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Dea occisio ーFlamma florumー  作者: つつみ
Ara Rinnirea Kin(癒都白塔)
83/125

『Rubrum luceat nubilum in albis insidentes』

ーーあの日から2日後の明け方。一行は次なる塔の攻略の為に準備と休息を得、そして約束の通りに早く起きて揃った。

「ふわぁ〜ああ、眠いよ〜……はあぁ〜……………………」

オディムが情けない大欠伸と言葉を吐く。

「どうせ夜更かししたんでしょうオディム。エムオルと一緒に何していたんですか……」サフィーがオディムを窘める様に返し、オディムの目元を見ては呆れた溜息を吐く。

「別に良いじゃんかちょっと遊ぶ位は…」オディムがやや不満そうにサフィーを見た。

















「…ふふ、二人共仲良くしなくてはいけませんよ?」二人の後ろからユイルが微笑ましそうに声を掛けてきた。序に眠たげなオディムの背中を盛大に叩く。

「あっ、教官!!」

「ひぇっ!!す、すみませんでしたぁぁぁ〜痛って!!!」

バシッ、と背中を叩かれたオディムはしゃきっと姿勢を正す。どうやら目を覚ましたらしい。

「夜更かししたら起きるのが辛くなりますからね。ほら!!癒都迄は鎧馬に乗って行けるとは言え落馬でもしたらどうするんですか!!!」

流石にユイルの言う通りだった。



ーー此の場にユイルが居る事自体少し可怪しい話なのだが、理由がある。
































ーー事の経緯は機関を出ようとしていた夜明けだった。

















「ーー……復讐者さん。私もーー同行させては頂けませんでしょうか」

彼女の瞳は何時に無くきりっとしていて復讐者ですら少しだけ焦りを見せる。

「…………何故、」

「何と無く…ですが、レミエさん………関係と仰りますか。白塔…………何だか胸騒ぎがするんです。私、皆さん方の足を引っ張ったりはしない様に心掛けます、連れては行って下さらないでしょうか」

ユイルは少し悲しそうに目を伏せた。

「レミエさんが私に対してあまり良い態度でも、感情でも無いのは薄々気付いておりました。でも彼女は私にとって気の合う親友の様な存在なんです。ーー私が勝手にそう思ってるだけで、彼女はそう思ってはいないのかもしれませんでしょうがーー」

彼女は顔を上げ、一転して苦笑を浮かべる。

「最近のレミエさんはきっと沢山の無理をしていると思います。だから、私も力になりたい」

避けられてもーーと、彼女は胸の内を明かして、復讐者に願った。

「…………白塔攻略への同行を」









ーー彼女の姿越しに、復讐者にとって大切な人だった者の力になりたいと願った、嘗ての自分が映った気がした。


「やっぱり駄目でしょうか」

催促するユイルの声にはっと意識を戻らせ、

「………ああ、いや、同行は構わない。でも、生きて帰る事が一番の目標、という条件でなら」

「…有り難うございます!!」

ユイルの、彼女の深緑の瞳に差した光が芽吹き始めた緑の様に輝いた。

















































ーー長い道程を鎧馬に乗り、やっと癒都へ辿り着いた。

「…此処………女神リンニレースが嘗て居た場所……………………」

ユイルの強い眼差しは聳え立つ白塔に注がれていた。




…ふ、と視線を僅かに感じて其の方向を見る。

ーーレミエだ。彼女は、矢張り目が合った瞬間に顔を背けてしまった。

「……………………」ユイルは少しだけ悲しくはなったが、同行している以上余計な負担は掛けさせまいと何とか笑顔を取り繕った。レミエ本人の目には届いていなくても、彼女は笑顔を絶やさない。


「…皆、準備は整っているな。天使の隙を掻い潜りながら白塔入口まで目指すんだ。捕まるなよ」

復讐者は鎧馬から降りて、癒都の塀を伝う事にした。ーー幸いにも天使は()()現れていないらしい。

「では、行きましょうか」

エインの一言に始まり、一行は散って白塔入口へ向かって走り抜ける。

















ーー案の定、塔の回廊部から天使達が舞い降りてきた。

『さあ、今日も君達の事を愛そう』

『リナの愛を届けてあげるよ』

『俺の愛も受け取って!』

貼り付けた笑顔を、蔓延る屍者へ惜し気も無く向けた。

『さあ、リナの愛を受け取りに行こう』

『俺達と一緒にリナの所へ行こう。彼女に愛されれば君達も素敵になれるよ』

『リナは君達の事も愛してくれるさ』

『リナと』『リナと』『リナと』『リナと』『リナと』……………………。天使達は今日も屍者を愛の光で殲滅す。

「リナトリナトと喧しい」天使達の注意が屍者へ引き寄せられている事を機に、復讐者は塀を素早く伝って一気に白塔の入口までの目指す。


ーー…足元に気を付けながら、天使達の行動を注視していると、彼は天使達の妙な行動に気が付いた。

(…再虐殺した屍者を白塔へ運んでいる………?)

