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【第50話:ソラルの街の冒険者ギルド】

「え!? 変異種が現れたの!?」


 ユイナの驚く声が食堂に響いた。

 既にそこには先ほど話を聞いた商人たちの姿はなかったが、他の朝食をとっていた者たちの視線が集まって、慌てて謝るユイナ。


「トリスくん。それって……関係あると思う?」


 何がとは言わないが、ユイナの言いたい事はわかる。


「正直、なんとも言えないかな……。ただ、変異種なんてそうそう発生するものじゃないから、その可能性は否定はできないと思う」


 オレの言葉に不安そうな表情を浮かべたユイナは、暫く一人悩むような表情を浮かべてから、オレに尋ねてきた。


「その変異種の討伐って、ボクたちで何とかできないかな?」


 その気持ちはわかるが、だがオレたちは指名依頼中だ。

 簡単に頷く事は出来なかった。


「オレも出来る事なら何とかしたいんだが……」


 やはり、ミミルの護衛を放り出していくわかにはいかないと、そう続けようと思ったその時、


「トリスお兄ちゃん。ミミルの事なら街の中だし大丈夫だよ」


 いつの間にか近くまで来ていたミミルがそう言って言葉を遮った。


「ミミル……」


 しかし、後ろにいるミシェルも反対ではないようで、ミミルのその言葉に頷き、言葉を引き継ぐ。


「まぁ本当はダメなんでしょうけど、この街の方が困っているのなら、それに手を貸すのも良いのではないですか? でも……倒せるような相手なのですか?」


 確かにミミルが教えを受けている間は、元々どちらか一人が側にいるだけの予定だったので、例えばオレが一人で様子を見に行くぐらいなら良いかもしれない。

 それに、ユイナに最大まで魔力をタメて貰ってブーストしていけば、上手くいけばそのまま倒せるかもしれない。


「ん~何とかなるんじゃないかとは思うけど……。それじゃぁ、セルビスさんの家までみんなを送った後、まずはオレ一人でギルドに行って話を聞いて来るよ」


 こうしてオレは、ミミルたちをセルビスさんの家に送り届けてから、この街の冒険者ギルドに向かう事になったのだった。


 ~


 ソラルの街の冒険者ギルドはセルビスさんの家とは反対にあたる街の外れにあった。

 ジオ爺さんが馬車で送ってくれたので、それほど時間はかからなかったが、歩くと少し時間がかかっただろう。


 オレはジオ爺さんに送ってくれた礼を言って、冒険者ギルドの前に立つ。


 大きさはライアーノの冒険者ギルドより二回りは小さいだろうか。

 二階建ての建物の横にある訓練用のスペースも申し訳程度の広さで、1パーティーが使用すれば、それでもう一杯の広さだ。


 しかし、ここはそれだけ普段平和な街だという事なのだろう。

 悪いことではないと思い直し、扉をくぐる。


「すみません。オレはこの街に護衛依頼で来ている冒険者なんですが、最近、変異種が現れて問題になっていると聞いて、少し気になるので情報を頂けませんか?」


 オレは冒険者ギルドの中に入ると、受付窓口に向かい、さっそく食堂で聞いた話について尋ねてみた。


「もしかして、討伐依頼を受けて貰えるんですか!?」


 カウンターから身を乗り出して、いきなりそう尋ねてくる若い受付嬢に若干ひいていると、後ろから現れた男性職員に、


「こら! 何とかしたい気持ちはわかるが、対応まで焦ってどうする!」


 と、頭に手刀(チョップ)を喰らって頭を抱えてカウンターに突っ伏した。


「うぅ……痛いです」


「すまないな。情報と言っても余り詳細はまだ掴めていないんだが、私の方から話させて貰おう。だがその前に、ギルドカードを見せてくれないか?」


 規則だからよろしく頼むと言われ、オレは職員に『剣の隠者』としてのギルドカードを渡す。

 実は『仮面の冒険者』として活動する時用の1級冒険者としてのカードも所持しているのだが、もちろん今は仮面など付けていないので、こちらを間違えて出さないように気を付ける。


「ほぅ。その若さで中級冒険者なのか。大したものだ……な……」


 終始落ち着いた雰囲気で対応してくれていた男性職員だったが、突然、驚愕の表情を浮かべる。


 先に対応してくれた若い受付嬢もその事に気付いたようで、


「あれれ? ドナックさん、どうかしたんですか?」


 と、顔を覗き込むように尋ねた。


「あ、いや……。トリスさん。ちょっと詳しく説明させて頂きたいので、奥の部屋に来て貰えないだろうか?」


 その言葉でオレはヨハンスさんの言っていた言葉を思い出す。


(たしか各ギルド支部でオレとユイナの事を知る担当の人がいるって話だったな)


