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【第43話:ただの薬草採取】

 リドリーさんから『仮面の冒険者』としての指名依頼の詳細を聞いたオレたちは、そのまま『剣の隠者』としての手ごろな薬草採取の依頼を受け、冒険者ギルドを後にした。


「やっぱり駆け出し冒険者と言えば、薬草採取の依頼だよな~」


 今は東門から街の外に出て、穢れの森の手前にある小さな林に生えている、とある薬草を取りに行くため、街道を歩いていた。


「えぇぇ……凄く今更な気がするし、ボク自分で言うのもなんだけど、既に駆け出しとか言っちゃダメな立場な気がするんだけど……」


 ジト目でユイナが見ている気がするが、気にしないようにして話を続ける。


「やっぱりさぁ、こういう依頼をまずはコツコツとこなして、ギルドに名前を覚えて貰ってだな」


「おーい。トリスく~ん。現実逃避するな~」


 何か雑音が聞こえる気がするが、やっぱり駆け出し冒険者と言えば……。


「そもそもボクたち中級冒険者だから、もう駆け出しとは言わないぞ~」


「・・・・・・」


「トリスくんが、小さい時から憧れてた冒険者とはちょっと違うスタートかもしれないけど、現実から目を逸らすな~」


 そうなんだ。

 オレの予定では今頃、薬草採取で何とか日々の糧を得つつ、たまに受ける討伐依頼でEランクの魔物相手に実戦を重ね、一歩ずつ強さの階段を登っていくはずだったんだ……一歩ずつ……。


「はぁ~、なんでオレたちいきなり中級冒険者なんだろうな……」


「それをボクに聞いちゃう? ハッキリ言って、ボクよりトリスくんの方が遥かに強いからね?」


 そして「規格外が魔剣持って歩いてる感じ?」と追い討ちをかけてくる。


「ぐっ……」


「それにトリスくん。トリスくんってブースト状態じゃなくても、十分中級の実力は持ってるってヨハンスさんも言ってたでしょ? 少なくともその実力は、トリスくんが長い間かけて積み重ねてきた結果だよ? だから遅かれ早かれ、トリスくんならすぐに中級ぐらいまではあがったと思うし、要は……あきらめなさい」


 そう言って、人差し指を立てて諭すように語るユイナ。


 なんだろう……。

 いつも弱気なユイナにこう諭されると、無性に悔しくなってきた……。


「・・・・・・」


 得意げに立てている人差し指をじっと見つめ、


「ほぇ? な、なに……?」


 ぎゅっと握ってやった。


「ひゃぁ!? な、何するんだよ!?」


「なんとなく、得意げだったから?」


 そう言ってすぐ指を放してあげたのだが、凄いジト目で睨まれてしまった。


「もぅ!? でも……ほんとに、トリスくんが小さい時から積み重ねてきた、その努力が実を結んだ結果だと思うよ?」


 まっすぐこちらを見つめて発したその言葉に、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。


「……何かユイナに慰められたような気がして、ひっかかるが……そうだな。まぁ気持ちを切り替えるよ」


「むっ!? 何かボクに対して扱いが雑じゃない!?」


 そんな会話を続けながら歩いていると、目当ての林が見えてきた。


「あっ! トリスくん、あれじゃないかな? でも……」


 ユイナの指さすところに確かに林はあったのだが、目に付くだけでも10数本の木が根元から無理やり圧し折られていた。


「ユイナ、一応戦闘準備を整えておけ」


 オレは今までの少し浮かれた気分を消し去り、ユイナに一言そう告げる。


「うん。わかった」


 ユイナも討伐依頼で大分鍛えられており、この辺りの気持ちの切り替えはもう慣れたもののようだ。


 オレも念のため、仮面をすぐ取りつけれるよう、バックパックから取り出して腰にかけておく。


「とりあえずオレが先にいく。ユイナは少し距離を置いてついてきてくれ。何かあれば援護を頼む」


「う、うん。後ろはまかせて」


 オレは魔剣を引き抜き正眼に構えると、ゆっくりとした足取りで、警戒を怠らないよう林に近づいて行く。

 林自体は端から端まで歩いても、1刻もかからない程度の大きさだが、それなりに木は密集して生えており、視界はあまりよくない。


 どこから魔物が飛び出してきても対応出来るように、警戒しながら林の端まで近づくが、近くに魔物の気配はなく、何事もなく林の中に入る事ができた。


「ユイナ。近くに魔物は?」


 ユイナは、勇者の技能で近くにいる魔物を感知する事ができる。

 だから、こういう視界が通らない場所では非常に頼りになった。


「ちょっと待ってね。ん~……うん。周りに魔物はいないみたい。この木を倒したのがナニカはわからないけど、とりあえず近くにはいないみたいだよ」


 その言葉を聞いてオレはようやく警戒を少し弱め、魔剣を鞘へと収めた。

 まだ完全に警戒を解く事はしないが、必要以上に慎重になる事もないだろう。


「しかし、かなりの数の木が倒されているな……この倒れ方から見て、普通じゃない気がするんだが……」


 木は力で無理やり折られて倒されていたり、巨大な何かをぶつけられて幹を破壊されて、倒されているように見える。

 そのうえ、その倒れる方向も倒れている場所もバラバラだ。


「うん。何か気味が悪いね……もう、さっさと薬草採取して帰ろう」


 気味が悪いし、気になるのも確かだが、これ以上今のオレたちに調べれる事もなさそうだ。


「そうだな。じゃぁ、地道に探す……」


 そして、さっきギルドで聞いた薬草の特徴を、思い返そうとしたのだが……。


「あっ、あそこに生えてるよ。それに、そこでしょ? あと、向こうにも!」


 鬱蒼と茂る草木の中から、的確に目的の薬草の場所を次々と指さしていくユイナ。


「はっ!? 鑑定眼か……」


 こうして初めての薬草採取の依頼は、ユイナの技能により、あっという間に必要な量の薬草が集まったのだった。


 ~


 結局、なぜあれほどたくさんの木が倒れていたのかはわからなかったが、無事に薬草採取を終えたオレたちは、ユイナのアイテムボックスに大量の薬草を収納してもらい、街への帰路へとついた。


「何かオレの思っていた薬草採取と違った気がする……」


「え~? 楽に集められたんだから、気にしないで良いんじゃないかなぁ?」


 確かに楽だった。


 普通、目当ての薬草を探すのに一番苦労するのに、ユイナは迷うことなく次々と薬草が生えている場所を指さし、オレはその指示に従って引っこ抜くだけで、あっという間に終わってしまったのだから。


「ボクたち、今まで結構苦労してたでしょ? だから、たまにはこういう楽な依頼の時があっても良いんじゃない?」


 そう言われると、確かに返す言葉が無かった。


 ユイナとパーティーを組んでからまだそれほど経っていないが、普通の駆け出し冒険者なら、それこそ命の危険に見舞われているような場面に何度も出くわしている。


「確かに、この間のグレーター種とかも、普通じゃぁめったにお目にかかれない魔物だしな」


「でしょ? ボクたちもたまには楽に依頼を……」


 ご機嫌な様子で話していたユイナの口が止まった事を不審に思い、その視線の先を追ってみると、


「人、か?……いや、魔物……だな」


 そこには一つの影が、街道を塞ぐように立ち、空っぽの頭(・・・・・)をこちらに向けていたのだった。


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