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【第35話:その理由】

 オレの放った剣技『落葉(らくよう)の舞い』の余波が収まり、魔族の姿が靄となって消え去って数瞬。


 唐突に終わった激しい戦いを見守っていた誰かが、ポツリと呟いた。


「あ、あの仮面の冒険者……魔族を倒しやがったのか……」


 その言葉の意味が次第に周囲に染みわたっていくと、次第にそれはざわめきとなり、やがて大きな歓声となった。


「うぉぉぉぉ!? マジかよ!? 世界を破壊する魔族を倒したのか!?」


「それを言うなら『世界を灰にする』だろ?」


「そんな事どっちでも良いんだよ!」


「あいつが本当に魔族なんだとしたら、あの仮面の冒険者は勇者ってことか!?」


 そんな歓声があがる中、スノア様がリズとユイナ、それに護衛にとロイスさんを含む数人の青の騎士を伴って歩み寄ってきた。


 ちなみに、ユイナはもう既に仮面を外しており、注目は完全にオレひとりに集まっていた……。


「仮面の冒険者様。わたくしはこのエインハイト王国第二王女『スノア・フォン・エインハイト』と申します。このたびは、わたくしたち討伐隊の危機、ひいては、ライアーノの街を含むエインハイト王国の危機を救って頂き、本当にありがとうございました」


 スノア様はこっそりと片目をつぶってから、そう言って優雅に頭を下げ、言葉に詰まるオレを置き去りにして話を続けていく。


「もう一人の仮面の冒険者様にもお礼を直接伝えたかったのですが……」


 そして「残念ですわ」と言いながらスノア様はちらりとユイナに視線を送る。


 ユイナがまるで魔法で氷にされたように硬直するのが見えたが、オレに後始末を全部投げた奴の心配なんてしてやらない……。


 スノア様との変な挨拶が終わるころ、ちょうどそこに別の集団が近づいてきた。


「そうですね。私もこの討伐隊を率いる者として、もう一人の仮面の少女にも礼を言いたかった」


 そう言って話に割り込んできたのはファイン兄さんだ。


「本当に次元の違う戦いだった。間違いなく我々討伐部隊だけでは全滅していただろう。あらためて私『ファイン・フォン・ライアーノ』からも礼を言わせてくれ」


(な、なんでオレはファイン兄さんに頭を下げられてるんだ……)


 オレはなぜスノア様が、オレの正体をいまだに隠そうとしているのかが、理解できなかったが、何か意図があるのだろうと、若干嫌々ながらも謎の仮面の冒険者としてふるまう事にした。


「れ、礼には及びません。オレもこの国の冒険者です。訳あって素性を明かすわけにはいかないのですが、その点は了承いただきたい」


 とりあえず誤魔化すようにそう言ったのだが、そのあとスノア様が、予想外の方向へと話をもっていく。


「ファイン殿。大丈夫ですよ。彼は私と通じている者です」


 確かに通じているだろう……。

 スノア様とあったのは、もう10年以上前なのだから。

 だから、嘘は言っていないのだが……。


「なんと!? そうだったのですか!?」


 そして、「オレと通じている」という言葉を真に受けるファイン兄さん……。


 まぁオレと違って昔から第二王女様として接してきたファイン兄さんからしてみれば、スノア様が言ったことに疑問を呈すことなどするはずもないのだが。


「この者はわたくしが危ない時には助けてくれると契約を交わしております。今回も事前にわたくしから連絡をとり、気付かれぬよう後を追って貰っていたのです」


 確かにスノア様が危ない時は必ず助けに駆け付けると約束はしたのだが、とても子供の頃の約束とは思えないような、何か契約を結んでいるような、そんな話し方だ……。


 しかし、その言葉に周りで話を聞いていた騎士や衛兵、冒険者までもがスノア様をさすがと讃え、先ほどとは違った憧憬の視線をオレに向けてきた。


 そんな視線にたじろいでいると、スノア様の話は更に進んで行く。


「ですが、今回はもう十分その務めも果たしてくれましたし、もう彼を引きとめておく理由はないと思っています。この度の活躍の褒美に関しては、わたくしの方から責任を持ってお渡ししておきますので、もう戻って頂いてもよろしいでしょうか?」