「わかりました。詳しく聞かせてください」


 その後、ドナックと呼ばれた男性職員にカウンターの奥にあった部屋に案内されるのだが、


「なんでローメナまでついてきている……」


 当たり前のように部屋に一緒に入ってきた若い受付嬢が、また頭に手刀(チョップ)を喰らっていた。


「うぅ……痛いです……でも、私も一緒に話を……」


 すぐに諦めて出るかと思ったローメナという受付嬢は、意外にもその表情を少し真面目なものに変えて食い下がる。


「ローメナの担当は受付だろ? 早く戻るんだ」


「だって! ……私が安易に『風と斧』の人たちに依頼を出しちゃったから、あんな苦しんで……」


「気持ちはわかるが、トリスさんには状況をしっかり説明するだけだから、ローメナは戻れ」


 その後、ドナックと言う男性職員に説得され、少し目に光るものを湛えながら、ローメナは部屋を出ていった。


「トリスさん、お見苦しいところを見せてしまい申し訳ない」


「いいえ。オレは全然気にしていないので。それより、彼女はいったい?」


 話を少し聞いてみると、どうやらまだ変異種が出現したとわかっていない時に、ローメナが討伐依頼を紹介したパーティーが大怪我を負ってしまい、その責任を感じているのだという話だった。


「まぁ、彼女の事はフォローしておきますので、話を先に進めさせてください」


「はい。わかりました。それで……ここに通されたという事は……」


「私がこの冒険者ギルドでのトリスさんの、いえ、『仮面の冒険者』の担当をさせて頂く事になっているドナックと申します」


 やはり、オレとユイナの事を知る者だったようだ。

 オレは少しやりにくいものを感じながらも、よろしくお願いしますと挨拶を返しておく。


「それでは、まずは変異種の現れた経緯など、詳しく説明させて頂きます」


 始まりは普通の魔物の出現だった。

 いや、正確に言うと、少し珍しい魔物と言えるかもしれない。


 その魔物はアンデッド系と呼ばれる魔物だったから。

 アンデッド系の魔物は、人や動物などの死ぬ間際の姿、もしくは死んだ後の姿などを模倣して発生する魔物だ。


 その場所で最初に見つかった魔物の名は『ゾンビ』。

 人の亡くなった後の姿を模倣して発生する魔物だ。


 ゾンビは動きが鈍く、知能もほとんど持っていないため、ゴブリンなどと同程度の強さとされている。

 ただ、必ず集団で発生する事と、その爪に毒を持つため、魔物のランクとしてはDランクとされていた。


 そこでローメナは、この街の冒険者の中では比較的ベテランとされる、同じDランクの中級冒険者6人で構成される冒険者パーティーの『風と斧』に討伐依頼をだしたのだが、そこで予想外の数のゾンビに取り囲まれ、逃げ帰ってきたという事だった。

 ただ、その際に3人が毒を受け、今も投薬による治療が続いているという事で、その事に責任を感じているのだそうだ。


 だが、事態は更に悪い方向に進む。


 状況を重くみたこの街の冒険者ギルドは、この街で一番強いとされているCランクの上級冒険者で構成される冒険者パーティー『赤い牙』に指名依頼を出すのだが、これが返り討ちにあってしまったのだ。


 そして、そこでゾンビの上位種である『グール』という、動きが早く、耐久力の高い魔物と、その変異種と思われる黒い個体が発見される。


「なるほど……でも、それじゃぁまだ詳しくは何もわかっていない状況なのですね」


「はい。『赤い牙』の報告では、ゾンビの中にグールが何体か混じっていてジリ貧になり、メンバーの一人が大怪我を負った事で一気に崩れ、敗走することになったそうです。その際、そのゾンビのコロニーの中心に、黒いグールを見かけたという事しかわかっていません」


 あまり有力な情報を聞けず、オレが判断に悩んでいると、ドナックさんは更に言葉を続ける。


「それでトリスさん。単刀直入に言わせて頂きます。この変異種の件、アシッドスパイダーの件の代わりに『仮面の冒険者』として受けて頂けませんか?」


 どうやらオイスラー伯爵には既に許可は取っているらしく、元の依頼よりも緊急度が高いらしい。

 しかしオレは、今のこの場で返事をする事はできず、


「今の状況はだいたい理解できました。ですが、少し返事は待ってもらえませんか。一度、仲間と相談したいので、この話は持ち帰らせてください」


 そう言って、頭を下げた。


 この後、いくつか質問をした後、この件の対応を決めるため、オレは足早に冒険者ギルドを後にしたのだった。


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