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【第49話:ソラルの街】

 暫く遠慮して渋っていたユイナだったが、結局セルビスさんとミミルに押し切られる形で、一緒に講義を受ける事に決まった。


 その後、もう頼まれていたことも終わって後は街に帰るだけというセルビスさんも誘って馬車に乗り、その日の夕方には無事にソラルの街に到着した。


 ソラルの街は、人口2000人ほどの小さな田舎町だ。

 だが、あまり周りで魔物が発生しない土地柄のお陰で農業が非常に盛んで、街自体は長閑な雰囲気を残しつつも栄えており、店も多く活気があった。


「思ったより活気のある街なんですね」


「この街は農業で潤っているからのぉ。かと言ってがめつい奴も少ない、長閑な街で儂は気に入っておる」


 王都の側に広がっている穀倉地帯がこの国で一番広大な穀倉地帯となるが、この辺りの作物は良質で少し高級なものとして有名だ。

 そう思って良く見ると、一軒一軒の家も少しライアーノの街の家より、お金がかかっているように見えた。


「あっ! あの店は何のお店なのですか?」


 ミミルが馬車の横についた窓から食い入るように街を眺めていたかと思うと、そんな質問を飛ばしてきた。

 一度だけ5歳の時に王都に行ったことがあるはずだが、あまり記憶に残っていないと言っていたので、街の外に出るのは実質初めてのようなものだろう。

 見るものすべてが珍しく感じ、楽しくて仕方ないといった様子だった。


「あれはこの地方の名物のソラル豆のお菓子を売ってる店じゃな。儂の家にあるから、あとで土産にわけてやろう」


「うわぁ♪ セルビス様ありがとうございます!」


 それから少ししてセルビスさんの家に着いた。

 家は普通の家よりかは大きいが、屋敷と呼ぶには小さいといった感じだろうか。

 でも、今は一人で暮らしていると聞いたので、それを考えるとかなり部屋を持て余していそうだ。


「送らせて悪かったのぉ。魔法を使うのは良いのじゃが、歩くのが億劫じゃったから、助かったわい」


「いえ。それではオレたちはこれで失礼します」


「セルビス様! 明日からよろしくお願いします!」


「ぼ、ボクもよろしくお願いします!」


 なぜかミミルの方がしっかりしている気がするが、まぁそこはそっとしておいた。


 ~


 セルビスさんと別れた後、今度はジオ爺さんの隣にはオレが座って宿に向かった。


 ミミルは忘れずにソラル豆のお菓子を貰っていたのだが、ユイナやミシェルと一緒に馬車の中でさっそく食べているようだ。

 中からユイナの声で「ぽっぷこーん」みたいで美味しいという言葉が聞こえてきたが、オレの知らないお菓子の名だった。

 少し味見して見たかったが、夢中で食べていたようで声はかからなかった……。


 明日、暇な時間にでも買いに行こうかと考えていると、ほどなくして宿に到着した。

 意外とセルビスさんの家から近かったようだ。


「結構、大きい宿だな」


「そうですね。この街で1番大きい宿と伺っておりますよ」


 さすがにミミルを連れて冒険者が泊るような普通の宿に泊まるわけにもいかないので、ちゃんと貴族や大店の商人向けの宿を押さえてあった。

 立派なつくりに感心しながら宿に入ると、品の良さそうな壮年の男性が出迎えてくれ、ミシェルが対応してくれた。

 待っている少しの間にもアーグル茶と果実水を出してくれるなど、やはり中々高級な宿のようだと感心していると、どうやら手続きも終わったようだ。


「お待たせいたしました。部屋の準備が整ったようです」


 部屋はミミルとミシェルが2階の大部屋で、その両隣にオレとユイナの部屋をとり、足が少し悪いジオ爺さんだけ1階にして貰った。


「食事はミミル様の分は部屋に運んでもらう事になっていますが、他の者は各自折をみて1階のこちらでとるようにお願いします」


 ミシェルのその言葉に、ミミルがオレやユイナと一緒に食事を取りたいと駄々を捏ねたが、とりあえず宿での食事は部屋の予約をする時に決めてしまっていたので、晩御飯については我慢して貰った。


 ちなみに食事はそれなりに美味しかったが、バタおばさんの味には勝てなかった。


 ~


 翌日、オレは許可を貰って宿の裏庭で朝の鍛錬を終えると、食堂で一人少し早めの食事をとっていた。

 食堂にはオレ以外にも数人の商人らしき人がいたのだが……。


「なぁ聞いたかい? 隣の町で現れた仮面の冒険者の話を……」


「ぶっ!?」


 危ない……淹れて貰ったアーグル茶を吹き出すところだった。

 まさかもう隣町にまで噂が広がっているとは思っていなかった。


 だが、そんな恥ずかしい気持ちもちょっと続く会話で消え失せる。


「聞いた聞いた。何でも恐ろしく強いらしいな。しかも、久しぶりに英雄制度が適用される正真正銘の英雄様だって噂だろ?」


「あぁ、だからこそあの討伐依頼受けてくれねぇかなぁ?」


「確かになぁ。こないだこの街でも上位の冒険者パーティーが返り討ちにあったってよ」


 最初は「仮面の冒険者」という言葉が気になって聞き耳を立てていたのだが、どうも深刻な話のようで、冒険者としては何が起こっているのかが気になり、思い切って話しかけてみる事にした。


「すみません。オレは隣町の者なんですが、何かあったのですか?」


 一瞬、訝しげにこちらを見た二人だったが、冒険者だとわかると詳しく話してくれた。


「ん? ……あんた冒険者か。実はな。この街で一番大きな葡萄畑のど真ん中に魔物がわいたらしくてな。しかも、それが街道からほど近いところなので、今、オイスラーの街へと続く街道が封鎖されちまってるのさ」


「その上、この街で一番と評判の名うての上級冒険者のパーティーが討伐に失敗しちまって、今はオイスラーの街で2級冒険者に声をかけている状況らしい」


「そんな強い魔物が現れたんですか?」


「いやぁ。俺たちも詳しくは聞いてないんだが、何でもCランクの魔物の変異種らしいぞ」


「変異種!?」


 気付けば、オレはテーブルに手を着いて立ち上がっていた。

 そして、椅子が倒れる音で我に返る。


「す、すみません。その話もう少し詳しく聞かせて貰えませんか?」


 こうしてオレは、商人たちからその変異種の魔物について、話を聞くことになったのだった。


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