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【第104話:二つ名】

「トリスくん! また追加来るよ! 数は四! 前から!」


「ユイナっち、二、三歩下がって待機や! 後ろはもう片付いたで!」


「抜かせない! はぁぁ!!」


 順調に戦いをこなし、地下第二階層へと続く階段のある第一階層最奥まで来たのだが、そこでオレたちは大量の蟻の魔物に囲まれていた。


 あの『穢れの森』での戦いや、ソラルの街の防衛戦と比べれば、全く大した数ではないのだが、それでも普通の冒険者ならばかなり危険な数だろう。


 事実、オレたちの横には、怪我を負った二人の冒険者が倒れていた。

 年の頃は二人ともオレやユイナよりかは上に見えるが、まだ二〇歳前後といったところだろうか。

 二人とも女性で、典型的な軽戦士の恰好をしているが、激しい戦いを繰り広げながら逃げてきたのだろう。かなり大きな怪我をしている。

 たがその怪我も、今はユイナの水属性第二位階の回復魔法で何とか動ける程度までには回復していた。


「まぁこの程度なら問題あらへん。それより、そのはぐれた仲間は問題(・・)やなぁ」


 心配ではなく問題。


 魔球をぶん回しながらメイシーが色々と話を聞いてみた所、どうやら六人パーティーで迷宮に挑んでいたらしいのだが、この魔物の群れに遭遇した時に四人とはぐれてしまったらしい。


 いや……正確にははぐれたとは言わないか……。


「す、すみません。巻き込んでしまって……」


「でも、あんな奴らだとは思わなかったわ!」


 彼女らは、まだこの迷宮都市ガイアスに来て一〇日ほどらしいのだが、他の街でCランクの上級冒険者になった事をきっかけに、迷宮に挑むためにこの街にやってきたそうだ。


 ところが、昨日冒険者ギルドで声をかけてきた四人組の男たちと一緒に迷宮にもぐったところ、蟻の魔物の大きな群れと遭遇した際に囮にされてしまった。

 結果的には、彼女らを囮にして逃げ出した先にも大量の蟻の魔物が待ち構えており、その男たちは囲まれて戦闘を余儀なくされたらしい。


 そして、皮肉なことに彼らの方が囮となった。


 その後どうなったかは確認できなかったそうだが、逃げ出した際に断末魔のような声を聞いたらしく、おそらく既に亡くなっているだろう。


「そ、それにしても、凄まじい強さですね」


「こんな凄い人に会えるなんてね。話以上だわ」


 二人の女性冒険者は、メイシーの魔球を振るう姿に釘付けだ。

 オレとユイナが仮面を付けておらず全力で戦えないのに対し、メイシーは何の遠慮も必要ないので、魔球ドンナーを振るい、凄まじい勢いで蟻の魔物を粉砕していっている。


 オレはその猛威をくぐり抜けてきた僅かな魔物を斬り裂くだけで良いし、ユイナに至っては治療に専念していたので戦闘に参加すらしていない。


「あれ? なんかその感じだと、メイシーさんのことを知ってる感じです?」


 その治療を終えて側にいたユイナが、話以上という言い回しが気になり尋ねる。


「え? もちろんですよ! 『破壊の乙女』と言えば、私の前にいた街では凄く評判でしたよ!」


 は、破壊の乙女……。

 まさしく言い得て妙だな……。


「『破壊の乙女』か……なんか、イメージ通りというか、凄くメイシーらしい二つ名だな」


「ちょっ!? 自分らいらんこと言いなや!?」


「へぇ~♪ メイシーさん『破壊の乙女』とか言う、そ~んなカッコイイ二つ名持ってたんだぁ~♪」


「うん。ポワントンよりかはずっとカッコイイな」


「うわぁぁぁ!? それはいい加減忘れなさいぃ!! そもそも鬼冒険者に言われたくないよ!」


 しまった……これは盛大に自爆してしまったようだ……。


「ん? ポワントンは前に聞いたけど、鬼冒険者ってなんや? 中々面白そうな話してるやん? ちょ~っとお姉さんにも教えて欲しいなぁ~?」


 こんなふざけた会話をしながらも、治療の終わったユイナも戦闘に加わり、あっという間に蟻の魔物を殲滅したのだった。


 ~


 怪我の治療は戦闘中に既にユイナの手によって終わっていたが、聖属性の回復魔法と違い、体力までは回復できない。そのため、今日の探索はここまでとし、戦力的にも不安だという二人の女性冒険者を入口まで送って行く事にした。


 その後、初めての迷宮探索を無事に終えたオレたちは、冒険者ギルドに今回の件の報告に行くという二人と別れて、宿に戻ることになった。


「『剣の隠者』の皆さんに助けて貰えなかったら、私たちはきっと死んでいました。本当にありがとうございました!」


「あの『破壊の乙女』とお会いできるなんて本当に幸運でした! ありがとうございます!」


 メイシーの無双を見たからだろう。

 憧れの視線と共に礼を言う二人だったが、


「うちよりもトリスっちとユイナっちの二人に礼をしっかり言っときぃ。ユイナっちが魔物の魔力を感じ取ってくれへんかったら、そもそも手遅れになってたはずやし、治療したのもユイナっちや。それに、このパーティーのリーダーはトリスっちや。トリスっちが助けに向かうと即断せぇへんかったら……」


 と言って、親指を立てて首をぎりぎりと斬り裂くような動作をしてみせた。


「す、すみません!? トリスさんも、ユイナさんも、ありがとうございました!!」


「ありがとうございました!!」


「ん、まぁ無事で良かったよ」


「ど、どういたしまして! で、でも、メイシーさん、そこまで言わなくても……」


 メイシーの物言いにユイナが苦笑いを浮かべながら声をかけるが、メイシーは「いいや」と言って話を続ける。


「冒険者の良し悪しを単純な強さだけで判断してると、また痛い目に合うからちゃんと言っておいてやった方がいいねん。特に迷宮では役割分担や、指示の良し悪しで命を落とすことになりやすいからな」


 その後、メイシーのためになる冒険者講座をありがたく頂戴した二人は、反省しつつも礼を言って冒険者ギルドへと向かった。


「じゃぁ、オレたちも宿に戻るか」


 宿へと戻る途中、ユイナが屋台で見つけた鳥肉が挟まれた旨そうなパンを、あるだけ買い占めてアイテムボックスに収納していた。

 当分迷宮に籠る事になるし、迷宮内の食事にユイナのアイテムボックスを有効利用させて貰おうという話になっていて、購入資金はパーティーの活動資金から出しているので、いつもより一度に買う量が多い。


 まぁ、それにしても買いすぎな気もしないでもないが……。


 その後、『銀狼の誇り亭』に戻ってきたオレたちは、ほどほどの美味しさの食事をとり、その日は早めに床に就いたのだった。


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