表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/43

3-4 裏社会の魔王、生徒会に入る




 模型部部室不法占拠。


 それは模型部の部員から生徒会に持ち込まれた相談事だった。


 クラ高のような名門校でも、なんだかんだ不良というものはいる。

 その不良グループは一週間前に、元々部員の少なかった模型部の部室を占拠してしまったのだ。


 不良グループは入部届を提出し、書類上は模型部部員になっている。

 そのため形式的には彼らが模型部にいることに問題はなく、それが余計に状況をややこしくしていた。


 結果、この案件は今日まで保留され続けていたらしい。


「ここか」


 オーマは件の模型部の部室が入った校舎別棟Cに辿り着いた。


 この高校はやたらと広く、この別棟Cは本校舎からかなり離れた場所にある。


 主に文化部系の部室が入っているらしいが、全教室の半分も埋まっておらず、部活動以外では物置としてしか使われていない。

 この立地も不良に目をつけられた理由なのだろうが……ともかく。


 オーマは二、三度拳を握っては開き、それから別棟Cの中に入っていった。

 スリッパに履き替え、人気のない廊下を歩く。


 時々教室の中から人の気配がするが、基本的には静かなものだ。

 が、問題の模型部部室に近づくにつれ、バカみたいな大声が廊下にまで響くようになっていった。


「ギャハハハ! 何言ってんだオメェ!」

「るっせーなバーカ!」


 聞くからに粗暴と分かる声だった。

 これでは人もあまり近寄らないだろう。


 だがオーマは特に躊躇いもなく部室のドアをガラッと開けた。


 室内には不良と思しき生徒が五人ほどたむろっていた。

 不良グループというには少ない人数だが、やはり絶対数自体は少ないのだろう。

 それでも厄介な相手であることに変わりはないが。


「あン?」

「誰だテメェ?」

「一年か?」


 ドアを開けたのが仲間でないと分かると、彼らは途端に敵意を剥き出しにして椅子や机から立ち上がった。


 オーマが室内に入ると、不良たちはあっという間に彼を取り囲む。


「何の用だテメェ?」


 リーダー格と思しき気合いの入った髪型の不良がオーマを威嚇する。


「生徒会の手伝いす」

「はあ?」


「先輩方に模型部から出ていって欲しいそうです」


 オーマは低く小さな声でゆっくりと用件を告げる。


 不良たちは彼の動じない態度にいくらか戸惑いを見せた。

 彼ら自身は例外として、基本的にこの高校にいるのは大抵品がいいだけのお坊ちゃんで、荒っぽい態度に慣れていない連中ばかりだからだ。


「模型部も困ってるらしいんで」


 戸惑う彼らにオーマは再度部室退去を平和的に頼む。


 が、そこで気を取り直した不良たちは一斉に喚き始めた。


「ン、ンだとぉ!?」

「ザけんなテメェ!」

「ランバさん! コイツ俺らのこと舐めてますぜ!」

「おう!」


 ランバと呼ばれたリーダーはグィィとオーマを下から睨めつける。


「ちっと身長(タツパ)があるからってチョーシ乗ってんじゃねぇぞ? お? その程度で俺がビビると思ってんのか?」


 ランバは喋くりながら、これみよがしに拳に魔力をまとった。


 魔力による身体強化は魔法の中でも基礎的な技術である。

 現代では攻撃的な魔法はあまり習う機会が少ない。

 だがこれは基礎中の基礎なだけあって、一般的な高校生なら誰でも使える魔法だった。


 本来は自衛のために習う魔法なのだが、アウトロー同士の喧嘩では頻繁に利用されていた。当然、無防備な状態で強化した拳に殴られればただでは済まない。


「へへっ、こいつで殴られたらテメェただじゃ済まねぇぞ」

「魔法を使った授業の成績だけならランバさんはエリートどもにも負けねぇんだ!」

「ランバさんはパンチングマシンで150kg出したこともあるんだぜ!」

「謝った方がいいんじゃねぇかオメ~?」


 不良たちはランバの実力に余程の信頼を寄せているらしく、調子に乗って囃し立てた。


「どうだぁ? 土下座するなら許してやるぜぇ?」


 ランバは拳をちらつかせながらオーマを脅す。


 が。


「あの……」


 オーマはなぜか言いにくそうに目を逸らす。


「あん?」

「……それで俺を殴んない方がいいっすよ」

「ハァ~~~!?」


 オーマの忠告を、ランバは挑発として受け取った。


「上等だテメェ!」


 短気な彼は躊躇いなく全力で拳を振りかぶる。


「……」


 大振りにも程があるテレフォンパンチ。


 だがオーマは避けなかった。

 ズシンッ!!と人体を殴ったとは思えない重い音がした。


「……!?」


 しかし、驚愕に顔を蒼くしたのはランバの方だった。


(え、岩? 鋼?)


