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【第85話:王都エインハイト】

 エインハイト王国の中央にある街『王都エインハイト』。


 国の名を冠するこの都市は、エインハイト王国の中でも飛びぬけて人口の多い巨大都市で、その市民の数は二十万を超える。


 周りをぐるりと高い城壁に囲まれ、四方にある門には過去の遺物である巨大なゴーレムが配され、他の街とは比べ物にならない堅い守りを誇っている。


 ただ、そのゴーレムは有事の際にしか起動されないため、動いている姿は誰も見た事はない。

 それでも、城壁に埋め込まれるように設置された巨大な台座に腰かけるその姿は、それだけで威容を放っており、見るものを安心感で包んでくれた。


 そして今、遠くに見えているのは、その南門。


「ふ~……ようやく着いたね~! ボク、もう馬車の旅は当面したくないなぁ……」


 愚痴を零しているのは、一見すると頼りなさそうな黒髪の少女。


 歳は同じ一五歳だが、その見た目は少し幼く見える。

 しかし、その少し幼い見た目とは異なり、その澄んだ黒い瞳はとても綺麗で、見るものを惹きつける魅力を持った少女だ。


 その少女の名前は『ユイナ』。

 正確には『新垣 結奈(あらがき ゆいな)』という。


 そして、彼女はこの世界の人ではない。

 異世界から召喚された召喚者の一人で、勇者候補でもあり、その魔法の実力はかなりのものだ。


「なんや? ユイナっちはお尻でも痛くなったんか?」


「なっ!? ちょ、ちょっとメイシーさん!」


「それぐらいで顔を赤くして、ユイナっちはほんまに初心(うぶ)やなぁ?」


 そう言ってユイナを揶揄っているのはメイシーと言う名の少女。

 いや、その見た目だけなら幼女と呼んでも良いかもしれない、それほど幼く見える少女だ。


 だが、彼女は実際にはオレたちの中では断トツで最年長らしい(・・・)

