【第97話:いるのか……?】
襲撃のあった翌朝。
と言っても、まだ日は明けていないのだが、とにかく何事もなく朝を迎えることができたのは良しとするべきか。
ただ、襲撃とその襲撃者からの手紙のせいで、あまり清々しいとは言えない朝を迎えていた。
「迷宮都市に向かわないわけにはいきません。最大限警戒しつつ、行きましょう」
襲撃され、脅されたからといって、ここで引き返すわけにはいかず、しかも昨日、馬車を壊されてしまったため、迷宮都市までは歩いて向かわなければならないというのも、憂鬱な原因だろう。
馬車で向かえば半日ほどなのだが、徒歩のため、まだ夜も明けきらないうちからの出発となった。
ただ、馬車に積んでいた必要な物資などは、昨晩のうちにできるだけ纏め、ユイナのアイテムボックスに収納できたので、移動手段以外は予定通りに進めそうなのが不幸中の幸いだろう。
「さぁ! いつまでも暗い顔しててもしゃーないやろ? 元気だしていこか~!」
「そうだね! じゃぁボク、今日のお昼はとっておきの料理をご馳走しちゃうよ!」
ユイナは王都で大きな箱をいくつか購入し、この人数なら十日は余裕を持って食べられるほどの食料、しかも出来立てのものをアイテムボックスに入れてある。
おそらく今日のお昼のご馳走と言うのは、そこから皆にふるまうつもりなのだろう。
……と、想像して思わず唾を飲み込んでしまった……。
「まぁただ、襲撃に備えて隊列を組み、最大限警戒しつつ向かいましょう」
と、元気よく言ってみたのだが、小隊長であるザリド以外は、皆申し訳なさそうに弱々しい返事だった。
「トリス殿、すまないな。皆、護衛について守っていたつもりなのに、逆に守られるような状況になってしまったので、落ち込んでいるのだ」
「いえ。怪我は魔法で治せたとはいえ、こうして迷宮都市まで着いてきて貰えるだけでも、ありがたいですから。それじゃぁ、出発しましょうか」
こうしてオレたちは、空に薄く光が差し始めたころ、宿場町を後にしたのだった。
~
迷宮都市へと向けて街道を歩き続け、日の光がようやく辺りの景色を照らし始めた頃だった。
「なんかいるなぁ……」
メイシーがぽつりと呟いた。
そして、少し遅れてユイナも、
「誰かいるね……ボクも街道横の林から魔力を感じるよ」
と、それを肯定する。
殺気を向けられれば、オレもすぐに気付くと思うのだが、こういう待ち伏せの気配を探るのは苦手でわからなかった。
まぁでも、二人が言うのであれば間違いないだろう。
「ずっと警戒して歩くよりかは、こうやって早く現れてくれた方が助かるな」
「お? トリスっちも言うようになったやん!」
「からかわないでくれよ。それよりユイナは……大丈夫か?」
魔物相手ならもうためらうことはないようなのだが、ユイナは人相手だと、まだどこか迷いがあるようで、念のために聞いてみた。
「う、うん。正直言うとね。人相手に戦うのはまだ抵抗があるんだけど、ボクはもう迷わないって決めたから!」
決意に満ちたその目は、今までの厳しい戦いの中でも時折見せていた強い意志を感じさせた。
だから、この目ができるのなら、今のユイナはきっと大丈夫だろうと判断した。
「わかった。それじゃぁ、最初から仮面をつけて、手加減抜きで出迎えてやるか?」
「うん! じゃぁ、ブースト行くよ~!」
少し歩みは遅くしたが、立ち止まった訳ではないので、向こうもまだ出方をうかがっているようだ。
だから、その隙に三人とも仮面をつけて、本気モードで出迎えてやることにした。
魔法鞄から仮面を取り出し顔につけるのと、ユイナの魔法がかかるのが、ほぼ同時だった。
そして……全能感がオレの体を支配していく……。
力が満ち、魔力が溢れ出るのを、オレはできるだけコントロールし、自然体を崩さないようにする。
最初はそんなこと全く出来なかったが、今では、かなり自然にブースト状態で過ごせるようになった。
そして今回は、ユイナとメイシーも仮面を装着する。
……と言うか……メイシーに至っては、各所に仕込んだ魔法鞄からプレートメイルを全身に装備したのだが、その頭部のヘルメットに、何故か埋め込むようにデザインされた仮面となっていた。
「なぁメイシー……それって、仮面いるのか……?」
どうみても、フルプレートのヘルメットがあれば、顔は見えない……。
「当たり前やん! これつけんと、仮面の冒険者ちゃうやん!」
「そ、そうか。なら、仕方ないな……」
これっぽっちも「仕方ない」とは思っていないのだけど、今のこの緊迫した状況でそれを伝えるのはやめておいた……。
「そうだよ。トリスくん。それに、せっかく魔改ぞ……パワーアップさせたんだから、使わないともったいないしね!」
今、魔改造とか聞こえた気がするが、これもふれるのはやめておこう……。
そしてさすがに、メイシーが突然フルプレートになって魔球ドンガーを出現させれば、敵も気付かないわけがなかった。
「さて……それじゃぁ、ザリドさん、今回の相手に関しては、オレたちに任せてください。ひと暴れして、借りを返してあげますから」
「わ、わかった……しかし、凄いものだな……事前に話を聞いていたのに、一瞬、トリス殿が誰かわからなくなって、その底の見えない強さを感じて恐怖を覚えたよ……」
呪いの効果はオレ自身には効かないので、その感覚がよくわからないが、ザリドはそう言って、軽く頭を振っていた。
そして……オレたち三人が前に出るのに合わせるように、敵もようやく林の中から、その姿を現した。
「待っていたよ。昨日の礼をさせて貰うから……覚悟してかかってこい!!」
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第三章に入ってゆったりとした展開でしたが、そろそろ動き始める予定です!
お楽しみに☆
それから前回で告知させて頂いた通り、コミカライズ連載が
コミックウォーカーとニコニコ静画で始まっております。
小説とはまた違った「呪いの魔剣」の魅力を、是非、お楽しみください。
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