『Effugium』
「く………そ……………………!!!!」
半ば宙吊りの様になる復讐者。
ーー詰んだ。打てる手が無い。
魔力の弾を撃てる銃化黒剣で撃てる魔力弾にも限界がある。ニイスの居ない今、復讐者自身の魔力では先のと合わせて三発が限界だ。
其れに被弾させられたとしても行動に影響をあまり及ぼさないと見ているし、何より避けられてしまっては元も子も無い…………
そうしている間にも、天使と共に復讐者は何処かへ連れ去られている。
ーー白塔だ。屍者と違い生者であるからなのかは分からないが、復讐者の身柄は白塔の方へ引き渡される最中だった。
…恐らく、塔の主である"神様"とやらに彼の生殺を委ねるつもりなのだろう。
余裕からなのか、天使は微笑んでいる。
『今度こそ君を救っ…………………………………』
途端、天使の動きがぴたりと止まり、其の場で低く滞空する。
「オオオオオゥアアアァァァ!!!!!!!!」
先程と同じ様な言葉を天使が全てを言い切る前に、天使の身体に大勢の屍者達が雪崩込み、其の身体を掴んだ。
『!?』
「ウアアアアアぁ!!!」
「ヴゥー……ヴゥー………ウー……」
まるで縋る様に天使の身体を強く掴む屍者達の姿は鬼気迫るもので、既に死んでいる筈なのに、其の目はたった一人の生者である復讐者を助けようと爛々とギラついている。
(屍者にも意思が残されていたのか……………………)
復讐者が屍者達の行動に一種の驚きを秘めている中で、最も不愉快に感じている天使は、屍者達を一瞥して、そして語る。
『…そういう事は良くないなぁ。リナが悲しんでしまうよ』
ーー救いを邪魔するな、と。
感情の変わらない声の儘で、そう言いたそうに振る舞った天使は、空いている方の手を翳し上げた。
ーー十字の光。瞬時の輝きから放たれた無数の光が縋る屍者達を刺し貫いた。
「ギャァァァァァァァァァ…………」
一人、また一人と屍者達が落ちてゆく。
其れでも屍者達も簡単には諦めない。一人が落ちればまた一人が掴み、また誰かが落ちれば誰かが其の穴を埋める様に現れる。とうとう天使も無意味な殺戮に嫌気が差したのか、はたまた。
ーーブチッ!!!!!!!!
…………攻撃の手を止めるよりも、屍者達が掴んだ血と炎の赤い翼が手折られる方が早かった。
『あっ…』背の翼を手折られ、羽を毟られた天使は屍者の波に呑まれてゆく。
……プジュ、ブチッ、ブチッ、ブチッ…
一人が毟り取れば、続いて天使の羽を毟り取り始める。
屍者達は地に落ちた天使の、其の背の翼を更に揉ぎ取り、天使へ対する復讐のつもりか、集団で寄り集っていた。…何をしているのかさえ想像もしたくない。
ブツッ、グジュ、グジュ…と不気味な音が屍者の密集する所から聞こえてくる。
「うわっ」屍者の居ない地点へ何とか降りれた復讐者は、奇妙な音への興味もあって思わず後ろをちらりと振り返り一目見た。
ーー屍者の密度の高い場所から、天使の腕と思われる部位と、毟り取られた羽がどろりと溶けて微弱な炎を噴き出す赤黒い血に変わっていったのを目にした。其れと同時に羽の影響で屍者達の腐肉が焼けているのか、吐きそうになる程の腐臭と肉の焼ける臭いが鼻を劈く。
…密集する其処には、赤黒い血溜まりが出来ていた。
(他の天使達も動乱を収める方で此方には気付いていないみたいだ…今なら戻れるな……)
思い立って即行動。復讐者は屍者達に感謝を向けて魂の救いを願い、素早く鎧馬の元へ走り出した。
少し高めの柵を駆け上がって飛び越え、鎧馬に直ぐ乗る。
「事態について逸早く手を打たねば!!」
目的地は永世不可侵領域。帰還先はリプレサリア。鎧の馬を走らせ彼は焼けた荒野を駆け抜ける。




