『Finis vinculi lux erat』
「……………………」レミエは其れでも、沈黙していた。
「…………やっぱり、」
ユイルは眉尻を下げてレミエをもう一度見る。
「……やっぱり、下らなかったですか。私の話は、詰まらなかったですか」
貴女にとって。
やっぱりお互い、矛盾し合っているとでも云うのだろうか。
何方かが譲歩していたとしても、行き届かないものなのか。
「私は……」悲しさのあまりユイルの言葉は詰まった。
分からない。レミエが拒絶をする理由が。
彼女から其の苦しさと拒絶の理由を知る事が出来ずユイルもまた苦しんでいる。
ーーああ。レミエさんみたいに感覚で生きられたら良いのに。
歯痒さの中でユイルはレミエを羨んだ。
レミエはーー
一方で、レミエ自身もまた心を閉ざしながら、空虚な黒に囲まれている状態だった。
…レミエは誰よりも想いを尊んていた。
だが尊ぶが為に齟齬を生みやすかったのかもしれない。
勿論其れが悪い事では無い。
然し言葉が足りなかったのかもしれないのも事実だった。
ーー其の結果が今だ。そして、両者は苦しみ、ユイルは心を折りそうになり、レミエは閉ざしている。
変わることの無い平行。
ユイルは此の「微妙な線」を変えようと思って行動をしていた。
せめて以前の様に…
互いに卒無く協力し合えた時の様に…
なのに、離れていた間の時間は意外と計り知れなかった様で、小さなズレが隔てる断層の様になる迄には要さなかった。そういうもの。
ーー結局、何一つ変えられなかったのだとユイルは悟る。
仲良くしていたのは何だったのか、良い関係を築けたと思っていたのは自分の方だけだったのか、レミエ以上に混乱している彼女はもう思考を手放したいとすら思う。
変わらぬ状況に混乱と戸惑いを抱えた儘、状況は外部の変化によってあまりにも唐突に展開される。
ーーユイル、レミエの前にあの天使が現れる。
『リナが君に興味があるんだって』
「…………え!?」目の前に立つ天使の言葉に、最も驚いたのはユイルだった。
其の天使が達、金色の目に見据えているのは蹲っているレミエであるーー何故、神様と呼ばれる存在が彼女に興味を示したのかが分からない。
完全に蚊帳の外の者として、ユイルは更に混乱するだけだった。
「……………………?」
俯いていたあのレミエが、やっとの所で顔を上げた。
ぼんやりと視界の揺らぐ彼女の目には、生まれた影もあってか天使の姿をよく認識する事が出来ていない。
…………大きな翼……
背に大きな翼を持った、男性の天使。
僅かに見える其の白い髪が、レミエがずっと昔に焦がれた者に似ている気がして、彼女は惑う。
ーー夢ならば此の儘微睡んて、覚めては欲しくない。
星の様にぼんやり金色に光る瞳が、まるで彼女の目には明星の目映さの様な色合いに錯覚して、とうとう迎えに来てくれたのかと疲れた向こうの喜びの中に突き落とされる。
『さあ、行こう』
天使は微笑みを絶やさない。
ユイルの視界には、伸ばした手を取る聖女の姿があった。
「レミエさ…っ……!!?レミエさん!!!!?」
反射的に立ち上がったユイルが、何時の間にか開かれていた牢の扉から飛び出して、レミエの空いている手を掴んだ。