 この「らしい(・・・)」と言うのは、メイシーに年齢を聞く勇気は、オレにもユイナにもないからだ……。


 メイシーは人族ではなくドワーフだ。

 ドワーフはエルフほどではないが、長命な事で知られており、しかもドワーフの女性はその容姿が幼い事でも有名だ。


 そして何より、彼女は冒険者としても一流のAランク、第一級冒険者だ。

 その実力は目を見張るものがあり、彼女の武器である魔球『ドンガー』は、とてつもない破壊力を誇っている。


 しかも、彼女が誇るのは強さだけではない。

 冒険者としての豊富な経験は、まだ冒険者になって日の浅い、オレとユイナにとってはとても頼りになるものだ。


「しかし、オレもユイナと一緒で、馬車の移動はあまり好きじゃないな。正直に言えば、荷物だけ馬車に載せてとなりを歩く方が好きだな」


「えぇぇぇ……ボクは、それは遠慮したいかな……やっぱり馬車の中でいいや」


「トリスっちは、ほんまに鍛えるの好きやなぁ。うちはほどほどでええわ~」


 そして、トリスとはオレの事だ。


 ライアーノ男爵家の三男『トリス・フォン・ライアーノ』。

 だが、既に成人して家を出たので貴族ではない。今はただの(・・・)冒険者だ。


「そもそもトリスくんは、その魔剣のお陰で寝ててもトレーニングされているんだから、もっと怠けても良いと思うんだけどね……」


 オレの相棒である魔剣。

 その真名は不明だが、幼少期に両親から授かった大事な剣だ。


 しかしこの魔剣、どうやら呪いの(・・・)魔剣らしく、自らの持ち主と認めた相手に対して、強力無比な呪いによって、あらゆる負荷をかけ続けているらしい。

 このらしい(・・・)と言うのは、オレ自身は長年ずっと共にいたため、それが普通になってしまっているためだ。


 だが、それでも常時鍛えられているのは確かで、呪いの負荷を解除した時には本来の力を取り戻し、勇者を超える能力を発揮する事が出来る。


「いや、この間の戦いでも力不足を感じたし、それに、失われた剣技をもっと使いこなせるようにならないと、この先、いつか後悔する時が来てしまうと思うんだ……」


 だが、それでもまだ足りない……。


 先日の戦いでは、本当にギリギリの戦いだったのだ。

 それを思い出していると、


「とりゃぁっ!」


 メイシーが後ろから頭に手刀を振り下ろしてきた。


「いっ!? め、メイシー? な、なにを……」


「トリスっちは、すぐに一人で抱え込む! まずは仲間と協力することを学ばなあかん言うてるやろ!」


 馬車の中でそんな会話をしていると、御者席で馬を操る商人のソルナートから、


「さぁ、そろそろ『王都エインハイト』の南門に着きますよ~。荷検(にあらた)めがあると思うので、準備をお願いします」


 と、声を掛けられた。


 王都は普通の街より少し警備がきつく、その身一つの者たちを除き、馬に乗る者や、荷馬車や馬車でやってきた者たちは、その荷を確認されることになっていた。


「わかりました。列の後ろに着いたら、一度降りますね」


 そこまで長い列ではないが、門の前には馬車や馬の列が出来ていたので、その列に並んだタイミングで降りれば十分なはずだ。


「はい。それでお願いします」


 商人のソルナートは、人の好さそうな笑みを浮かべ、元々細い目を更に細めて頷いた。


 道中、街道から少し離れたところに、三匹のサーベルキャットという猫を模倣した魔物と遭遇したので戦ってこれを討伐したが、他には特に魔物に襲われるような事もなく、無事に王都まで平和な旅をする事ができた。


 まぁ、そもそもそのサーベルキャットも、本来なら街道からかなり離れていたので、発見報告をするだけでオレたちに倒す義務まではなかった。

 だが、苦も無く倒せるオレたちが見過ごしたせいで、誰かが傷つく恐れがあるのは不本意だし、可能なら出来るだけ倒しておきたい。

 でも、オレたちはソルナートの護衛で雇われた身なので、ソルナートが先に進むと言えば従うしかなかったのだが、彼は快く許可を出してくれた。


 まぁ第一級冒険者のメイシーがいるので、心配いらないと思っただけかもしれないが、それでもこちらの我儘に許可を出してくれたのは嬉しかったし、それをきっかけにして少し打ち解けることが出来たので、終始楽しい雰囲気の中で道程をこなす事ができた。


 その後、列に並び、荷の検めも問題なく終わり、街の中に入ったオレたちは、門前広場でソルナートと別れの挨拶を交わしていた。

 護衛依頼の場合、門をくぐったところで依頼完了になるのが通例だからだ。


「いやぁ~、皆さん本当にお強いし、安心して旅をする事ができましたよ」


「うちらも気持ちよく護衛の依頼をさせて貰ったわ。おおきにな!」


「ソルナートさん、お世話になりました!」


 ソルナートとメイシー、ユイナがそれぞれお礼の言葉を述べる。


「メイシーさんもユイナさんも、ありがとうございます。私も皆さんのお陰で楽しい旅路でした。皆さん『剣の隠者』が今後も益々ご活躍される事をお祈りしております」


 なかなか気持ちの良い人だったな。

 道中も一緒に他愛もない話をしたので、少し名残惜しい。


「ソルナートさんも商売が上手くいくと良いですね」


「トリスさんも、ありがとうございます。それでは、これが依頼完了の証明書です。どうぞお受け取りください」


 そう言って手渡してきた証明書を受け取ると、最後にもう一度礼を言ってソルナートとも別れた。


「じゃぁ、まずは先に宿をとって、それから冒険者ギルドに完了報告に行こうか」


 こうしてオレたちは、王都へと足を踏み入れた。


 しかし、のんびりと王都観光などをする時間はない。

 明日は王城を尋ねなければならないからだ。


 スノア殿下と会い、これからの話をしなければいけない。

 オレはこの門前広場からでも見える、遠くに聳え立つ王城に目を向けると、あらためて気持ちを引き締めたのだった。


******************************

いよいよ第三章がスタートしました!


ここからは、活躍の地を他の街へと移し、全く新たな展開と

なりますので、トリスたちの活躍をご期待くださいませ♪


それと、ようやく……本当にようやく発表する事が出来ます!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

2020年5月25日(月)

MFブックス様より、書籍第一巻、

『呪いの魔剣で高負荷トレーニング!? ~知られちゃいけない仮面の冒険者~1』

が発売されます!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


はい。しれっと微妙にタイトルも変更になっております。

え? 気付かない? それなら気にしないで下さい(笑)


書籍版では書下ろしを含め、4万字以上の加筆を行い、

全文章の見直しと、描写も含めた大幅なブラッシュアップを

おこなっております。

Web版を読んで頂いた方にも楽しめる内容になっているかと

思いますので、書籍版も是非読んでみて下さい!


今後、書籍版については、活動報告にて各種情報をご報告させて

頂きますので、興味を持って頂いた方は、作者の『こげ丸』を

フォローして、続報をお待ち頂けると嬉しいです!


それでは、これからも『呪いの魔剣』をよろしくお願い致します!


===こげ丸===


******************************


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― 新着の感想 ―
[一言] >都市は同じ一五歳 王都って出来てから15年程度なん?(目反らし >見過ぎしたせいで、誰かが傷つく恐れ 見逃し?見過ごし?それとも・・・見るだけで攻撃可能な、魔眼持ち?(スットボケ
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