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【第89話:星詠み】

「まさか……ギュスタブという男は、星詠みの予言を逆に利用して私腹を肥やしつつ、さらには大規模な戦争を起こして、無理やり予言の結果を変えるつもりなのか……?」


 思いつくままに口をついて出た言葉だったが、そう考えると、いろいろと見えてくるものが出てきた。

 歴史を大きく変えれば、予言も変わると言われているので、間違ってはいないかもしれない。

 だが、それをすれば下手をすると、悪い方に大きく傾く可能性が高いのではないだろうか?

 確か過去の教訓として座学で習った気がする。


 という事は……たとえば悪い方に未来を持っていきたいとしたら……?


「まったく! 星詠みを舐めてるとしか思えないわよね~。そんな簡単に自分の思い通りの未来をたぐり寄せる事が出来たら、私はこんな苦労してないわよ」


 同じ星詠みとして、何か憤ることがあるのだろう。

 マリアーナ殿下は、少し頬を膨らませてぷんぷんと怒っていた。


「マリアーナ様、やはり星詠みの力をもってしても、覗き見た未来を変えるということは容易ではないのですか?」


「そうね。星を詠むことで、これから起こるだろう物事を知り、星が導いてくれるままにその道を歩むのは、苦労の大小を置いておけばそれほど難しくないわ。何をすればその未来にたどり着くかがわかっていますからね」


 今までマリアーナ殿下が星詠みだということは知っていても、その星詠みがどういったものなのかを聞いたことがなかった。


「でも、望まない未来は別。星を詠んで知ったその未来に向かって歩むのは難しくないけど、その未来を別のものに、それこそ望む未来をたぐり寄せるのは、並大抵の努力では実現できないし、そもそも努力だけでどうにかできるものでもないの。だいたい星に刻まれた未来と別の未来を望むのですから、星詠みの力はほとんど役に立たないですしね」


 マリアーナ殿下は、そこまで一気にまくし立てるように話しきると、テーブルに置かれていた果実水を一息で飲み干した。


 話の途中までは、元々持っていた認識とあまり違いは感じられなかったが、後半の望まない未来に関しては、マリアーナ殿下の説明を聞いて「なるほど」と納得させられた。


 星詠みの力は、あくまで「知る」ことだけで、望む未来をたぐり寄せるようなものではないのだ。


 ただ、そんな話は最初から知っていただろうスノア殿下は、その話の内容よりも、マリアーナ殿下のマナー的なものが気になったようだ……。


「もう……お姉様……そんな事をしていると、またお母様に叱られますよ?」


「美味しいものは美味しく頂けば良いのよ」


 スノア殿下が豪快に果実水を飲む姿に苦言を唱えるが、マリアーナ殿下はまったく聞く気はないようだった。


「もう……まぁいいですわ。でも、今お姉様が言われたように、本来なら魔神が現れるという望まない悪しき未来を詠んでしまったのなら、あらゆる手を打って別の未来をたぐり寄せようとするはずであり、実際に今までの聖王国の動きを見るに、そうしていたのが伺えるのですけど……ね」


「宰相のギュスタブは、まるで自ら望んでその悪しき未来に突き進んでいるように見えますね。本当にいったい何を考えているのでしょう」


 オレが何となく感じるままにそう呟いた時だった。


「そうなんじゃないかなぁ……」


 ユイナがぽつりと呟いた。


「え? ユイナ? いったいどういう意味だ?」


「あ、いや、その……まったく何の根拠もない話だから……」


 慌ててそう言って断ろうとしたユイナだったが、


「ユイナ? 宰相のギュスタブを実際に間近で見て、その人となりを知っているのはあなただけです。何か思うところがあるのなら、言ってみてください」


 スノア殿下に促されて、遠慮がちに口を開いた。


「もしかしてですが、ギュスタブさんは何か理由があって、その悪しき未来を望んでいるんじゃないかなって……」


 たしかにオレもさっきそのように感じはしたが、それは世界が滅ぶという事ではないのだろうか?

