『Rufelsas』
今からだと、大体十程と数年前の事でした。
とある所にエフィサと云う名の小さな国が、まだ存在していた頃の話をしましょう。
ーー世界が。
知る限りではまだ「国」と云う呼称が通用する場所のある世の中でした。
其の最後の「国」が、エフィサです。
エフィサの国主達は「女神」による武力による脅迫を受けて、抵抗はしたものの差は歴然とし、エフィサの国民の全滅に及ぶ前に彼女達と繋がりを持つ事を選びました。
女神……シーフォーンは、強力な武力を得、更に増大させられた事から薄らに気味が悪く恐ろしい微笑みを浮かべました。
…当時の隊長から聞いた限りでは、シーフォーン達女神の表情はまるでここぞとばかりに醜くて恐ろしい生き物を全部掛け合わせてしまった様な微笑みだった、と。
………私が「ルフェルサス」と呼ばれていた最高峰の精鋭部隊に所属していた事はご存知でしたね?
ルフェルサスは、当時世界最高峰と謳われていた武人達の集まりでした。
そも、エフィサには武人気質の人間が多かったので必然的でもありますが。
私も其の一人でした。
女神のやり方に反感を抱く者が多かった。けれども家族、恋人、エフィサの皆の事を一番に想っていたからこそ彼女達に反目出来なかったんです。
女神の歪んだ正義の為に、無辜の民へ向けて白い翼の証を振るう…
残酷な事だったと、日毎夜毎思い出しては今でも私は苛まれます。
私が15歳の頃、同僚の一人が自殺しました。
理由は彼が遺した手記に書かれていたんです。「もう無実の人を殺したくない」とーー
私達は深い衝撃と悲しみを受けました。
勿論、自ら命を絶った彼が遺した言葉の通り、皆も無実の人を殺したくなんかありませんでした。
そして其の頃は未だ女神の使徒として表舞台に立って居なかったものの私自身も強い恐れを抱いました
…………其の気持ちは本物です。
私がーー
私が、何時か、本当に誰かを殺してしまう…そんな日が来てしまう事だけが恐ろしかった。
時は変わって私が21歳の頃になります。
隊長から呼ばれた時、私は密命を受けました。
ーーもう、女神の恐ろしく我儘で勝手通り越した暴政、暴威、暴力にとうとうルフェルサスやエフィサの人間達も嫌気が差し、遂に女神シーフォーンへ謁見したんです。
……結果は察した通り。
『ーーあっそ。私の言う事を聞かないんだ。じゃあ死んじゃえば?てかとっとと死んでくれませんか』
ーーええ。女神の機嫌を損ね、国の意思を背負って謁見した方は目の前で自害を強要され死にました。
「きゃははははははははっ!!」女神はエフィサの頂点に立つ人間を一人一人楽しそうに殺していったのです。
其れは令嬢の散歩の様に、ですよ。
最早エフィサの未来は見えていた。そんな中でした。
隊長に呼ばれた私は、とうとう女神と戦う為の部隊に編成されるんだろうなと思ってましたから、何時でも死んで構わなかったんです。
…が、隊長から言われた事は違って、私は驚きましたが同時に全うしなくてはとも思いました。
其れが、貴女。「"レミエ"の捜索と保護、当代の彼女を守る為に其の身を以て守り抜く様に」とーー
…私が其れを望んで受けた背景にはただ単に密命だからと云う理由だけじゃ無かったんですが。
ーー「エフィサ」の建国神話を何度も読みましたからね。
彼方の聖女レメト、そして彼女を護り尽くした全盲の護人ユーディト。
ユーディト。私の祖先。
私の家名「ユーディルナ」はエフィサの習わしによって決められた、由緒正しいユーディトの末裔である事を象徴するもの。
そして、ユーディルナの人間にだけ伝えられていた、聖女の本当の名前。其れこそ"レミエ"だったんです。
聖女の十字が刺さる此の国が、本来守るべき存在。
使命を全うするべく初めて貴女に出逢った時、全てを確信しました。
国の歴史、一族に伝えられた話。
全てを話し切るのは長いですが…………聖女レメト、護人ユーディトの二人が小さな光に導かれて辿り着いた場所で、彼女が十字を掲げて其の地に刺し、国を作りました。
其の後レメトは何度も「白い翼の天使」に出逢い、対話を繰り返し、そしてエフィサを導いていったんです。
そして彼女はーー天使の手を取り、息絶えました。
残されたユーディトは、彼女が生前に望んでいた名前を、自分が設立した軍の名前に付け、そして国に「エフィサ」という名を付けました。
ユーディトが設立した軍…………そうです、ルフェルサス。
ユーディトがただ一人の友との繋がりを忘れない為に付けた名前。きっと、反芻する様に彼女の最期の言葉が残り続けたのでしょうね。
"何時か、あなたの想いを継ぐ人が、未来の私を見つけられます様に"ーー
分かったんです。
隊長も、きっと知っていたんだと思います。レメトがレミエで、護人の想いを継ぐ人が私ではないかと云う事に。
未来の聖女である貴女と護人の想念を継いだ自分。
遠い縁が繋がって、そして今が存在しているんだと思います。
………だから…
……………………だから…………
だから、私は例え貴女に拒絶され続けても、私自身の望みで、貴女を最期まで守るんです。
力になりたいし、良い友で居たい。
其れが私の心であり、ユーディトが叶えられなかった想いだったのかもしれません。




