【第46話:感謝の言葉】
「え? 彷徨える鎧が現れたんですか? しかもその武器が鉄球??」
ライアーノの街に帰ってきて、ギルドで薬草採取の達成報告をした後に、街道でリビングアーマーと遭遇して戦ったことを報告したのだが、鉄球を使うという話に驚き固まるリドリーさん。
「はい。林の木とかめちゃくちゃ折れたりしてて、嫌な予感はしてたんですけど、薬草採取した帰りに運悪く……いや、他に被害が出る前に出あって討伐できたから、これは運が良いのか?」
「え~、ボク的には、強い魔物と出会って『運が良い』とは認めたくないなぁ……」
確かにユイナの言う通り、普通ならやられてもおかしくない強さの魔物だったし、これを運が良いとは認めたくないかもしれない。
「冒険者ギルド的には、そんな強い魔物が大きな被害が出る前に偶然それを倒せる冒険者と出会ってくれたのは幸運ですけどね」
まぁその点は否定しずらいものがあるので、苦笑しつつ話を進めた。
「それで、依頼の方はオレたち『剣の隠者』の方で良いんだが、魔物の方はもう一つの方の功績にしておいてください」
オレの言う「もう一つの」と言う言葉に、小さく「わかりました」と頷きを返すリドリーさん。
「あっ、報酬はどうします?」
オレもユイナも先日ギルドに口座を作ったので、そこに振り込んでもらう為にギルドカードを取り出して、リドリーさんに渡してその旨を伝える。
「こっちにお願いします」
冒険者ギルドは、人ごとに微妙に違う魔力の波動を鍵にして本人判定をする魔道具を用い、ギルドでお金を預かるサービスを行っている。
これは冒険者は宿を利用している者が半数以上を占めるため、安全で信用のおける冒険者ギルドで預かるようにした方が良いと、過去に召喚された勇者が提案してくれたことで実現されたサービスだそうだ。
「はい。手続きが完了しました。全額で良かったんですよね?」
そう言っていくら振り込んだかを小声で伝えながら、鍵となっているギルドカードを返してくれた。
ちなみにこのカードを失くすと、カードを発行した冒険者ギルドでないと再発行が出来ないため、他の街に行く場合は注意が必要だ。
「それで構わない。ありがとう」
オレとユイナはそれぞれギルドカードを受け取ると、そのまま街に繰り出した。
今日はもうすぐ出発するミミルの護衛依頼に向けて、色々買い出しをする事になっていたからだ。
それなら何故報酬を現金で貰わなかったかと言うと、実は先日口座を作るまで、オレたちが稼いだ報酬の大半をユイナのアイテムボックスで預かって貰っていたからだ。
ほとんどの時間を二人で行動しているので、そちらの方が便利だし、誰も手出しできないので安全なのだから、これを使わない手はない。
オレやユイナ個人用の革袋と、パーティー共有のお金を入れておく革袋を購入して管理しているのだが、既に駆け出しの冒険者とは思えない程度のお金が溜まっている。
ただ、もし何かの拍子ではぐれた時にオレが困る事になるだろうからと、口座にもある程度のお金を入れておこうという事になったのだ。
「あっ、ねぇねぇトリスくん! あのお店美味しそうじゃない?」
串焼きの屋台から漂ってくる美味しそうな匂いにつられるように、ユイナはオレの手をとって走っていく。
「ちょ、ちょっと待てって! もう屋台の料理だけで30枠ぐらい使ってなかったか? そろそろ自重しないと一杯になるぞ?」
ユイナのアイテムボックスは100種類までという上限があるので、そう言ったのだが、
「大丈夫だよ! この間、纏めれるように大きめのケースいくつか買って、入れ直したから今は10枠も使ってないんだ♪」
そう自慢げに説明してくれた。
いつの間にそんなケース買ったんだ……。
結局店のおじさんに、保存用の串焼きを10本ほど注文し、今食べる用にオレも2本追加で注文したのだった。
~
ユイナと二人で串焼きを食べながら歩みを進め、この街で唯一多くの商店が立ち並ぶ地区へとたどり着いた。
「えっと……、薬草に、携帯食料、それから水を入れる樽に……」
今回のミミルの護衛では、基本的に『剣の隠者』として行動するので、移動中にいきなり出来たての串焼きなどを出す訳にはいかない。
移動は馬車で、うちで雇っている御者の爺さん、ミミルの世話をするメイドが一人に後はオレとユイナの4人で向かう事になっている。
食事などはそのメイドがオレたちの分も準備してくれるようだが、いざという時のために携帯食料や、薬草は持っておいた方が良いだろう。
それと、今回のためという訳ではないが、魔力が尽きた時にも水が使えるように、樽を二つほど購入する予定だ。
それから必要なものを順に購入していったのだが、ユイナが色々目移りして、随分と時間がかかってしまった。
予定に無かった服や雑貨なども購入したが、何とか無事に全ての買い物を終える事が出来たので、良しとしよう。
「もう買い忘れはないよな……?」
しかし、少し女の子の買い物を舐めていたかもしれない。
知識の上では女性は買い物が長いと知っていたつもりだったのだが、はしゃいで走り回るユイナに振り回されて、魔物と戦うより疲れた気がする……。
そして、体力が課題のはずのユイナが、どうしてこんなに元気なのかという謎が残った。
そんな取り留めもない事を考えていた時だった。
「あ……トリス坊ちゃんではありませんか」
偶然、大きな袋を抱えた料理人のオートンさんと出会った。
「こんな所で会うなんて奇遇ですね」
ここライアーノの街は小さな街ではあるが、オレたちは依頼で街を出ている事が多いし、オートンさんは食材などは出入り業者に屋敷に直接届けさせているので、このように買い物している姿自体が珍しい。
「いやぁ~、ミミルお嬢様に街を出る前に私のデザートが食べたいとおねだりされてしまいましてね」
恰幅の良いお腹を揺らしながら、楽しそうにそう答えた。
たぶんミミルは、今回の遠出を理由に、道中でも食べられるようにクッキーなど保存のきくお菓子など、色々おねだりしたのだろう。
オートンさんの抱える袋の大きさが、それを物語っていた。
「なんかミミルの我儘に付き合わせて、すみません」
「いえいえ。失礼ながら私にとってはトリス坊ちゃんもミミルお嬢様も、我が子のように思っておりますので、気になさらないでください」
何か少し照れくさかったが、オレはその事に素直に礼を言って、まだ買うものがあると言うオートンさんとは、そのまま別れたのだった。
~
「オートンさんって、良い人だね~」
宿への帰り道、ユイナの言ったその言葉に、オレは深く頷きを返し、
「そうだな。冒険者になって気付かされたよ。だから、オレは皆に恩を返すためにももっと強くならないといけない。だから、ユイナ。元々こちらの世界の問題に巻き込んでしまっただけのに、一緒に強くなる努力をしてくれているユイナにも、感謝している。これからも宜しく頼むな」
その想いを伝えると、反応を見るのが恥ずかしくなって、オレは宿への足を速めたのだった。
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この先、書籍化に向けての改稿作業が始まった関係で、地文の書き方や
キャラのセリフの言い回しに、若干ブレが生じるかもしれません。
並行で執筆している関係上、Web版の修正まで時間が取れそうに
ありませんので、申し訳ありませんが、少し違和感など感じても、
暖かい目で見守って頂けると、助かります<(_ _")>
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