「え? あ、はい。畏まりました。仮面の冒険者殿、何か困った事があればいつでもライアーノの領主館を訪ねてくれ」


 そして「決して悪いようにはしないから」と言って締めくくった。

 オレはもう何がなんだかよくわからず、とりあえず鷹揚に頷いておく。


「それではリズ。途中まで案内してあげてください」


 そう言って後ろに控えていたリズに目で合図を送ると、リズは深くお辞儀をしてからオレの方に近づいてきた。


「(冒険者。あとで姫様から、お考えをお話してくださるそうです。ひとまずここから離れて仮面をとり、急いで戻って来なさい)」


 ほとんど口も視線も動かさず、オレにだけ届く声で伝えてくるリズ。


 もちろんオレにそのような真似はできないので、また鷹揚に頷きだけを返すと、皆に見送られながら、歓声を浴びながら、この場を後にしたのだった。


 ~


 陣地に帰ってきた時には、既に亡くなった者たちの弔いも終わり、街へと帰還するための準備が始まっていた。


「トリス! お前、こんな時にまたどこに行ってたんだ!」


 陣地に帰ってきてすぐファイン兄さんに見つかり、オレは小言を貰っていた。


「いや、その……逃げた馬を追いかけて……」


「む……そうか、馬もかなり死んだり逃げたりしたからな……だが、勝手にいなくなるな!」


 別に勝手にいなくなったわけではなく、さっきもしっかりファイン兄さんに見送られていなくなったわけだが、そんな事言えるはずもなく「次からは気を付ける」と反省の言葉を口にして、ようやく解放して貰った。


 その後、スノア様の元に戻り、ユイナとも合流するのだが、


「冒険者。スノア様が馬車でお待ちです」


 すぐに魔導馬車の中に案内された。


 魔導馬車の事だから、話が外に漏れないような仕組みがあるのかもしれない。

 そんな事を考えながら、魔導馬車の扉を開けて中に入る。


「只今戻りました」


 そう言って部屋のようになっている魔導馬車の中に入る。


「トリスくん。お疲れさま。上手く戻ってこれたみたいで良かった……」


 ここがいくら『穢れの森』の近くだと言っても、森に入らない限りはそうそう魔物と出会う事もないのだが、本当に心配してくれていたようで、目尻に少し光るものを讃えながら、潤んだ瞳でユイナが出迎えてくれた。


「上手くかどうかはわからないがな。戻って来るなりファイン兄さんに怒られたし……それより、スノア様。どうしてこのような真似を?」


 オレはユイナの後ろでアーグル茶を飲みながら、こちらを見ていたスノア様に、さきほどの茶番はなんだったのかとさっそく尋ねてみる。


 するとスノア様は、アーグル茶をテーブルの上に置き、オレとユイナに席に着くようにうながしてから、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「あれは、ユイナの身の安全を考えてのことです。トリスにしてもユイナにしても、これほどの活躍を見せたのです。この話は聖王国も知る事となるでしょう。しかも、聖王国で召喚した魔族化した勇者の一人を倒して……」


 確かにその通りだが、ユイナはともかくオレは別に隠さなくても良かったのではないのか?

 そう思ったのだが、少し考えが甘かったようだ。


「仮面の冒険者の素性が知れ渡れば、いずれその傍らにいた女の子が、ユイナさんだという事は相手の知れることになるでしょう。それとも、ここでユイナと別れるおつもりですか?」


「いえ。ユイナはもう同じパーティーの仲間です。そんな事は絶対にしません」


 しかし、スノア様の言う通りだ。

 サイゴウは命令されてユイナを連れ戻しにきたような話をしていた。


 今回このような事態に陥ったのは、サイゴウ個人の暴走によるものかもしれない。

 だが、これに対してエインハイト王国は、勇者の責任者である聖王国に抗議をしなければならないだろうし、そうなると聖王国は今回の件に絡んでいるはずのユイナの行方を求めるだろう。


「今回の事の顛末は、さきほど既に魔法郵便でお父様に報告しています。それで、二人の仮面の冒険者、トリスとユイナについてなのですが……」


 そこで一旦言葉を止めて、歳相応の少女の笑みを浮かべるスノア様。

 どうしてだろう……また何か嫌な予感がする……。


「あなたたちに『英雄制度』を適用したいと、おねだりしちゃいました♪」


 そう言って、嬉しそうに微笑んだのだった。


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