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【第47話:小さな旅の始まり】

 一昨日、冒険者ギルドで連絡を受け、オレとユイナは『剣の隠者』として初めての指名依頼をこなすため、領主館にミミルを迎えに向かっていた。

 そして、1刻もかからず領主館にたどり着くと、そのまま応接室に通された。


「ちゃんと遅れずに来たな」


 父さんが少し揶揄うように言ってきた言葉に、


「もう一人立ちしたんですよ。しかも、家族からとは言え、初めての指名依頼なんだから、最初からそんな躓くような事はしません」


 と、少し早口で言い返す。


「ははは。悪かった。それじゃぁ、もう準備は万端なんだな?」


 オレは部屋に入る前に預けた、旅用の大きな背負い袋の事を思い出しつつ、


「ちゃんと必要なものは揃えましたし、ミミルの事は任せて下さい」


 と、真剣に言葉を返す。

 実際、背負い袋の中身だけじゃなく、ユイナのアイテムボックスの中にもいざという時の物がたくさん入っているので、準備はまさしく万端と言って良いだろう。


「そうか。それは頼もしいな。ユイナ、ミミルは君の事が気に入っているようだし、よろしく頼むぞ」


「は、はい! ちゃんとお守りして、無事に連れ帰ってきます!」


 相変わらずユイナは少し緊張していたが、これでも随分マシになった方だろう。

 少し言葉に詰まりつつも、しっかり父さんの目を見てそう答えていた。


 その後、改めて今回の移動のルートや、日程を確認して、話が一通り終わったタイミングで、ミミルも部屋に呼ばれた。


「ユイナお姉ちゃん! トリスお兄ちゃんも!」


 ミミルが先にユイナの名を呼んで満面の笑顔を見せた事に、若干モヤモヤしたものを感じるが、指摘するのも何か悔しいのでやめておく。


「ミミル。これから世話になるのだ。ちゃんと挨拶をしなさい」


 父さんに窘められ、ミミルは外向きの表情を作ると、


「トリスお兄様。ユイナお姉さま。これから数日間、よろしくお願いいたします」


 そう言って、貴族の令嬢としての正式な礼を披露する。

 正直、今までこういう姿を見た事が無かったので、内心驚いていると、父さんがそこで余計な一言を発してしまう。


「ほう。これはこれはお嬢様。随分とお淑やかな真似が出来るようになったもので。その調子で普段もお淑やかにお願いできないものですかね?」


 ちょっと自慢げだったミミルは、父さんの一言で頬を膨らませて拗ねてしまい、この後ご機嫌を取るのにちょっと苦労してしまう事になったのは、父さんにも少し反省してもらいたいものだ。


 ~


 全ての準備が整い、皆と別れの挨拶を済ませると、オレたちは馬車に乗り込んだ。


「それじゃぁジオさん。よろしくお願いします」


 御者のジオ爺さんにそう頼むと、馬車は領主館を出て、街の北門へと向けて走り出した。


 馬車は貴族向けの6人乗りの二頭立てのものだ。

 華美の装飾はないが、足回りに振動を抑える魔道具を使っているので、一般市民や商人が使うものと比べると、かなり乗り心地は良かった。


 まぁ、スノア様の魔導馬車とは比べるまでもないが……。


 ちなみに同行するメイドは、普段からミミルの面倒を見てくれる事の多い、ミシェルと言ううちで一番若い子がついてきてくれる事になった。

 若いと言っても20歳を超えており、オレやユイナよりはずっと年上なのだが、その分しっかりしており頼りがいのある人だった。


「トリスお兄ちゃん。今日の晩にはもうソラルの街に着くんでしょ?」


 ミミルは遠出するのが嬉しいのか、出発してから終始笑顔だ。

 歩けば日中にたどり着くのは難しいが、馬車なら余裕をもって日が暮れるまでには到着できるだろう。


「あぁ、今日中には着くはずだ。到着したら押さえている宿に泊まって、明日からはさっそくセルビスさんに魔法を教えて貰う事になるからな」


「うん! セルビスさんって凄い魔法使いなんでしょ? 楽しみだなぁ♪」


「ミミルちゃんは凄いなぁ。ボクなんて、魔法の講義とか嫌で仕方なかったのに」


 そんな何気ない会話でも口を滑らすユイナは、ある意味凄いと思うんだ。


「え? ユイナお姉ちゃんってどこかで講義受けてたんだ!! もしかして魔法学院!?」


「へっ!? あ、えっと……」


 この世界では講義を受けれるような者は、大店の商人か貴族の子供ぐらいだ。


「ユイナは講義って言ったが、ミミルが考えているようなものじゃないようだぞ。昔いた街で知り合いの魔法使いの人に教わっていたらしい」


 仕方ないので、適当に助け船を出してやるのだが、


「へぇ~……そうなんだ。あっ! そうか! お兄ちゃんが嘘つくって事は、何か事情があるって奴だね! 大丈夫だよ。ミミルこれ以上聞かないから!」


 そう言って訳知り顔でうんうんと頷くその姿に、2人そろって苦笑いを浮かべる事になる。


(はっ!? そう言えば、ミミルはオレの嘘を見抜く事が出来るって言ってたな……これから依頼終わるまで大丈夫なのか……)


 オレは前に嘘をつく時に癖があると指摘された事を思い出し、冷や汗をかく事になったのだった。


 ~


「トリス坊ちゃん。門に着きましたので、お願いできますか?」


 少しお喋りしている間に、街の北門にたどり着いたようで、御者のジオ爺さんが小窓から話しかけてきた。


「わかりました。じゃぁ、ユイナ、それからミシェル、ミミルを頼むぞ」


 街の外に出るにあたって、オレとユイナは交代で御者台に座り、見張りを行う事になった。

 恐らくそんな事をしなくても街道沿いは安全だろうが、依頼として受けた以上は最善の形をとるのは当然だ。


「かしこまりました。トリス様の仕事を間近で見れてミシェルは役得ですね」


 とミシェルは、少し大人びた笑みを浮かべてお気をつけてと送りだしてくれた。


 御者席に着いてジオ爺さんの隣に座ると、後ろの小窓が開いてユイナが話しかけてきた。


「トリスくん、疲れたらいつでも言ってね。交代するから」


「あぁ、その時は頼むよ」


 そして馬車は街を出て、街道を北へと走り出す。

 街の北側は放牧などがされており、遠くに馬や牛の姿が見えるのだが、あまり街の北側には来る機会が無いので、久しぶりに見る景色に少し旅行気分が顔を出す。


 すると、また小窓が開いて今度はミミルが話しかけてきた。


「ねぇねぇ! トリスお兄ちゃん!」


「どうしたんだ?」


 すっかり旅行気分ではしゃぐミミルに、自分の事を棚に上げて、落ち着いたふりをしてそう返す。


「私もそこに座りたい!」


「ダメだよ。オレは警戒のためにここに座ってるんだから」


 オレもそうだったが、ミミルも御者台に座った事などない。

 馬車に乗る時はいつも中に乗るのが当たり前だったので、座ってみたいのだろう。


「えぇ~、でもでも、トリスお兄ちゃんが隣にいるなら大丈夫でしょ?」


 そう言って上目遣いに見つめてくるミミルは天使だと思うが、オレはきっぱりと断らないといけない。


「ダメだよ。ここは街から近いから……後でな。内緒だぞ?」


 だから、今は(・・)ダメだときっぱり断った。


 後ろでユイナとミシェルに生暖かい目で見つめられている気がしたが、気付かなかったことにした……。


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