【第81話:魔剣の記憶】
風を置き去りにして疾駆する。
包まれる全能感、湧き上がる力と魔力。
こちらに気付き、炎の魔族が巨大な火の塊を投げつけてきたが、居合斬りの要領で振り抜いた魔剣で斬り裂いた。
『トリスくん! 援護するよ!』
仮面越しにユイナの声が聞こえた瞬間、後方から光が溢れ、無数の光の線がオレを追い越し、炎の魔族に突き刺さる。
「ぐるぉぁ!!」
言葉にならない声をあげるその姿は、ダメージが通った証だろう。
「良し! 一気に攻勢をかける!」
しかし、なんだ……。
いつも以上に体が軽い。
限界突破のあの強烈な反動を乗り越えたからだろうか?
僅かな時間で炎の魔族の足元にたどり着いたオレは、横薙ぎの一閃を放ちながら駆け抜けた。
僅かに抵抗を感じたものの、あっさりと左足を深く斬り裂く事に成功する。
だが……オレの斬り裂いた左の足首も、ユイナが『閃光』でつけた傷も、炎の魔族の巨体からすると、小さな傷にしか過ぎなかった。
「くっ!? 大きすぎる! それに……やはり修復が早い!」
剣身の半分が埋まるぐらいには深く斬り裂いたのだが、それも溢れ出た瘴気に覆われたかと思うと、あっという間に修復されてしまう。
これは、かなり高い攻撃方法で攻撃しないと、意味がないぞ……。
オレの持つ手札だと、『落葉の舞い』がダントツで威力が高いのだが、斬り上げから飛び上がり、そこから下に向けての振り下ろしという技の性質上、この炎の魔族のような巨躯を持つ相手には相性が悪かった。
まず、斬り上げ時にはそこまで威力がないため、そのまま宙を舞ってしまうと、反撃を喰らう可能性がある。
その上、威力のある振り下ろしも、足に向けて放つことになるため、上手く技が決まったとしても、そこまでダメージが期待できないだろう。
それに、相手が巨大過ぎるため、足を止めて斬り結べば、横殴りに腕を振るわれでもすれば、避ける事が難しい。
中々厄介な敵だ……。
さっきから、また魔剣の囁きが聞こえる気がするが、その声に耳を傾ける隙もない。
ブースト状態なので、走り続けた所で体力が尽きるような事もないだろうが、それでも、ユイナにかけて貰っている魔法には制限時間がある。
掛けなおして貰う事は出来るだろが、それだけでは何の解決策にもならない。
こうして考えている間にも走り続け、放たれる炎やその巨大な拳を避け続けている。
「少しの間だけでいい。奴の動きを止められれば……」
そう呟いたその時だった。
「ぐがぁぁるぁぁ!!」
炎の魔族が初めて苦悶の声をあげる。
ようやく追いついたメイシーが腹に魔球を打ち込み、一瞬だが炎の魔族の動きを止めると、それ続いてシャーミアたちが放った氷の槍が、その顔面に次々と命中したのだ。
「仮面のにいやん! 何か狙ってるなら、今やぁ!!」
オレの迷いを動きから読み取ったのだろうか?
