『Mortuus est hortus』
傷を癒やす都は感染の地となり、
病は蝕み、死が彷徨う。
暗い空に徘徊する黒。
白い塔より舞い降りる血と炎の赤い翼。
翼の赤と瞳の金を除いて天使は白く、白に映える赤い翼さえ無かったとしたら白い青年とでも呼んでいた事だろう。
同じ姿をした者達が、蠢く黒を捕らえ、殺してゆく。
宛ら獣の狩り。或いは慈悲無き審判。
侵入経路を探すどころの問題では無かった…………
復讐者は痛感する。
救いと称した殺戮を始める光景をただ呆然と見届けてしまう程には、あまりにも惨たらしく、そして揺さぶられて動揺してしまった。
屍者達への殺戮により、不気味な程の白さは所々を赤く染め上げ、天使達も何の嫌悪も抱かずに屍者達の血で赤く染まる。
『愛してあげるよ』
『愛を届けに来たんだ』
愛と云う言葉を吐きながら、貼り付けた笑顔の儘手に掛けてゆく。其れすら不気味に思えてならなかった。
女神達の横暴とはまた異なる其の行為に復讐者は更に吐き気を催す。
(くそ…早く此の場から離れなくては………)
胸焼けする程の怒りの情を綯い交ぜて、彼は外壁を飛び降りて戻ろうとした。
ーーが。
『君も愛されたくて此処に来たんだろう?』
「ーーしまっ、た…」
暗くなった足元に気付いた頃には、もう、背後に天使の一人が立っていた。
嗚呼、遅かった。
其の大きな血炎の翼を広げて、彼は愛を口にする。
『君にも神様の愛を与えてあげるよ』
…にこりと微笑んだ天使の、何と見目の良くて悍ましい事やら。




