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憧れたい
「高っかっ!」
上は見える。
脚をかけ、手を伸ばす。手汗が噴き出し続ける。手のかけ方を間違えば、今にも滑って落っこちそうだ。
「だいじょぶだいじょぶ。」
上の柱は段々と近づいてくる。ふと、左を見る。遠くの、遠くに、同じような柱がある。色は、暗い赤色。こっちと同じ色だ。下も見てみる。二本の灯りの線が、交わらないように延びている。梯子を登り進める。手汗の後が、梯子のステップに写る。梯子を登り進める。柱はもうそこだ。
登りきり、柱の上に立つ。特に達成感は無い。
そこから下の景色を見下ろす。
「いい眺めでしょ。」誰かが言った。
「別に。」
「おい。」
声が聞こえて振り向くと、屈強な大男がいた。「目的は?」 聞いてきた。回りを見渡す。空には、月も星も無く、下の街灯が、ぼうっと見えるだけ。
「特に無い。」 答えた。
大男は何も言わず、消えてしまった。
横たわる柱の上に立つ俺は何もする事が無い。
「帰る。」 帰った。
憧れは消えた。と思う。