坂道街
戻ってきた。この暑い部屋。風は通り抜けず、空
気は循環せず。あの冷たい空気が恋しい。ふとや
つを観る。相変わらず無口なやつ。
翌日、また憧れが沸いた。
「出発する? 片道?」
声が聞こえた。答えずに出発する。
街灯の灯り、窓から漏れる灯り、車の灯り、看板
の灯り、もう深夜だと言うのに、街は灯りだら
け。しばらく歩く。薄っぺらい長方形達は直方体
になり、空間を奪い合う。車はたくさん走ってい
るのに、歩いているのは俺ひとり。人の顔が見た
くて走る車の運転席を覗いてみるが、街の灯りが
反射して見えない。窓からは灯りが漏れるだけで
人の姿は無い。とりあえず歩く。この坂道を。
この街の頂上はどうなっているのか、景色は綺麗
なのかどうかを知りたくて、歩いた。
かなり歩いた。つもり。街は相変わらず灯りだら
け。振り向くと、明るい道が一本だけ延びてい
る。この景色だけでも綺麗なのだか、てっぺんか
ら見た景色が見たい。
ガコンッ と空から音がした。
コロコロが降ってきた!! コロコロは坂道を
下り車を押し潰し、街灯を薙ぎ倒しながら、こっ
ちに向かってきた。思わず俺も下った。
コロコロに巻き込まれた物は音をたてずに潰され
ていく。
大股で走り、バランスが崩れそうになったら、
小股で立て直す。コロコロは障害物を潰しながら
下るので俺には追い付けないように思えた。
少しペースを緩め、コロコロを観ながら走る。
思い付いた。いや、いままで思い付かなかった。
建物の中に入ればやり過ごせる。
そう思い入ろうとしたが、コロコロはそれを許さ
なかった。あいつは、なんと、建物を飲み込める
ように大きく進化?した!
「そりゃねぇーよ!」
走るのも疲れてきた。胸が苦しくなり、脚は震え
始める。ふと、思い付く。と、同時にその思い付
きを否定しようとする。でも走るのもう疲れた。
あいつの見た目は白い。そしてバームクーヘンの
ように穴があり、つまり空洞がある。
この手で止めてみよう。
走るのを止め、バームクーヘン野郎を観る。
手を前に突き出し、どっしりと構える。
さぁこいっ!