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【第44話:特殊な魔物】

 街道を塞ぐように立っているその姿は、遠目には一瞬人に見えた。

 その姿は、大きな全身鎧を着た騎士そのもの。


 だが、その鎧の中に人の体は存在しない。


 鎧の可動部分などの隙間から、街道の向こう側の景色がはっきりと見る事が出来た。


「……彷徨える鎧(リビングアーマー)……か?」


 オレの呟きに、鑑定眼で確かめただろうユイナが、大きく頷きを返してくれた。


モノ(・・)を模倣した魔物か……厄介だな。しかも、ランク不明の魔物だ……」


「え? モノを? それに、ランク不明ってどういう事?」


 まだ距離があるお陰か、動く気配がないので、ユイナにもどういった魔物なのか、何が厄介なのかを軽く説明しておく。


彷徨える鎧(リビングアーマー)』とは、鎧や武具を模倣して実体化された魔物だ。


 このようなモノを模倣して実体化した魔物は、生物を模倣して実体化した魔物と違い、完全に破壊しなければ倒せないという厄介な特性を持ち、コロニーなどを形成しない代わりに、出現した場所に留まる事なく自由に移動する事から、魔物の中でも多くの被害を出している。


 これだけでも十分厄介なのだが、この『彷徨える鎧(リビングアーマー)』という魔物が更に厄介なのが、元になった鎧や武器の性能、さらにはその武器の元の持ち主の技量によって、強さが大きく異なるというところだ。


「個体によって強さが大きく異なるって、上はどれぐらいなの?」


「そうだな。過去の記録では、あのゴブリンジェネラルの変異種をも上回るような強さの奴もいたらしいぞ」


「えぇぇ!? それってかなり不味い相手なんじゃ?」


「落ち着けって、普通はそこまで強くない。せいぜいCランクぐらいの強さ……の……」


 そこでオレは気付いてしまった。

 街道から少し外れた所に転がるあるモノ(・・)に。


「なぁユイナ……」


「うん。ボクもそう思う……」


 まだリビングアーマーとの距離があるため、最初見た時、奴は武器らしいものは何も持っていないと思った。

 だが、こうして落ち着いてよく見た事で、その手に握っている巨大な鎖に気付いた。


 そして、少し離れた街道の脇に見つけたのは、無造作に転がる巨大な鉄球……。


 ほぼ間違いなく、あの木を圧し折ったのは鉄球(アレ)だ。

 そして、あの巨大な鉄球を振り回す膂力を有しているとなると、どう考えてもCランクに収まるような魔物ではないだろう。


「だれだ? たまには楽な依頼があってもいいとか言ったの……」


「だ、だれかなぁ……?」


 音の出ない口笛をふぅふぅ鳴らしながら、ユイナがそっと視線を逸らす。


「とりあえずいつでもブースト出来るように準備だけはしておくか」


「え!? 最初からブーストしないの?」


「あいつをブーストなしで倒して、『剣の隠者』としての討伐報告をしたい……ダメか?」


 オレとユイナの間で話し合って決めた、冒険者ギルドにも宣言しているルールがある。


 それは『剣の隠者』としての表の実績は、オレのブーストやユイナの光魔法を使わずに達成した時のみとし、それらを用いた場合はあくまでも『仮面の冒険者』としての実績にするというルールだった。


「ん~、本音で言えばやめて欲しいけど……わかったよ。じゃぁ、仮面は付けておいて。ボクが少しでも危険だと判断したら勝手にブーストするからね。それが条件」


 顎に指をあてて少し考えてから、そう言って許可を出してくれた。

 即死さえしなければ、ブーストすればユイナの水魔法でも大抵の怪我は治るので、渋々だが許可を出してくれたのだろう。


 もしくは、将来の避けられない戦いに備えて、実戦を積むため……。


「我儘言って悪いな。それじゃぁ、もう突っ込むがそっちの準備は良いか?」


「うん。もうブーストのタメ(・・)は始めてるからいつでも良いよ」


 そう言って自身も念のためと仮面を付ける。

 ちょっと保険をかけたような状態での戦いなので、ズルくも感じるが、元々自分たちの力なので、そこは多めに見て貰おう。


「それじゃぁ……行くぞ!!」


 ただ街道の真ん中で立ちつくしているようにしか見えないリビングアーマーに向け、オレはその速度を徐々に上げながら駆けていく。

 背中に「気を付けて!」という言葉を受けながら、魔剣を抜き放つと、その距離をさらに縮める。


 中身こそ存在しないが、頭はこちらを向いている。

 だからオレに気付いているはずなのだが、まるで反応がない事に何とも言えないやりにくさを覚える。


(モノを模倣した魔物と戦うのは初めてだが、聞いた話以上にやりにくいな)


 そして、彼我の距離があと10歩ほどに近づいたその時、突然、何の予備動作もなく道端に転がっていた鉄球が真横から飛んで来た。


「なっ!?」


 驚きこそすれ、咄嗟に身体を捻って余裕をもって躱す事に成功するが、そこからが厄介だった。

 リビングアーマーは、ただその場で立っているだけにもかかわらず、手首をクイと捻って返すだけで、避けたはずの鉄球が戻ってきたのだ。


「トリスくん!?」


「くっ!? 大丈夫だ! しかし、元の使い手はかなりの手練れか!?」


 リビングアーマーの技量は、模倣した武具の元々の持ち主の技量に左右されるという。


 そして、この鉄球の持ち主の技量は間違いなく……かなりの使い手だ。


 鉄球という武器自体がかなり珍しい上に、その鉄球を使いこなす人物となると、更にその数は少ない。

 いったいどんな人物なのかと少し気になったが、その人物を特定するのは難しいだろう。

 魔物はこの世界のナニカを模倣して瘴気を元に実体化するとされているが、模倣するそのナニカは発生する場所の近くとのものとは限らないので、実際何を模倣したのかは誰にもわからないのだ。


 しかし、徐々に激しさを増す鉄球の攻撃に、そんな思考を切り上げ、オレも戦いに集中することを余儀なくされる。


 鉄球自体はその大きさと重さもあり、その動きを捉える事自体は難しくないのだ。

 だが、避ける寸前に手首を返してその軌道をいやらしく変化させてくるため、オレは大きく避けざるを得ず、中々リビングアーマーの懐に入り込めない。


 そして、平坦だった街道も徐々に破壊されていく事に焦りを感じ始める。


 何とか近づければと思うのだがあ、鉄球を魔剣で受け止めたり、受け流すのは無謀なので、中々に手詰まりの状況だ。


「トリスくん! ちょっと相手が悪いよ! ブーストかけるけど良いよね!」


 そして、その状況を見抜いたユイナに指摘され、


「くっ!? ……すまないが頼む!」


 少し悔しい想いを抱きながらも、了承の言葉を返したのだった。


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