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【第63話:行動と目的】

「ご、ごふっ……や、矢代ざん、ど、どうして……」


 口から大量の血を吐き、呻くユウマの姿に、驚くと同時に理解が追い付かなかった。


「お、お前がヤシロか? ど、どうして仲間を……」


 そして、オレの口から出た言葉も、結局ユウマと同じ「どうして?」という疑問の言葉だった。


「ん? どうして? 二人ともおかしな事を聞くんだな」


 ようやくオレに視線を向けたヤシロは、感情の見えない表情で口を開くと、


「役に立たないモノをそのまま残しておいても無駄だろう?」


 そう言って、不気味に微笑んでみせた。


「し、死に、たぐ……な、い……」


 場合によっては殺し合いになっていた相手だが、それでもヤシロの行った残虐な行為に怒りがふつふつとわいてきた。


(それに、こいつは危険すぎる。仲間にこのような事をするという事は、ユイナにも当然のようにその牙を向けるはずだ。放っておくわけにはいかない)


 ユウマを救うのはもう難しいだろう。

 この場にスノア殿下がいれば、もしかすると救えるかもしれないが、いくら今のオレが莫大な魔力で水属性の回復魔法を使用したとしても、胸を貫かれていては救う事は出来ない。


 そう思っていたのだが……。


「さぁ、さっさと目覚めろ」


 ヤシロがそう言って更に傷口を広げた時だった。

 ユウマの身体が脈動したかと思うと、突然大量の瘴気があふれ出した。


「まさか!? 最初から魔族化させる事が狙いか!?」


 ユウマの元の実力を考えると、魔族化されるとかなり厄介だ。

 ユウマには悪いが、ここで倒さないと不味いと覚悟を決めて駆け出した。


 だが、オレの狙いを読んだヤシロが、ユウマの間に割って入る。


「押し通る!」


 今まさに全力で斬りかかろうと魔法剣を振り上げたオレの目の前で、ヤシロは虚空から巨大な剣を取り出した。


「くっ!?」


 まさかあっさり防がれるとは思っておらず、一瞬怯んでしまうが、受け流された剣を流れるようにひき戻すと、そこから剣を逆袈裟に斬り上げた。

 だが、ヤシロはこれもあっさり受け流すと、強引に巨大な剣を振り抜いて、一旦距離を取った。


 魔族化の始まったユウマの胸を貫き、抱えながら……。


(片腕をユウマに突き立てた状態で、オレの全力の動きについてくるのか……それにヤシロの持つ剣は……)


 その手に持つ禍々しい剣からは、異様な魔力のうねりを感じる。


 魔剣だ。


 ヤシロはここでようやくユウマから手をひき抜くと、その顔に笑みを浮かべ、


「いやぁ。別に死んだら死んだで、力が再分配されるから良いんだけどね。でももう……止まらないよ?」


 そう言ってオレから、いや、膨張し始めたユウマから距離を取った。

 体中からメキメキと嫌な音を発しながら魔族化が本格的に始まったユウマも警戒しながら、オレはヤシロのさきの言葉に焦る気持ちを抑えるのに必死だった。


(こいつ!? 召喚者が死ぬと、力が他の者に流れ込むことを知っているのか!?)


 知られてはいけない、その恐れていた情報を口にしたヤシロに、オレは動揺を隠しきれずにいた。


 とその時、ユイナの声が頭の中に響く。


『トリスくん! どうしたの!? 大丈夫!? もしかしてそこに矢代くんがいるの!?』


 こっちの声は聞こえているようなので、ある程度状況は把握しているのだろう。

 ユイナが、ヤシロがそこにいるのかと尋ねてきた。


「あぁ、ヤシロって奴もいる。しかし、ちょっと普通じゃないな。こいつ……」


『矢代くんはいつも一人でいたし、リーダー格の本田くんも何か避けてるような感じだったから、ボクもほとんど話したことないんだ。でも……たぶん実力は召喚者の中でも一二を争うと思う。可能なら一旦ひいてボクたちと合流して!』


 ユイナと話している間にも、ユウマの魔族化が進んで行く。

 背中から翼のようなものまで生えてきて、以前、サイゴウが変化したのとは違う、また別の姿へと変貌していく。

 致命傷だった胸の傷は瘴気によって塞がり、回復したようだが、もうここまで来ると人として救う事は難しいだろう……。


 そして、ここまで魔族化してしまうと、ユウマをこのままここに放置する事が出来なくなった。

 本当はユイナやメイシーの力を借りたいところだが、完全に魔族化したユウマをこのまま捨て置く事はあまりにも危険すぎる。


「いや、引く事は出来ない。ユウマが完全に魔族化してしまっている……今ここでオレがいなくなったら、ソラルの街を始めとして、多くの人たちに被害がでる」


『そんな!? もうそこまで事態が進んでいるの!? ……でも、わかったよ。メイシーちゃんも協力してくれるって言ってるし、すぐにそっちに向かうから! だからトリスくん、絶対に死なないでよ!』


「あぁ、まだ冒険者となって色んな経験を積みたいからな。そう簡単に殺されてやるつもりはない」


 そんな会話をしていると、ヤシロがオレの様子に気付いて話しかけてきた。


「ほ~。何をぼそぼそと呟いているのかと思ったら、通信系の魔道具を持っているのか。聖王国にも現物はなかったのに、よくそんな珍しい物持ってるな」


 余裕の態度を崩さないヤシロに少し苛立ちを覚えるが、今この状況で魔族化したユウマと一緒になって、積極的に攻めてこられるよりはマシだ。

 出来ればこの隙に、ユウマが完全な魔族化を終える前に攻撃を仕掛けたいのだが、オレはヤシロの行動が読めず、踏み込めないでいた。


「ヤシロと言ったよな。お前の目的は何なんだ? 聖王国に命じられてユイナを連れ戻しに来ただけ(・・)のか?」


 普通に考えれば、この二人はサイゴウの事に関する調査や、サイゴウの後を継いでユイナを連れ戻しに来たと考えるべきなのかもしれないが、ユウマへの仕打ちや、召喚者の力の再分配の事を知っているなど、どうにも腑に落ちない点が多すぎる。


(そもそも、サイゴウの件が聖王国に伝わってから、この国に向かったのだとしたら、余りにもここに現れるのが早すぎる)


 そう考えると、尚更、ヤシロの行動とその目的がわからなくなってきた。


「ふっ。そんな深く考える事ではない。理由は単純だから……。でも、まぁ今は悩んでおくといい。すぐに明かしても面白くないからな。次に会った時にでも気が向けば教えてやるよ」


 何か手がかりでもと思ったが、それ以上は話してくれないようだ。


「そうか。だが、ここで負けたら次はないぞ?」


「面白い事を言うな。勝つ気でいるのか? ん? もう少し話していたいが……どうやら時間切れのようだ。頑張って悠馬を倒してくれよ?」


(時間切れ? ユウマを倒してくれ?)


 ヤシロの言葉の意味を捉えきれず、一瞬、思考を逸らした瞬間だった。


「じゃぁまたな。魔剣に選ばれし者よ」


 そう言った瞬間、ヤシロの周りの空間が歪みはじめ、


「空間が裂けた!?」


 その裂けた空間に身を滑りこませ、ヤシロはオレの前から消え去ったのだった。


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[一言] 日本人が『魔剣に選ばれしものよ』なんてセリフ吐いてるとちょっとクスッとしちゃう この世界に来て抑えられてた厨二病が解放されちゃったのかなって
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