金とか俺したことねーわ」

「……?」


 と、そこで彼女は男の仲間たちがあの募金箱を開け、中身の金額を数えているのに気がついた。


 普通に考えれば男どもが彼女と一緒に盗んできたということになるが。


「あたしひとりならともかく、その募金箱どうしたのよ? それまで一緒に持ってきたわけ?」


 ギャルがナンパ男にフラフラついていっても、周りは気にも留めないかもしれない。

 だが駅前で大々的に募金活動していた学生が、募金箱ごと男たちについていったらどうか?


 彼女はこの廃屋がどの辺りにあるかまでは知らないが、ここへの移動中だって人の目はあるはずだ。


「いくら何でもめだったでしょ。そんなのすぐ通報されて……!」

「ハハハッ! 思ったより頭回んねーキミ!」


 男は大笑いし、後ろで金を数えている男を指差す。


「そっちの彼ね、人の気配を薄くする魔法使えんのよ。だから、傍目にはキミがひとりで勝手にいなくなったようにしか見えないわけ」

「……ッ!」


「俺たちってば天才っしょ? これなら何やったってバレっこないってわけよ!」


 そう言うと男はまた高笑いして、自慢するように両手を広げる。


「これが俺たちカメレオンズのやり方ってわけよ! マジメに働くなんてバカらし! そんなことしなくたって、金も女も好き放題になるっつーの!」


(名前ダサッ)


 ルシールは内心で吐き捨てるが、状況は逼迫していた。


 実際、彼女は噴水で目の前の男と一対一だった覚えしかない。


 つまり気配を薄くする魔法というのは本物で、場合によってはこの男もあの場ではルシールにしか見えていなかったのかもしれない。


 そうなると男の種明かし通り、彼女が勝手にフラッといなくなったようにしか見えないだろう。

 何なら状況的に、彼女が集めた募金を持ち逃げしたように思われているかもしれない。


 それもムカつく案件だが……何よりこんな小者犯罪集団に調子に乗られていることの方が、プライドの高い彼女には我慢ならなかった。


「なんかカッコつけてるけどさー、結局アレでしょ? どーせアンタ国家試験に落ちてそのまま落ちこぼれたクチでしょ?」

「……!」


 ルシールの言うことが図星だったのか、カメレオンズのリーダーはピタリと笑い声を止めた。


「才能あって人より有利だったのに落ちるとかどんだけ~? まあ? その性格じゃカウンセラーとかどうせ無理っしょ」

「……」

「あっ! もしかしてそれ面接官に見抜かれたんだ? あはっ、その面接官見る目あんじゃん」


 催眠は悪用もできるが、同時に心の治療にも応用できる。

 キチンと使えば重度の心的外傷を取り除くことすら可能だ。


 そのためそれが使える国家資格を持った心理療法士はどこでも非常に重宝される。給与も高く、社会的地位や信用もとても高い。


 だからこそ厳しい試験が行われ、特に人格的な面を見る面接は重要視されるのだ。


「親からチョー期待されたでしょ? で、そっから転げ落ちて今はショボい犯罪者ってマジダサ……」


「黙れ」

「……っ」


 男がその言葉を口にするとルシールの脳にブレーキがかかった。


「……ッ……ぁ……ばぁ」


 だがいくら軽薄な見た目をしていようが、これでも彼女は四天会武闘派筆頭サラマンダー家の長女だ。

 この程度のことで負ける女ではない。


「ばぁ、か」

「……!?」


 催眠男は罵倒されたことより、ルシールが従わなかったことに驚愕を隠せなかった。

 それは彼の催眠を彼女の精神力が破った証明に他ならない。


(うえっ、気持ち悪……頭ガンガンするし)


 しかし、その代償はなかなか大きかった。

 頭痛はするし、全身に倦怠感が広がっている。


「この(アマ)ッ!」

「うっ……!」


 その上、逆上した催眠男がルシールを殴りつけてきた。

 幸いたいしたパンチではなかったが、椅子に縛られている彼女はそのままコンクリの床に倒されてしまう。


「女に手ぇ上げるとか……ダサ」

「このッ……!」


 それでも口を閉じない彼女に、とうとう男の頭がプッツンした。


「おい! お前らもこっち来い! このアマに立場ってのを分からせてやる……!」

「何だよリーダー、イライラしちゃって」

「落ち着けって。リーダーの催眠があればどんなプレイだって強制できるんだからさ」


 おぞましいセリフを聞き、ルシールの背筋に怖気が走る。

 が、今更吐いた言葉を飲み込むつもりもない。


「……ッ!」


 彼女は唇を噛んで、これから起こる恥辱に耐えようとした。




 その時――凄まじい轟音とともに廃屋の壁に大穴が開いた。




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