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【第14話:緊急依頼】

「この街の東に広がっている『(けが)れの森』に大規模なゴブリンのコロニーが確認されたんだ。いつスタンピードがおこってもおかしくない」


 穢れの森。


 それはこの街の東に広がる広大な森。

 隣国アラベリア聖王国の国境とも接しており、緩衝地帯となっている。


 しかし、その広大な森の深さ故、魔物の発生を初期段階で討伐するのが非常に難しく、この街で一番警戒が必要な場所だった。


「また穢れの森なのか……でも、それがどうしてスノア様に関係が?」


 オレが疑問を口にすると、今度はセロー兄さんが答えてくれた。


「今回のは大規模だって言っただろ? うちの騎士と衛兵、冒険者だけだとかなり厳しい戦いになりそうなんだ。ところが、王都からの応援を待っていられない状況になってしまった。スタンピードに移行してしまいそうな段階にまで進んでいるのがわかったから」


 セロー兄さんは、そう言って大きく息を吐く。

 そしてその言葉の続きをスノア様が引き取った。


「ですから、わたくしの青の騎士団も協力させて頂く事にしたのです」


 確かに状況的には仕方ないのかもしれないが、スノア様を守るための近衛騎士団をこのような形で巻き込んでも良いのだろうか?


 そう思い尋ねてみたのだが、


「後でお父様に怒られるでしょうね。でも、一応魔法郵便で許可は頂きましたから、わたくしの『青の騎士団』が参加するのはもう決定ですわ」


 すでに国王様の許可を得ているということだった。


「そうなのですか……。ちなみに、こんな状況だとすると、これは緊急依頼(クエスト)ですよね?」


 ギルドが緊急依頼(クエスト)と認定した依頼は、最優先で受ける事が推奨されており、他の依頼を中断しても違約金などが発生しなくなり、参加する事で貢献度を大きく上げる事が出来るとされている。


「やはりトリスも受ける気か?」


 父さんが少し困ったように尋ねてきた。


「そうですね。家を出たとはいえ、オレはライアーノ家の人間のつもりです。街に危険が迫っているというのに、見て見ぬふりはできません」


 オレはいずれこの街を出ていくつもりではいたが、それでも故郷を大事に思う気持ちに変わりはない。


「しかし、良いのか? トリスは幼い時から戦うための鍛錬を続けてきたのだから、お前がそう判断するならいまさら止めはせん。だが、そこのユイナと言う子はまだ冒険者になったばかりなのだろう?」


 確かに父さんの言う通りだった。

 パーティーを組んでいるのだから、先にユイナと話をするべき内容だった。


「ユイナ、すまない。パーティーを組んだばかりで悪いんだが、オレがこの依頼を受けてる間は、街で待っていてくれないか?」


 オレはユイナをこの件に巻き込むつもりはなかった。

 今回の依頼はかなり危険度の高いものになるだろうし、Eランクになったばかりの冒険者が参加するような依頼ではないからだ。


 しかしユイナは、先ほどまでの狼狽えていた姿が嘘のように、冷静な目でオレを見つめ返してきた。


「トリスくんは何を言っているんですか? ボクも参加するに決まってるじゃないですか?」


 なんだろう……ものすごくユイナが怒っている気がする。


「い、いや、しかし、ユイナは無理に参加しな……「ボクも参加します」」


 被せ気味に否定されてしまった……。


「わ、わかった。それじゃぁ、この後ギルドにいったらパーティーで依頼を受けよう」


 結局、よくわからない迫力に押されて了承してしまった。


「あらあら。息ぴったりね~。ユイナちゃんで良いのかしら? トリスとパーティーを組んでくれたのよね? この子はたまに突っ走る事があるから、しっかり手綱を握っておいてね」


 母さんに話しかけられたユイナは、言葉を返そうとして、今頃になってまだ挨拶すらしていない事に気付く。


「あぁ!? ボク、まだ挨拶もしてなくてすみません!!」


 その後、慌てて母さん、兄さんたちと挨拶を交わし、その日は明日の緊急依頼に備えて、予定を繰り上げて家を後にしたのだった。


 ~


 冒険者ギルドに向けて歩きながら、オレはユイナの機嫌をとるのに苦労していた。


「その、悪かったよ。家のことは隠そうと思っていたわけではないんだが、もう家を出たので、気にしていなかったというか、なんと言うか……」


 しかし、ユイナはオレの言い訳を聞くと、さらに頬を膨らませる。


「トリスくんは全然わかってません!」


 オレは何がわかっていない(・・・・・・・)のかがわからず、困惑してしまう。


「やっぱりわかっていませんね。ボクは家のことをずっと怒っているわけではありません! そりゃぁ、黙っていたのには少し腹は立ちましたし、もうこういう心臓に悪い事はやめて欲しいですが……」


「わ、悪かった。次からは気を付ける。でも、それなら何に怒っているんだ?」


「そ、それは……よくわかりません!」


「なんだそりゃ? 言ってくれないとオレはたぶんまたやらかすぞ?」


 オレがそう言うと、「ぐぬぬ」と唸ってからようやく口を開いてくれた。


「ひ、一人で危険なクエストを受けようとしないでください! トリスくんは普通の回復魔法が効かないんだよ! ボク、心配しながら一人で街で待ってるなんて嫌だからね!」


 ようするに、オレを心配してくれていたという事か?

 その事に気付くと、なんだか照れくさくて視線を少しずらして謝罪の言葉を口にする。


「その、なんだ。悪かったな」


「え……ボクも……その、なんかごめんなさい。口に出して言えばすぐ済む事なのに」


 その後、少し気恥ずかしくなったオレたちは、冒険者ギルドまで口数少なく歩く事になってしまったのは仕方ないだろう。


 ただ、冒険者ギルドに着いたオレたちは、気持ちを切り替えざるをえない事態に遭遇し、浮ついた気持ちは一瞬で消え去ることになる。


 オレたちの目に飛び込んできたのは、騒然となって走り回るギルド職員と、血まみれで倒れる何人もの冒険者の姿だった。


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