 一度は浮かんだ考えだったが、自ら望んで世界を滅ぼしたいというのは、やはりオレには理解する事が出来なかった。


「ユイナは、そのギュスタブが、世界が滅んで欲しいと思っているんじゃないかと言いたいのか?」


「ん~正直なところ、ギュスタブさんの心の中までは全然わからないんだけど、でも、あの人の性格なら、もし何かどうしても叶えたい目的があったのだとしたら、魔族でも魔神でも利用できるものは何でも利用しようとしそうだなって……」


 自分の目的のためなら手段を選ばないといった奴なのか。

 そんなことを考えていると、またマリアーナ殿下がまた怒り出した。


「最低な奴なのね! そんな奴ぶっ飛ばしてやるんだから! えっと……トリスぶっ飛ばしてきて!」


「え? む、無茶を言わないでください……」


 オレだってそんな身勝手な奴なら「ぶっ飛ばして」やりたいけど、聖王国の一番安全なところにいるだろう権力者をそんな事できるわけがない。


「じゃぁ、呪ってあげて!」


「いや、マリアーナ様、それも無理ですから……」


「え~? それもまだ出来ないの? トリスは早く魔剣を使いこなして~!」


 さらっと聞き流そうかと思ったが、マリアーナ殿下の言葉の何かが引っかかった。

 そうだ……「まだ」「使いこなして」ってどういう……。


「冒険者。三つ目の報告を先に話しておきましょう」


 マリアーナ殿下に確認しようと思って口を開きかけたときに、リズが割り込むように話しかけてきた。


「え? あ、あぁ、わかった。頼むよ」


「三つ目の報告ですが、迷宮都市にて聖王国の間者と思われる者たちの動きが活発になってきており、マリアーナ様の星詠みの結果と併せて考えたところ、やはり『勇者の遺産』と呼ばれる迷宮の秘宝を狙っているのではないかと言うことがわかりました」


 その後、リズの口から語られる話を聞いて、色々と自分の持っている認識を改める必要が出てきた。


『勇者の遺産』

 それは、過去に召喚された勇者が特殊な技能などを駆使して作った魔道具や、古代遺跡から手に入れた規格外の装備のことだ。

 これらは、迷宮に元々あった秘宝と同様に、今も多くの冒険者が一獲千金を夢見て迷宮に挑み続ける原動力となっている。


 これは、冒険者ならだいたい知っている話だ。


 だが……王国の掴んだ情報には、その先があった。


 それらの『勇者の遺産』とは、魔神を封印後に、元々聖王国で管理されていたものが、過去に何者かによって持ち出され、その後、迷宮の秘宝として発見されたということらしい。


「秘宝って、迷宮制覇者が受け継ぐって言われている、あの?」


 そして秘宝とは、迷宮を制覇した者が手にする事の出来る宝であり、制覇したものだけが主として認められ、その装備や魔道具を扱う事ができるそうだ。


「トリス、お姉様が星を詠んだところ、トリスとユイナが迷宮に向かうことで魔剣の謎にも近づくということを伺っています。」


「迷宮にですか? という事は……」


 まさか次に向かって欲しい所というのが迷宮だとは思わなかった。

 そして、次の目的地が迷宮と聞いて、わくわくしてしまっている自分に気付いてしまう。

 こんな大きな話をしているのに、なんだか申し訳ない気分になるが、でも、いつかは迷宮に潜りたいと憧れていた冒険の舞台なので、こればかりは抑えようがなかった。


「はい。迷宮に潜り、なんとか制覇して、ある秘宝を手に入れてきて欲しいのです」


「ある秘宝……ですか?」


 どういう事だろう。

 秘宝とは、そもそも迷宮を制覇できたとしても、自分で選べるものでは無いと聞いている。


「実は、盗まれた『勇者の遺産』の中で、未だに迷宮から発見されていない秘宝の一つに、『魔神の心臓』と呼ばれるものがあるのですが……ギュスタブは、どうやらこの秘宝を手に入れようと躍起になっているようなのです」


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