メイシーたちに感謝をしつつ、オレは魔剣と深く魔力同調すると、その声に意識を傾けていく。
それは、魔剣の記憶というのが一番近いだろうか。
オレの頭の中に流れ込んできたのは、断片的な魔剣の記憶。
失われた剣技を伝えるため、この魔剣は生み出された。
その資質を持つ者を見極め、主人と認めると、強力な呪いによって負荷を与え、その下地となる精神と肉体をつくり上げる。
そして……。
目を開けると、魔剣が今までに見た事も無いほど、禍々しい光を発して輝いていた。
魔剣の発する魔力が跳ね上がり、同調するオレの魔力が、それに合わせて無理やり引き出される感覚に、一瞬、苦悶の声をあげる。
「ぐっ……こ、これは……」
光を発しているのは魔剣だけではなかった。
体から溢れ出した大量の魔力が可視化し、オレの身体までもが禍々しい光を発していたのだ。
「……この負荷に耐える身体をつくるために、魔剣はオレに呪いを掛け続けていたのか……」
感覚としては限界突破の状態に近いが、あれは肉体的なものだけなのに対して、今は肉体だけに留まらず、魔力も、そしてまるでオレの存在自体までもが一つ上のステージにあがったような、そんな感覚だ。
それに、以前『落葉の舞い』を授かった時と違い、今度は記憶としていくつかの技を授かった。
「いや、これは技とは言わないのか。これは……舞い、『剣の舞い』と言うのか……」
失われた剣技を伝える為に生み出されたのが『剣の舞い』といった感じだろうか。
まだ全てではないが、その『剣の舞い』の一部を記憶という形で授かったようだ。
ここまで、実際にはほんのわずかな時間だろう。
だが、わずかな時間にもかかわらず、オレは、長い年月を魔剣と共に修練をつんだような、そんな感覚を味わっていた。
「ちょぉぉい!? 仮面の兄やん! いくらなんでもその場に留まりすぎやぁ!」
焦るメイシーの声に我に返ると、炎の魔族が、オレに向けて拳を振り上げている姿が目に飛び込んできた。
『に、逃げてぇーー!』
仮面越しにユイナの悲鳴のような声が聞こえたが、オレの心はまるで凪のように穏やかだった。
「……『音無しの歩み』……」
さっきまでオレがいた場所が……爆ぜた。
その巨大な質量と膂力、それに纏った炎が、地面に巨大な窪みを作り上げていた。
「仮面の兄やん!? い、いや、なんや今のは!? 攻撃を喰らう前に姿が掻き消えたで!」
メイシーにはオレが突然消えたように見えたのだろう。
今までのオレが、身体能力に任せて踏み込み、地面を爆ぜさせて得ていたその速度を、軽く凌駕する移動速度だ。
音を立てる事もなく、円を基本とした体重移動と体捌き、足運び。
さらにそこにこの溢れ出した可視化された魔力を緩衝材にして成しえた歩法。
その名は『音無しの歩み』と言う。
ゆるりと魔剣を水平に振るうと、その勢いに逆らわず、くるりと廻るように足を運び、纏った魔力を用いて滑るように瞬間移動する。
オレを見失った炎の魔族が、オレの姿を探して歪な瞳をぎょろぎょろと動かす。
「こっちだ!」
オレの声に反応して振り返るが、既にオレの姿はそこにはない。
「な、なんやねん。その氷の上を滑ってるみたいな滑らかな動きは……」
『うわぁ……まるで小っちゃな頃、神社で見た神楽みたい!』
この動きが何とか見えているのは、二人がかなり遠くにいるからだろう。
オレは翻弄される炎の魔族の後ろを取ると、魔剣の記憶をなぞるように、失われた剣技を放った。
「最期だ……失われた剣技の一つ……」
魔剣に同調した魔力が更に跳ね上がり、無理やりオレの中から魔力がごっそりと引きずり出される。
身体が悲鳴をあげ、口の中に鉄の味が広がるが、ここで止めるわけにはいかない。
眩く、それでいて禍々しい光を放つ魔剣を下段に構えると、可視化した魔力を今度は足場に用いて宙を翔た。
「『天翔竜の舞い』!」
魔剣が放つ禍々しい光が、巨大な刃となって切先を伸ばし、炎の魔族の腰、背中、そして……、
「はぁぁぁぁ!!」
頭までをも、完全に真っ二つに斬り裂いたのだった。
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少し更新が空いてしまい、すみません<(_ _")>
年末年始でバタバタとしていたのと、原稿の作業が重なって
思うように連載分の執筆をする時間が取れませんでした……。
ちなみに書籍版はかなり改稿したり、書下ろし追加したり
していますので、詳細の発表をもう暫くお待ちくださいませ。
さらにちなみにになりますが、イラストの原案を頂きました!
もうねぇ……トリスはカッコよすぎるぐらいにカッコイイし、
ユイナは「マジですか!?」ってぐらい神可愛いし、
スノアもめっちゃ綺麗でセクシーだし、ほんとに早く
皆さんにお見せしたいです。
思わず「なんだ。ただの神か」って呟いてしまいました(+_+)
長くなりましたが、今年も当作品をよろしくお願いします!
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