 殴った感触がいつもと違う。

 人体よりもっと強度の高い、というか密度の高いものを殴ったような意味不明な感触。


 喩えるなら「山」を殴ってもビクともしないように。

 そんな当たり前の事実を突きつけられた状態。

 さらにそれだけでは終わらなかった。


「!?」


 拳はオーマの肉体で受け止められた。

 そしてランバが拳に込めた魔力は、彼の持つ圧倒的な魔力質量に弾き返され、その衝撃が全て跳ね返る。


「あばーーっ!?」


 結果、ランバはパチンコで飛ばされたみたいに、まっすぐ横向きに吹き飛んで部室の壁に叩きつけられた。


「ランバさん!?」

「リーダー!?」

「あがっあがが……」


 不良たちが慌てて駆け寄るが、壁にめり込んだランバはすでに白目を剥いて失神していた。


「~~~!?」


 リーダーを失った彼らはオーマの方を振り返る。


「……」


 オーマは黙ったまま一歩一歩ランバへと近づいた。


「ままま待ってくれ!」

「悪かった! 俺らが悪かった」

「出てく! 出てくから!」

「これ以上は、なっ? なっ?」

「……」


 慈悲を懇願する不良たちを無視し、オーマはランバを担ぎ上げる。


「ランバさぁん!」

「お、おい! どこ連れてくつもりだ!?」


 不良のひとりがオーマの前に回って彼を食い止める。


 ランバを取り返そうというのか、歯をガチガチと鳴らしながら両腕を広げて通せんぼしていた。

 実力差を知りつつ抵抗する彼の様子を見ながら、オーマはひと言。


「保健室」


 とだけ答えた。


「へ?」


 呆気に取られた不良は腕を下ろし、オーマはその横を通り抜けた。




 翌日。


 徒歩で登校してきたオーマを、高校の校門で出迎える者たちがいた。


「おはようございます!」

「「「「おはようございます!」」」」


 頭に包帯を巻いたランバとその仲間たちは腰を直角まで折り曲げ、現れたオーマに深々と頭を下げた。


「あの、ランバ先輩?」

「先輩なんてよしてください!」


 困惑するオーマに対し、ランバは頭を下げたままへりくだる。


「少し喧嘩が強い程度で粋がってた俺より、アンタの方がずっと強かった……! なのに自分から手は出さず、おまけに喧嘩売った俺を保健室にまで……!」

「そりゃあ当然のことです」


「その度量の広さ……感服しました! 俺を舎弟にシテください! お願いします!」

「「「「おねがいしゃっす!」」」」


「……」


 頭を下げる彼らに対し、オーマは頬を掻いて熟考する。


「分かった」

「……! ありがとうございます!」

「ただし、今後は人に迷惑をかけないでください」

「それが命令なら!」


 ランバの決意は固いと見て、オーマも考えを決めた。


「……ん」

「よっっっしゃあああああ!」


 オーマは頷き、ランバは喜びで舞い上がる。


 この出来事はまたたく間に校内で噂として広まった。


 彼のクラスメイトは、


「やっぱり怖い……」


 と恐怖し。


 生徒会のブランギは、


「へっ! どうぜ何かの運がよかったんだろ」


 と事実を認めず。


 そして大半の生徒――特に模型部――は、ただ校内の不良がおとなしくなったことを喜んで歓迎した。




 その放課後。


 再びオーマは生徒会室に足を運び、昨日の一件をツクモに報告した。


「……な感じで、ランバさんたちは模型部から立ち退いてくれるそうです」

「そうなの。よかったわ~」


 報告を聞いたツクモは微笑んで頷く。


「それじゃあ、オーマ君には臨時役員として生徒会に入ってもらうわね」

「……」


 ツクモの決定にまだ文句を言いたそうな者もいるにはいた。

 だがオーマが厄介な問題を一日で解決した以上、誰も異を唱えられなかった。


「でも、最後にひとつ訊いていい?」

「はい」

「どうして生徒会に入りたいと思ったの?」

「……」


 オーマはそこで一瞬ツクモから目を逸らした。


「……役に立ちたかったんで」

「ふ~ん?」


 ツクモはそれから数秒オーマを見つめ、それから彼に向かって手を差し出した。


「ならオッケ~。これから一緒に頑張っていきましょうね、オーマ君」

「……ウス」


 オーマはツクモと軽く握手を交わし、そうして彼は生徒会の一員として認められたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