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1-1 少年、その名は




「オラッ、オラッ!!」


 屈強そうな男であった。

 短めのシャツから伸びる腕は太く、拳に古傷。

 胴体もガッシリとしており、顔もいかにも喧嘩慣れした風貌ふうぼうだ。


 彼は社会的に見れば、所謂チンピラと呼ばれる類の者だった。


 ハーフゴブリンである彼は先天的に筋肉がつきやすい肉体をしていた。

 その代わり、魔力はからっきし。魔法の成績など散々である。


 が、現代社会では魔法の使用に厳しい制限がかけられていた。


 無論、彼と同じ無法者であれば身体強化の魔法を平気で喧嘩で使う。


 だから、彼は常に「お利口」そうなガキを的にカツアゲをしていた。


 特に狙い目は都内きっての名門校のクラウディウス高校の生徒だ。

 彼らは親が金持ちばかりで、財布にカードなんて持っているヤツもいる。


 今日も彼はおいしい獲物を求めて、街を練り歩いていたのだ。


 そして。


「オラァ!! このっ!!」


 男の拳が少年の腹にめり込む。

 先程からこの暴行は十分以上続けられていた。


「オ、オラァ……!!」


 男はツバを飛ばしながら殴る。殴る。殴る。

 何度も何度も重い音がしていた。

 やりすぎなくらいだ。

 普通なら死ぬ。


「……」

「……」

「……」


 彼の後ろにいる手下たちは、それでも止めなかった。

 止められなかった。


 唖然あぜんとしていて。


「オッ、オフッ……エッ……!」


 彼らのリーダーが息を切らせ、ついにバテる。

 休憩なしで十分以上も人を殴るのは重労働だ。


 所詮チンピラ。

 キチンとした体力作りもしていない男に、これ以上の苛酷な運動は不可能であった。


「大丈夫ですか?」


 落ち着いた声。

 チンピラを心配したのは、殴られていた少年だった。

 一年生の校章をつけた名門クラ高の生徒。


 彼をひと言で言い表すならば――巨躯きょく

 とにかく何もかもがデカかった。

 体躯がデカい。

 拳がデカい。

 靴がデカい。

 ついでに高校の制服もデカい。

 腕も脚もまるで丸太だ。


 彼に比べれば、ハーフゴブリンの男の手足など綿棒のようだった。


「ハァ……ハァ……」


「……」


 息を切らす男を少年は心配そうに見下ろしている。

 その目は半分まぶたが落ちたような、眠そうな目をしていた。

 悪気があるわけではなく、普段から彼はそういう目なのだ。


 だが逆を言えば、彼はいつも通りの状態を保っている。


 十分以上顔や腹を殴られ続けたのに。

 嘔吐するどころか、呻き声のひとつも上げなかったのだ。


 チンピラの手下たちが唖然としていたのはその所為だった。


「これで先輩方の非礼は赦してもらえますか?」


 チンピラの息が整ってきたところで、少年は丁寧に頭を下げてそう言った。


 話は十分ほど前に遡る――




 ――実はこの殴られていた少年、クラウディウス高校の生徒会の一員なのである。


 今日、彼は生徒会の仕事で簡単な計算ミスをしてしまった。

 その後、帰路で偶然生徒会の先輩たちと鉢合わせた彼は、今日のミスのことで諸注意を受けていたのだ。


 しかし、前述の通り彼は普段から眠たげな目をしている。

 それが話を不真面目に聞いていると思われてしまった。


 先輩は彼に怒ってその辺にあった小石を蹴飛ばし……運悪く、その小石がチンピラの頭に当たってしまったのである。


「テメェ、俺様のドタマが陥没かんぼつしちまったじゃねぇかあぁん?」


 チンピラからすれば格好の口実。


 当然、彼は頭のケガ――実際はコブにすらなっていない――を理由に先輩を脅した。


 それに待ったをかけたのが少年だった。


「先輩が石を蹴ったのは俺の所為せいなんで」


 そう言って、その巨体で壁を作り、さっさと先輩たちを逃がしてしまったのだ。

 こうなるとチンピラたちは彼を相手にカツアゲを続けるしかない。


「チッ……だったらテメェに落とし前つけてもらうぜ」


 当初、ハーフゴブリンのリーダーはそれでも高をくくっていた。


(どうせ体がデカいだけだろ)


 名門校に通うお坊ちゃんなど五、六発も殴れば大人しく言うことを聞く。

 そう考え、少年を手下と囲んで路地裏に連れ込んだ。




 その顛末てんまつが現在の状況である。


(クソッ! クソッ! クソッ! 俺に恥をかかせやがってぇ!)


 少年に頭を下げられながら、男は羞恥と怒りで顔を真っ赤にしていた。


 暴力は彼の支えである。

 その腕っ節があるからこそ手下は彼に従うのだ。

 それが通じないなどと……そんな醜態しゅうたいを晒せば、彼には何もなくなる。

 彼には即刻、その汚名を返上する必要に迫られていた。


「ダメだ! テメェの親からも慰謝料を取らなきゃ気が済まねぇ!」

「……!」


 親という単語を出した瞬間、少年がピクリと反応した。

 それにチンピラはニヤリと口許を歪める。


「今から家に案内しろや」

「いえ、それは……」

「いいから早くしろ! ゼッテー逃がさねぇぞ。生徒手帳も出せ」

「……」


 チンピラの言うことに少年は素直に応じ、生徒手帳を差し出した。


「オーマ=ローゼン? へっ! 親も気取った名前つけやがって」

「……」


 少年――オーマはチンピラたちに囲まれて家までの帰り道を歩く。



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