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【第22話:上位種】

 戦いが始まった当初は、いきなりの襲撃に後手に回ったオレたち討伐部隊だったが、魔法使いや、圧倒的な強さを見せる青の騎士団の活躍もあって、戦況は徐々にこちら側が優勢になりつつあった。


「トリス! 大丈夫なのですか!?」


 ユイナの魔法で周りにいたゴブリンを一掃し、一息ついたタイミングでスノア様が駆け寄ってきた。

 いったい何を慌てているのかと思ったら、どうやら腕にかすり傷を負ってしまっていたようだ。


「これぐらい大丈夫ですよ」


「ダメです!! あなたは普通の回復魔法を受け付けない体質ではありませんか!?」


 そう言ってオレの手を取ると、聖属性の回復魔法で腕の傷を癒していく。


「それに、ミミルちゃんにも怪我をしないって約束したんじゃないんですか?」


 どうしてそれをスノア様が知っている……。


「はい。終わりました。トリス、あなたは他の人以上に怪我には気を付けないといけないのですよ?」


 そして、わかっていますか? と握った手に力を込めて見つめてきた。


「そ、そうですね……治療してくださって、ありがとうございます」


 さすがに少し気恥ずかしくなって、手をそっと離すと、


「それより……気付きませんか?」


 話題を切り替える。


 しかし、気になっていることがあるのは本当の事だった。


「そうですわね。これだけのゴブリンが攻め寄せてきているのに」


「「上位種がいない(いません)」」


 お互いの言葉を重ね、やはり感じていた違和感は正しいと危機感が強まる。


「トリス! そろそろ来るぞ!」


 しかし、それに気づいたからと言って、今はこの状況で打てる手は思いつかなかった。

 ロイスさんのその呼びかけに応じて、その隣に並び立つと、


「ロイスさんはどう思います? これだけの数のゴブリンを倒しているのに、まだ一匹も上位種が現れていないなんて、あきらかにおかしいです」


 と、近づいてくるゴブリンに注視しながら尋ねてみる。


「そうだな。あきらかにおかしい。が! はぁぁっ! 悪いが何かあった場合は姫様を優先させて貰うぞ」


 途中、襲い掛かってきた二匹のゴブリンを、袈裟斬りからの突きで一匹仕留め、そのまま手首を返してもう片方のゴブリンの剣をはじき、二匹目は水平に薙ぎ払ってその身体を上下に分断して靄に変えた。


 息一つ乱さず、会話を続けながらも平然としているその姿に、幼かったころの憧憬の念を思い出す。


 オレの方に襲って来た二匹にも、魔剣の切れ味を活かして強引な薙ぎ払いから、斬り上げ、袈裟切りと繰り出す事で、同じく靄となって消えて貰う。

 しかし、ロイスさんのような倒し方を目の前で見せられては、その実力の差を思い知らされるというものだ。


「ははは。トリスの考えている事はだいたいわかるぞ? だが、これでも神童ともてはやされた剣の腕だ。そうそうお前に追い付かれてたまるか」


「そうですね。でも、いつかはその強さに追い付いてみせますよ!」


 二人でそんな会話をしながらゴブリンを倒し続けていると、少し離れた所から大型の魔物の咆哮のようなものが聞こえてきた。


「今のはいったい……?」


 その咆哮が気にはなったが、今はつぶやくに留め、目の前に迫っているゴブリンの一体を斬り伏せる。


 すると、今度は突然断末魔のような叫び声が鳴り響いた。


「な、なんだこいつら!? なんなんだよぉ!? ……ぐぎゃ、ぎゃぁぁ!?」


 叫び声の方に一瞬だけ目をやると、身の丈が子供程度のはずのゴブリンに混ざって、側にいる冒険者を大きく上回る巨躯のゴブリンを筆頭に、何匹もの(・・・・)大柄な個体が結界内に侵入してきているのが見えた。


 ようやく上位種がその姿を現したのだ。


「くっ!?」


 しかし、その事に驚いていると、突然目の前のゴブリンの動きが早くなり、危うく粗末な短剣で刺されそうになる。


「な、なんだ? コイツいきなり動きが良くなったぞ!?」


 オレは何か異常を感じ、一旦距離を置いて体勢を立て直す。


「……間違いない……トリス! 気を付けろ! 結界の効果が……『泡沫の聖域』が、効いていない!!」


 その言葉に驚愕しながらも動揺を押し殺し、オレに向かって来ていた最後の一匹を何とか斬り伏せる。


 結界は消えていない。

 数秒おきに優しい光の波紋が広がっていくのが確認できる。


「いったい何が?」


 周りを見回すと、急に動きの良くなったゴブリンたちに、討伐隊は早くも劣勢になりつつあった。


 圧倒的な数の差を、個々の実力と結界によって補っていたのだ。

 上位種が加わり、結界の効果が消えれば、一気に劣勢になるのは当然だろう。


 上位種はともかく、問題はなぜいきなり効果がなくなったかだ。


 一瞬途切れたゴブリンの攻撃の波の合間に、その原因を考えていると、今度はスノア様の名を呼ぶユイナの悲鳴が耳に届く。


「いやぁ!? スノア様!?」


 慌てて振り向いたオレの目に飛び込んできたのは、右肩に矢を受けて膝をつくスノア様の姿だった。


「ひ、姫様!?」


 リズが泣きそうな顔でスノア様に声を掛けつつ、短剣を構えて第二射に備えているが、その手は震え、かなり動揺しているのが見てとれた。


 そのリズが睨みつける視線の先に、スノア様をこんな目に合わせた敵がいた。


 オレはリズの視線の先にゴブリンアーチャーの姿を見つけると、即座に駆け出す。

 この混戦の中、普通、人間なら誤射が怖くて矢など使えない所だが、魔物は違う。

 放っておくには危険すぎる。


「姫様!! くっ!? トリーース! 行けぇぇぇ!!」


 同じく駆け出そうとしたロイスさんだったが、普通のゴブリンより一回り大きい複数の個体がこちらに向かっているのに気付き、その場に踏みとどまって、その役目をオレに託してくれた。


 恐らくゴブリンソルジャーだろう。

 その手には鋭利な大剣が握られており、油断できない相手だった。


 オレは全力で駆けながら、


「わかってます!! ユイナ! すぐ回復魔法だ!」


 そう叫んでゴブリンアーチャーとスノア様との間に滑り込むと、飛来した矢を裂帛の気合いと共に斬り落とす。


「リズ! 何してる!! いつもの強気はどうした!!」


 スノア様に駆け寄ったはいいが、動揺を隠せず震えているリズにはっぱをかける。

 ユイナが回復魔法をかけるのを見ながら、


「わ、私が、私がアーチャーの接近に気付けなかったから……」


 そう何度も繰り返している。


 こう言う場合、リズを慰めても逆効果だ。


「そうだ! 戦いが長引いてどうせ油断したんだろ!」


「なっ!? 決してそんな事はっ!?」


「だったら胸を張れ! お前の任務はなんだ! メイドか!」


 オレにそう問われ、ハッとした顔を見せると、目に力が戻ってくる。


「リズ! オレは前に出る! 二人を頼めるな!?」


「と、当然です!! あなたこそ死ぬんじゃないですよ! 冒険者!」


 リズが完全に立ち直ったのを確認すると、三度(みたび)飛来した矢を斬り伏せ、借りを返すために駆け出したのだった。


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