白い服を赤く染め、白い手を汚し、赤のストラを血染めで深紅へ変える。…そんな天使達が自らの手で殺戮した屍者を塔の高い所へ運び去っていってるのだ。




………そして彼等は屍者を運ぶ時、皆同じ事を言う。


『さあ俺達と行こう。リナが待つ救いの塔へ』


変わらない、貼り付けの笑顔。

























…「救いの塔」ね。再び殺した屍者をどうするつもりなのかは兎も角。


「連中、何を企んでいるんだ…?」

疑問を抱くよりも早く、彼は塔の入口にまで辿り着いていた。

「着いたっ」其の儘塀から飛び降りて、塔の入口から素早く侵入した。…どうやら天使に気付かれずに済んだらしい。




「屍者に夢中で侵入者対策を取っていないとは…とんでも無い()()だな」

………後は他の仲間。


「お待たせしました。オディムとエムオルは回収済です」

エインが小脇にオディムとエムオルを抱えて入ってきた。

「そ…そうか。レミエさん達は」

「どうでしょう?サフィーは何とか此処まで来れそうですが、レミエさんとユイルさんが…………………」

「遅れそうか」復讐者は魔力弾を装填する。

















「きゃあっ!!!!!」

サフィーが天使の放つ閃光を危うく受けそうになる。

更に不幸な事に少女の悲鳴に気付いて、天使が彼女の方を見た。

見付かってしまったのだ。









「!!!!」

サフィーはハッとして急いで逃げる。

『君も愛が欲しいのかい?』微笑みを湛える天使はサフィー目掛けて燃える赤い翼を羽撃(はばた)かせ、凄まじい速さで追って来た。

「っ!!させるか!!!!」

復讐者が魔力の弾を天使の両翼に向けて撃つ。

『くっ、あぁ……っ!!』両翼を撃たれた天使は飛翔能力を損ない、其の場に倒れ伏せる。

「ああぁぁぁぁ!!!!!」

「う゛う゛ぅあ゛ぁぁぁぁぁ!!!」

空かさず屍者が群がり、天使憎しと其の背の翼を揉ぎ取り、腕を、足を、頭を、目玉を、肉を、骨を。



無惨にもバラバラにされた天使の赤い血溜まりが不気味な位に白い癒都を穢した。




「〜ぁったぁっ!!!」

サフィーは滑り込む様に塔の中へと侵入した。

「よく頑張りましたね」エインが少女へ労いの言葉を投げる。

「…いえ、いいえ!!エインさん!!ありがとうございます!!だけど、まだ労われるのは早いです!!!」ぐっ、と身を起こしてサフィーは微笑みながら強く返した。

「そうでしたね。労いは塔の破壊の後に、ですか」サフィーの強い返しに、エインも思わず驚いたが意図を汲み取って彼もまた微笑みを返す。

「呑気にしていられないぞ、…天使は魔力で両翼を撃ち落とせば良いのか…」

意外な弱点の発見に復讐者は活路を見出したと同時に、何で早く気付けなかったのか少し後悔した。

































…塔への侵入が叶っていない者は残す所レミエとユイルの二人のみ。早く全員侵入しなければ塔に跋扈するであろう天使や教団の人間が捻じ伏せに掛かってくるかもしれない。

待つのにも限界はある。早く…早く…、二人共、早く…………。


ーーだが。









































「キャアアアアーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

癒都を響かせる高い悲鳴。

「!!!!!!!!」一行の耳にもあっさりと届いた其の悲鳴の主は。

















「!!!!」ばっ!!と復讐者が外へ駆け出したと同時に、飛び込んで来た光景が彼の想定外の事柄であったが為に、復讐者は呆然とした。

「…………っ、レミエさん!!ユイルさん!!!」

悲鳴の主はレミエらしい。そしてユイルは天使の腕を振り解こうと必死に身動ぎ抵抗する。

「どうしたんですか!!…あっ!!!」

サフィーか復讐者の後に出た後、同様に呆然とした。塔の中に居た三人が気掛かりに出ても其れは同じであった。


「っぐ…離しなさいっ!!!っこの!!レミエさん!!!!」

ユイルがレミエへ向かって手を伸ばすが、レミエは悲鳴を上げながら抵抗するだけで伸ばされたユイルの手を取ろうとはしない。

(っ…レミエさん………)ユイルは彼女の強情さを少しばかり呪った。だけど、其れでも大切な友を助けずにはいられない。


「レミエさん…っ!!手を!!!貴女も伸ばして下さいっ!!!!」

「っ…!!!!」ユイルの言葉を拒絶する様に、レミエは手を取らないし、伸ばさない。

そうしている間にも天使達は二人を白塔の何処かへと連れ去り、そして復讐者達の目にも届かなくなった頃、二人は白塔の中へと吸い込まれる様に消えてしまった。

血と炎の翼を持つ天使達と共に。



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